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全ての繋がる物語  作者: 柳葉揺
世界崩壊
6/16

―三日―


「はぁー……。久しぶりにのんびりしてるなー」


朝九時過ぎ、アルスたちは特にすることも決めてなかったので、ファイの泊まっている部屋にいる。その中、軽く伸びをしてアルスが呟いた。そんな様子を見てファイは、


「アルスって、本当にのんびりするのが好きね」


と突っ込み、軽く溜め息を零した。そんな様子にムッとしたアルスは、眉を少しつりあげて答えた。


「戦闘民族だからって好き好んで戦ってるわけじゃ無いんだぜ?」

「アハハ、ごめんごめん。冗談だよ」


ハァとため息を吐き、アルスが椅子に腰掛ける。


「今日一日はどうせ暇するように決めたんだから、どうせなら城下町でも行くか?」


アルスからの突然の申し出に驚くファイ。でもすぐにコテンと小首を傾げる。


「え、いいの?」

「あぁ。この面倒ごとに巻き込んだのはオレだしな。余裕はそんなにないけど、一日ぐらいならファイのワガママに付き合ってもいいぜ」


その声にベッドの上に座ってたファイは歓喜の声を上げた。


「嬉しい!!えっとねぇ……」


丸テーブルの上に置いてあったパンフレットを手に取り(恐らく宿側の配慮であろう)あれこれ思索をし出すファイ。このままだと多分自分が持たないと踏んだアルスは忠告を加えた。


「因みに敵と戦う。他の街に行く。金額の合計は2000マルク(一万円)までだからな」

「えー!!」


露骨に反論するファイにアルスは嘆息しながら答える。


「また忙しくなるんだからそれなりに節約なりなんなりさせてくれよ。それに、金額面に関しちゃ、かなり奮発してんだぞ?」


そう。2000マルクはアルスの自腹である。その言葉に、うっ……と言葉を詰まらせるファイ。


「ま、あんまはしゃぎ過ぎないでな」

「ん?何で?」


小首を傾げるファイ。それに対ししっかり想定内の答えを出すアルス。


「知ってんだろ?うちの民族、国から蛮族扱いされてんの」


その言葉にあ……とうなだれるファイ。


「ごめん、アルス。嫌なら無理に行かなくても……」


その答えは実にファイらしく、思わず吹き出し、ケラケラ笑うアルス。


「今さらそれ自体は大したことはねぇよ。ただ羽目を外さないよう釘を刺しただけだよ」


椅子から立ち上がりぽふぽふとファイの髪を撫でる。アルスの行動にファイは少し顔を赤らめる。


「だから、オレに遠慮すんな。行きたいとこがあるなら言え。でなきゃ、今日一日宿で過ごすことになるぞ?」


ニヤリと口角を上げて告げるアルス。その言葉に慌て半分、安心半分みたいな顔でこっちを向く。自分と違う黒の瞳に思わず見惚れる。そしてファイはこう告げてきた。


「じゃあ……食べ歩きしたい!」


何となく出会ったときのことを思い出し、ほんの少し笑いを零す


「うしっ。じゃ、準備して行くか」

「うん!!」


ぶっきらぼうに言ったその言葉に目を輝かせて答えた。



「ん~、おいしい!!やっぱショートケーキっていい!」


口に運び、食べるたびに頬を緩めてへにゃりと笑うファイの姿にオレは何となく安心感を覚える。今、オレはファイの希望で食べ歩きをしている。しかし、ある有名スイーツ店に入り、ケーキを五品ほど頼んでいる段階で、世間一般は食べ歩きとは言わないと思う。だが、オレも一品食べて紅茶まで飲んでいる。あまり人のことは言えなさそうだ。自分の楽しみと最後の一口のケーキを食べる前に、未だ口をつけてなかった紅茶を啜ろうとすると、ファイの質問が飛んできた。


「ねぇ、アルス」

「ん?」

「アルス、チョコレートケーキだけでいいの?」

「甘いの好きだからな。これがあればしばらく持つぜ」


そう答えて、ほんの少し紅茶を飲む。甘さが口中に広がり幸せだ。


「てか、アルスって……ものすごい甘党?」

「へぇ。よく分かったな」


少し目を見開き感心する。しかしその答えに、ファイは軽く溜め息を吐いた。


「そりゃ気付くでしょ。紅茶の中に角砂糖を十個も入れる人初めて見たよ」


その言葉に疑問符を浮かべる。


「そうか?少ないと思うけど……。ちょっと飲んでみるか?」

「……じゃあ、一口だけ」



完全に油断をした。角砂糖十個とは、きっとカップ一杯の紅茶には荷が重くなるものだろう。それはきっと、溶解度限界のものであったのだろう。自分の興味本位と好奇心をこの時だけは呪った――byファイ


「ぶっ!!!あっっっっっっま!!!!!!」


周囲の目も気にせず吹き出してしまったが構うほど余裕はない。慌てて自分の紅茶を飲む。この時私は人間、案外適度な苦味が必要な事を確認─いや、確信した――byファイ


「お、おい。大丈夫かよ」


思わず冷や汗を垂らす。何か言われるだろうと思ったが、彼女にそれほどの気合いはなかったようだ。


「よくもまぁ、普通に飲めるわね…ケホ」


甘さの噎せがまだ軽く残っているのか軽く咳払いする。


「親父の方が凄いけどな。二十個は入れてたし……」

「うわっ……。聞いてるだけで胸焼けが……」


露骨に引く量を聞き、ファイは目元を抑える。その様子を横目で見て、ファイが落ち着くのを待ち、落ち着いた頃を見計らって声を掛ける。


「なぁ、ふとした疑問なんだが…いいか?」

「私が答えられる範囲なら」


さっぱりと答え、手元のフォークでミルフィーユをつつく。この質問は踏み込みすぎかもしれない。彼女の傷を再び抉る様なことになるかもしれない。きっとこれは聞かなければならないこと。


「どうして旅をしていたんだ?」

「ッ!!」


その問いを出した瞬間、彼女の顔から笑顔が消えた。


「くだらないことを聞いた。悪い。今のは忘れてくれ」


やはりと確信し、さらりと謝る。今は触れない方がいいだろう。


「ううん…。言えない私がいけないんだもん……」


いつもの数十倍覇気の無い声。見ていていたたまれないファイの様子に、だー!と声を出す。注目を浴びたがさっきので一度浴びてるんだから問題はない。もう気にしないことだ。


「この話は終わり!で、次はどこ行きたい?」


せめて今日一日、ゆったり過ごして彼女の傷を癒したい。そんなちょっとした気遣いだった。すると、少し覇気も戻ってきたのか少し考えて出てきた答えは。


「麺類…食べたいかも」

「なら、オレの知り合いの連中がやってるとこあるから、そこに行くか」

「うん!」


やれやれ、そんな無邪気な笑顔…。是が非でも護りたくなるじゃねぇかよ…。

そんな風に一人胸中で呟き、代金を払い店を出た。



「ここ」


アルスの案内で着いた店。パスタを中心とした料理を出す知る人ぞ知る隠れた店だ。適当なオーダーをして、


「?アルス、どうしたの?」


先程からずっと一点を見つめているアルス。声を掛けられ正気に戻ったのか、あぁ……と声を上げる。


「いや……あそこの席の奴、知り合いの気がするんだけど……」


アルスが呟くとその席に座っていた人物が立ち上がった。食べ終わったのだろうか、会計に行く途中、アルスと目が合い、あ!と声を上げた。


「アルス…?アルスじゃねぇか!!」

「やっぱお前か、彰吾!」

「こんなとこいるなんて聞いてねぇぜ!一体どうして!?」

「あーいや、話せば長くなるんだが……」

「スト────ップ!!!」


制止の声を出したのはファイだった。仲良さげにしれっと会話する二人に問いかける。


「ねぇ、アルス。この人誰?私、一向に話が見えないんだけど……」

「あぁ。紹介するよ。こいつは彰吾─山下彰吾って奴だ」

「よろしく」


軽く片目を瞑りあいさつをする青年。恐らく、年齢は自分と変わらないくらいだと思う。と思っていたら思わぬ爆弾を投下してきた。


「で、アルス。こいつ、お前の彼女?」

「なっ……」


その言葉に顔が熱くなるアルス。同じような様子のファイ。しかしアルスが正気に戻った瞬間尋常じゃないほどの殺気を出した。


「わ、悪ぃ、悪ぃ。こいつをやるから許してくれ」


荷物の中から小瓶を取り出し、手渡す。


「いつものあれ……な」

「おぉ、丁度欲しかったんだ」


からりと言った言葉に彰吾の顔から笑みが消えた。


「アルス……。まさかお前……今度は何をやる気だ」

「はっ。心配すんなって」

「まぁ…いいけどな。じゃ、オレはこれで失礼するぜ」


頬を掻き、軽く手を振って去っていった。


「仲がいいんだね」


笑いを堪える気すらなくクスクス笑うファイ。


「あれば単なる腐れ縁だよ」


やれやれと溜め息を吐いていると料理が出てきた。どうしようもないのでひとまず食事にする。先ほど結構食べたのでそんなに時間をかけずに店を出て目的地を決める。次は、雑貨屋だ。



「あ、これ可愛い!」

「………」


手に取りカゴに入れる。ただただそれだけのことを、アルスはひたすら眺めていた


「あ、こっちのもいいかも!」

「おーい」


再びカゴに入れる。そして、その様子を永遠と三十分以上眺めていたアルスは制止の声を上げた。


「ん~これもいいかも…」

「もしもーし」

「まぁいっか、入れちゃえ!」


またしてもカゴに追加される。ブチッとどこかで切れた音がした。あ、これオレキレていいんだよね?とアルスが脳内判断した直後、店内に怒号が響き渡った。


「ファイ=ルシル!!」

「はい!」


反射的に姿勢を正して声の方向に振り向く。そこでは笑顔で腕を組んでるアルスがいた。


「それ、全部買うつもりか?」

「え?そうだけど……」


今さらそんなことを聞くのかという様子で言ってきた。その様子に嘆息し、笑顔は呆れ顔に変わった。ただし腕を組むのはそのまま。


「金額、計算したのか?」

「ふぇ!?」


やっぱな…。ポリポリ頭を掻きながら告げる


「これを全部買った金額は1650マルク。一方のオレたちの所持金は1300マルク」

「えー!」


ファイの両手のカゴにどっちゃり入ってる商品。商品をカゴに入れるたびに金額を足していった結果、見事に所持金を上回る1650マルクとなった。字は読めなくても計算は里でも買い物すれば必要なので出来るようにはなっていた。ファイが非難の声を上げるが気にしない。金もあると言えばあるが、宿の部屋の中だしついでに言うと、残り金は宿代だ。持ってきてやってもいいがそんなことをするとこの期に及んで野宿になってしまう。せっかく王都にいるのに野宿なんて、こっちは願い下げだ。


「そもそも宿なんだし、レイアウトもへったくれもねぇぞ」


わざとらしく溜め息を吐く。


「だって……」


上目遣いに見つめるファイ。その様子に思わずドキッとしたアルス。そんなファイの様子についに折れた。


「あーもう……わかったよ。その代わり、三つまでだからな」


その言葉に目を輝かせる。


「本当に!?アルス、大好き!!」


突然言われたアルスはその言葉に顔を赤く染める。


「バッ……、店内でんなこと言うなって!」


あ、なんて間の抜けた声で周囲を見渡すと地味に白い目で見られてるのは確かだった。


「アハ…アハハハ……」

「笑って誤魔化すなって…」


心配の種が尽きないと嘆くのをよそに、ファイは三つの厳選を始めた。長引きそうだと思いながら、どこかで飲み物をこっそり買いたい気分のアルスだった。


一時間後


ようやく購入が終わり、日も暮れてきた。帰路に着こうとしたところ、ファイが立ち止まった。


「どうした?」

「…アルス。もう一ヶ所だけ付き合って」


そう訴える彼女の目は本気だった。考えるまでもない。そう思い、アルスは何の躊躇もなく頷く。それに彼女は小さくありがとう。と呟いた。

彼女の最後に寄りたい場所、それは───


「…海か。潮風がいい感じだな」


荷物を置き、クッと軽く伸びをしていると、固く口を閉ざしていたファイが口を開いた


「私…私ね…」

「うん?」

「旅をする前は、ある村にいたの。多分、地図にも載らないような凄い小さな村だったの

そこの人たちが、捨て子だった私を育ててくれたの…」

「ふむ……」


相当考えて切り出したのだろう。声がほんの僅かに震えている。その様子にアルスは心持ち、姿勢を正した。


「大きくなった私は、そのことを知ってから村の人たちに恩返しのつもりで短剣を手に取ったの」


かなり壮絶だと思うが、自分も五歳くらいの時には既に槍を持ってたから何も言えないかと胸中呟く。


「村の中に魔物とか盗賊とかが来たりしてたのは知ってたからね。だけど…………だけどある日ね…」

「何が……あった?」


なるべく優しく聞いてみる。しかし、ファイの声音は明らかに弱く、切なくなっていった。


「盗賊が行商人に変装して村に来て、私はそいつらを入れてしまったの」

「!!」

「案の定、奴らは好き放題やって行ったわ…。その時、村の人の三分の二が亡くなったの」

「……」


思わず下唇を噛む。ケーキを食べながらの時の質問を愚かしく後悔する。あまりにも、笑顔で隠すには重かった。


「奴らがいなくなった後、私は『お前さえ拾わなければこんな事にはならなかった』

そう言われて私は私刑されたわ……。それで、村を出たの」

「っ……」


あまりに酷い……。アルスがそう思い始めた段階でファイの声は、完全に涙が入っていた


「今も夢に亡くなった人たちが出てくるの…。当たり前だよね…。私が……殺したみたいなものだの」


そう言い涙を拭うファイ。その様子を見た瞬間、考えるより先に体が動いていた。ファイに近付き、その細い体を抱き締めた。それに酷く驚くファイ。


「アル…ス……?」

「お前は悪くない」

「えっ……?」


そんなことを言われるとは思ってなかったのだろうか思わずポカンとする。それを気にした様子もなく、アルスは抱き締める力を強めた。


「悪いのは責任転嫁した村の奴らだ。お前は何一つ悪くない」


その言葉に思わず涙が止まる。そしてアルスの腕の中で反転し、顔を上げ、お礼を言った。


「…ありがと、アルス」


そしてそっと微笑む。それがあまりに魅力的で顔が赤くなったのがバレるのが嫌で抱き寄せる。そして、今まで思ったことを囁いた。


「やっぱ、お前には笑顔が似合うよ」


その言葉に負けず劣らず真っ赤になるファイ。そして、


「バカ……」


そう呟き、ファイも心地よい腕の中にもたれることにした。波の音がそっと響いていた。


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