―四日、前半―
「ここか?」
「えぇ、そうよ」
オレたちは、今王都に戻ってきて、強くなるために闘技場に参加する事にした
「闘技場へようこそ!どの闘いに参加しますか?」
受付の女の人の営業スマイルに迎えられファイがエントリーをし始めた。
「二人組で戦うのってあるかしら?」
「ダブルバトルですね。少々お待ち下さい…」
そういい、手元の機械で何やら調べだした。
「本当に強くなるのかねぇ……」
頭の後ろを掻きながら半信半疑で呟くアルス。
「もー。そういう事言わないの」
ちょっと拗ねたように少し頬を膨らまして言うファイが、ちょっと正直可愛くって動揺したアルス。動揺を隠しているとどうやら調べ終わったようだ。
「大変お待たせしました。エントリーネームを教えて下さい」
「アルスとファイよ」
「はい、少々お待ち下さい………はい!!登録しました!どうぞ控え室に」
「ん?控え室?」
ちょっと待て、ここは受付の窓口以外何もないし、どこかに通じそうなドアもない。アルスが顎に手を当て、下を向いた瞬間嫌な予感がした。まさか………そう思った瞬間。ガコンと音を立て突然真下の床が開いた。
「マジで…!?」
「嘘でしょ──!!」
考えだした瞬間、足下にちょっと切れ込みがあったのに気が付き、教えなかった受付の人に割と本気で殺意が湧いた。
重力と言うものは、常に重いものが先に落ちるというのが持論である byアルス
必然として男の方が先に着地するものである。
「痛ッ!」
落ちた衝撃を足で吸収したが、吸収しきれず体勢が崩れる。一呼吸置く間もなく。
「キャッ!!」
「グベヘッ!」
「あ、ご、ごめん!アルス!!痛かったよね…」
真上から落ちてきたファイにすごい勢いで潰された。それに慌ててファイが飛び降りる。
「平気だからいいけどさ…」
嘘。正直結構厳しかった。重量加速度って凄いと思う。そうしている内に騎士みたいな人が来た。
「アルス様とファイ様ですね」
「え、あ、はい」
「こちらにどうぞ」
古くさい音を立て、鉄製の扉がゆっくりと開いた。
「御武運を」
「行きましょ」
「あぁ」
アルスたちは会場の熱気の中に向かう。闘技場に入り、猛烈に押し寄せる津波のような歓声に迎え入れられる。アルスたちはそのまま中央より10mほど後ろで立ち止まると、実況席の司会の人がこういう場特有のテンションで話しだした。
「さぁ、今回のダブルバトルのチャレンジャーはアルス選手とファイ選手だぁ!!」
その言葉の後に歓声が更に大きいものとなった
「さぁ…早速一回戦を始めるぜ!!READY……GO!!」
司会の開始の合図に、反対側にあった鉄の格子が開き、魔物が二体出てくる。そして出てきたと同時にその二体が遠吠えをするのを見ながら二人は武器を構えた。
「ふーん。狼の魔物のようだな。この間のやつよりかは強そうだな」
「ま、肩慣らしにはおあつらえ向きじゃない?」
「確かにな」
苦笑いをしながら槍を振りまわす。うむ、調子はいい。アイコンタクトで一体ずつを受け持つことを決めると疾走して一体を引きつける。二体が同時に来たが、間にファイが滑り込んだことでたたらを踏んだ様で一対一の構図が出来上がる。疾走していた足を停めて身を捩り反転、魔物の元へと踏み込む。
「そぉら!」
掛け声と共に連続突きを繰り出し、抵抗意思の無くなったところを薙ぎ払って片付ける。そしてアイコンタクトでファイに指示を送る。
「オッケー。私も行くわよ!!」
ファイも駆けだしながら、ポーチの中から短剣を大量に取り出す。
「そーれっ!」
短剣の根元に括りつけてある糸を掴んでぶん回す。シンプルな攻撃に怯んだ瞬間、二本を掴んで切り裂いた。そのまま倒れる二体を見てアルスたちはハイタッチをする。すると司会の声が響き渡り、再び歓声が上がった。
「チャレンジャー強い!!なんと一撃で仕留めてしまったー!!さぁさぁ、肩慣らしは終わったのなら息つく暇は無いぜ!二回戦開始!!!」
再び鉄格子が開いて現れたのはどうやら四体。二体は先程より大きめの狼。後の二体はゴーレムのようだ。となると、短剣はどちらに対しても不利だが、アルスがゴーレムを引き受けるしかないだろう。
「ゴーレムは引き受けた。狼の方は頼む」
駆け出し、ゴーレムを引き付けるアルス。狼の眼が一瞬釣られた瞬間、ファイはポーチの中から小瓶を取り出し、蓋を開け短剣を中の液体に浸け、刹那を逃すまいかと走る。
「よそ見してたら危ないわよ?」
両手に持った短剣でそれぞれ一体ずつ斬りつける。狼魔物が牙を向いて唸り声を上げると、急に脱力したような仕草を見せて崩れ落ちた。
「この瓶の毒…即効性でしかも血液に対して拒絶反応起こすのね…。いくつかまた補充しとこ」
付着した血と毒が反応して泡立つのを気にも留めずに付着物を払いながらファイが呟き、アルスの方を見やる。
「太刀傷よ、響け!豪魔破壊槍!!」
ゴーレムを斬って傷付け、斬った時の勢いのままに一回転しながら槍の先端に持ちかえ柄で傷の部分を叩きつける。
「ゴォ…ォ」
「チッ。やっぱ柄じゃ思ったほどじゃねぇか…。ふっ!!」
ぼやきながら今度は広がった皹に刃を突き立てる。するとそこから崩壊して動きを止める。二体目も似たような感じでやると一体目よりもあっけなく終わった。
「強すぎるぞチャレンジャー!!二回戦も楽々突破だぁ───!!」
「アルス、やったね」
「ははっ。ま、気を抜かずに、次行こうぜ」
「さぁ、チャレンジャーの快進撃もここまでか!?」
「おいおい……。勝手に決め付けられちゃたまったもんじゃないって」
「そうよ。やってみなくちゃわからないわよ?」
ぼやきながら槍を斜めに構えるアルスと胸元で短剣を構えるファイ。どちらも戦闘準備は万全のようだ。
「ならば行きましょう!!闘技場最強魔物カモン!!!」
すると先程同様に格子が開――否、壊れた。そして直後から聞こえる重低音の足音。巨体の一部が見えて冷や汗が流れ、全身が見えたときには観客が絶叫した。そして、その魔物は遠吠え、否、咆哮をした。その正体は。
『………』
呆然とその魔物──ドラゴンの全長を眺める二人。
「でかっ!!」
「大体あれ5m以上は絶対にあるわね……」
呆然と呟いていると、司会がとんでもないことを口にした。
「さぁ、観客の皆さんは逃げて下さーい!!」
その言葉に思わず二人は司会者を見る。
「は!?」
「どういう事!?」
「さぁ、決勝戦開始!!!」
「人の話を聞けぇぇぇぇい!!!」
アルスの絶叫虚しく当の司会も逃げ出した。
「アルス!!」
「!!」
ファイの声に正気に返り正面を見る。するとドラゴンが火球を放つ動作――。
「あぶなっ!」
「危ないわね!!」
文句を吐きながらも回避する二人。直後、火球の当たった場所がジュウと音を立て溶け始めた。火こそ残らなかったものの、そこは大きなクレーターと化している。
「ゲッ……あんなのアリかよ」
「てやっ!」
呆然とする一方でファイが短剣を投げるも、パキッと乾いた音を立てあっさり折れた。
「うっそ…」
「短剣折れるってどうなんだ……。いくら投擲だからって」
そこでアルスの導きだした答えは──。
「よし、どうにか内側に攻撃すりゃ、潰せるだろ。……なんかそういうのあるか?」
なんともあっけない解決方法。だが内側から攻撃する方法は無いに等しい。
「じゃあ火薬を使いましょ。向こうが火球吐いたので自爆するような感じで」
「んなこと言ったって…火薬がなきゃ話に──」
ならないと続けようとすると、なんとなくガッカリしたくなった。ファイがおもいっきり『火薬につき取り扱い注意』と書かれた瓶を持っているからだ。
「ハァ……。ま、やるか。オレが前でどうにか隙を作る。火薬調合したり何だりのタイミングは任せた」
「OK、任されたよ」
「うし、行くぞ!!」
自分の掛け声で自分に喝を入れ引き付け役のためにドラゴンに向かい駆け出した
「ハァァァァ!!」
ガキンと音を立てるがドラゴンの体勢は崩れない。それどころか、怖じけた様子も見せず尻尾を振り回してきた。
「おっと。危ねぇだろ!」
暴言と共に槍を振るい弾かれた反動のままに回転しながら、尻尾に槍を袈裟に振り下ろす。どうやらここなら辛うじて斬れる場所のようだ。何度か刺したり斬ったりを繰り返すとなんとか切断が出来た。
「尻尾なんぞぶん回すな。周りのこと考えやがれ」
落とした尻尾を槍で突き刺し、ドラゴンに投げて返す。かなりの重量だったが躓く程度の要因にはなる。
『尻尾を斬り落としたー!これは中々エグイシーンだ!!』
「どやかましい!ったく……どこで実況してやがんだ…」
スピーカーから聞こえてきた司会の能天気な実況にツッコミを入れる。ちなみにアルスたちは気付いていないが、大分高度の高い場所にガラス張りのとこから実況をしている。観客の方はというと別室のモニタールームでの観戦をしている。
「アルス!火薬玉できたよ!!」
「よし、隙を作るからやってくれ!」
「了解!!」
ん?隙を…作る?
先程から横目で見たりしてたがアルスは押される一方だった。だけど……作る?
ファイはそう疑問を感じる。そして彼女にその意味の分からぬままアルスはあることを実行しようとしていた。
出来たか……。ならばやることはただ一つ。民族の秘伝の祀詠。これなら隙は必ず出来る。あんまやりたくはないんだけどな。
それを実行するためアルスは槍を斜めに構え、そのまま槍を回し始める。ドラゴンは獲物を狩るべく、炎を吐こうと息を溜めている。そして放とうとした瞬間動きが止まった。
「空しい言葉を呟こう。
永遠なる眠りに誘われた貴公は眠りについた。
それはただただ佇立を求めるだけの者の望み。
佇み立つものよ。
汝のそれを今こそ再来させん」
ただ言葉の組み合わせ。しかしその詠を聞いたドラゴンは口を開けたまま止まっていた。そして詠が終わった直後にアルスが叫ぶ。
「急げ!!あとそんなに止めてられねぇぞ!!」
「え、あ、うん!!」
答えるなりファイが火薬玉をドラゴンの口に投げ込み二人は反対側に逃げる。そして口の中に入ったドラゴンに動きが戻り、火を吐いた瞬間――轟音を伴い大爆発が起こった。
そして降り注ぐドラゴンの肉片をアルスが片っ端から薙ぎ払う。
「す……すごい!なんと挑戦者倒した!!なんともグロい!」
「やかましい!!」
なりふり構っていられるかとアルスはこっそりと思う。アルスの罵声を聞いてか聞かずか、司会の声が響いた。
「さぁ、勝ち抜いた両選手に商品をお渡しします!少々お待ちを!」
司会の声が終わると同時各所から死体処理の職員が処理を始めた
「あぁ……、疲れた」
「お疲れさま」
「あの祀詠、詠ったの何年ぶりだよ……」
「あれはやっぱり……」
「あぁ。うちの民族に伝わるものだ。そうそう詠うのはいないけどな」
「なんで?あんなに強力なのに…」
「戦闘民族たるもの、秘密兵器は秘密にしておけという慣例でな。別に使ってもいいけど、仲間内での評判を落とすものなんだよ。ま、命の危機だと、その限りでもないけどな」
苦笑いを零し、今度はアルスが質問する。
「そういや、火薬なんてどうして持ってたんだ?」
「あぁ、あれ?私ポーチの中に毒の瓶とかいろいろ持ち歩いてるのよ」
「あ、そ……」
さらりと言われ返す言葉の無くなったアルスだった。そして、表彰のため控え室に戻された。そしてその数分後に再び呼ばれ、闘技場の中に戻る。軽く周りを見渡せば、当たり前だが、大して変わったものはなく、変化があるとすれば目の前に粗末な小屋があるだけだ。
「それでは優勝商品をあそこから持ってきて下さーい!」
ビシッと司会が指差したのは嫌でも目に入る小屋。
『は?』
勿論意図の分からない二人はたまらず聞き返す。
「武器や防具等を6つまで自由に選んで持ってきてください!」
その声に腕を組み、呆れたように溜め息を漏らすファイ。
「随分とまぁ、太っ腹ねぇ……」
そんなファイにアルスは肩を軽く叩く。
「くれるつってんだ。貰えるんなら、害にはならないんだからもらっとこうぜ」
そういい、小屋に向かって歩きだすアルス。その様子を見て確かに、とファイは内心苦笑いを零して小屋へと向かった。
30分後
アルスは古の職人が作った硝子槍とごくごく普通のウェア、それから魔力があるというペンダントをもらった。一方ファイは短剣から双剣に変え、刃がダイヤで作られている宝石の輝き(プリズムライト)と変哲のないブレスレット、魔力があるどうかは微妙らしいダークスピリチュアル像をもらった。
「今回の闘技場は死人が出ない稀に見る事が起こりました!それでは皆さん、また次回をお楽しみにー!!」
司会の声とともに再び沸き起こる拍手の津波。それは彼らが去った後も少しの間続いていた。裏口に案内され、そこから外に出て伸びを一つ。
「確かに、強くなったな」
もらった硝子槍を見て呟く。肉体的、ではなく武器的にだが。
「それ以前に、私としてはあの『死人が出なかった。』って言うのが気になるんだけど…」
「ははっ…」
そこに関してはもはや乾いた笑いしか出ない。
「さてと、この後どうしよっか」
「んー、そうだな…。あ、ならせっかく王都にいるんだし、事の次第とかを王様に謁見しつつ報告するのはどうだ?」
「そうね…。ここが戦場になるから街の人を避難させてもらわなきゃだもんね」
少し目を伏せてそっとファイは言ってきた。
「おし、んじゃ行くか」
気付かぬ振りをして気楽な声を出し、ホルダーに入れた新しい相棒と共にまた歩みだした