―五日―
翌日、彼らはどんな事でも当てると言われている占い師のいるビランチャと言われる町に向かっている。が、魔物の襲撃に遭っていた。
「だぁ!もうてめぇら邪魔だ!!」
全身ごと槍を一回転し、ありったけの力で周囲にいた敵を薙ぎ払い、生き残ったものに追い討ちのナイフを投げる。呻き声を上げ動きを止めた。そして一方――
「短剣だからって甘く見てんじゃないわよ!」
連続で斬撃を浴びせ、怯んだところで首と心臓辺りを数度突き刺すとようやく動きを止めた。
「ふぅ。粗方片付いたな」
息を吐いて気を緩め、槍をホルダーに収める。
「そうね…」
流石に疲れた様子のファイ。ファイも腰の鞘に短剣をしまい込んだ。
「あと町までどのぐらいだ?」
「んー。3kmぐらいね」
「うげー……まだそんなにあんのか!?」
しれっと言うファイに怪訝な顔で文句を零すアルス。もう怠いのか、近くの石の上に座っている
「まぁまぁ、もう5kmぐらい近く歩いたんだし」
慌てて宥めるファイ。自分も疲れているので彼の隣りにお邪魔する。しばしの沈黙の後にアルスが口を開いた。
「あと5日か……」
顔をうつむけそう呟くアルス。
「……そうね」
目を細めて答えるファイ。
「…よし、くよくよしてたら間に合わないかもしんないし、行くか!」
パンと膝を叩きながら立ち上がり伸びをするアルス。それを見て彼らしいと思ったのか自然と笑顔になるファイ。
「そうよね!行こ、アルス!」
軽い音を立てて走っていくファイ。
「あ、おい、ファイ!!待てよ!」
慌てて後を追い掛けるアルス。いつの間にか始まった小さな競争は、彼らの不安をほんの少し取り除いた。そして、
「ふーっ。走ったから予定よりだいぶ早く着いたな」
相当な距離を走ったのに息一つ乱れないアルスに、ファイは息切れしながらも突っ込んだ。
「ハァ…ハァ…。今更だけどアルスって足速いね……。それに体力の桁が……」
「一応男なんでな」
納得できるようなどうなのか謎な返答に頭を抱えたくなる衝動に駆られる。
「そうよね…」
彼女の口からは諦めたような同意の言葉だった。そして話が進まないと踏んだファイは町の説明を始めた。
「ここがビランチャ。別名予知者の集う町よ。この町の住人の約六割が予知能力者なの」
その言葉を聞き、この町に行くと聞いた時からあった疑問を取り出す。
「─その中に信用できる奴はいんのか?」
そう。例えこの地に来たからといって、信用性のある人でないと情報に意味はない。
「任せて。私の知り合いがこの町にいて彼がこの町一番の予知者よ。案内するわ」
「そうなんか?それじゃ、頼んだ」
「うん。任せて」
言葉の上では頼もしげに言うが、彼女の心の中で思い浮かんだ言葉はアルスに聞こえない大きさの声で口から零れた。
「本当は頼りたくないんだけどね……」
その呟きは案の定アルスの耳には届かなかった
「うげろふぇ!!」
ファイに案内してもらいもうすぐ目的地に着く直前、突然聞こえた男のよくわからない悲鳴。聞こえた悲鳴にファイがため息を吐く。
「はぁ…」
「へ?」
「死ね!この世のゴミ!!」
激怒しながら去っていく女性。その人の去ったすぐ近くにボロ雑巾のようになった男。やれやれと額に手を当てる。
「何してんだか…」
ファイの声を聞いて息を吹き返したと思われる男が跳ね起きる。
「ファイ~!」
ポカンとしてたアルスがファイの前に立とうとしたが、ファイが手で軽く制した。そして──ヒュオと空を断つ音が聞こえた
「5、6回死んでこい!ドブ虫!!」
鈍い音を立て、ファイの見事なまでの回し蹴りが男の脇腹にクリティカルヒットを決めた。
「ふべら!!!!」
息を漏らして脇腹の激痛に痙攣している人。
「これが……さっき言ってた予知者?」
もはやこれ扱いで指を差すアルス。呆れたように頭に手を当てて答える。
「えぇそうよ。これはゴーン=ヴァイス。一応、この町一番の予知者よ」
「よし…。んじゃ、手加減無しでいいな……」
にやりと笑い、軽く飛び上がると空中で回転し、姿勢を決める。
「とっとと起きろ!!」
アルスの全体重+重力加速度を乗せたかかと落としが炸裂した。
「ガハッ!!」
痛さのあまりだろうか、吐血し痙攣のペースが遅くなったゴーン。
「ファイ、これの家は?」
「そこの一軒家よ」
残念ながら『これ』で二人が通じてしまう。
「まぁ、取り敢えずそこで話を聞くか」
そう言いながら足を掴み、歩きだす二人。その途中でわざわざ近所の角に激突させていく。
「ちょっ…!!家の角に当たr」
容赦なく体を振ってぶつける。
「かっ……(沈黙)」
「死なない程度にね」
冷ややかな声が、ゴーンの気を失う寸前に飛び込んだ。その後数十分でゴーンは家で目が覚めたが、全身に痛みが走り、痣が大量にあったのはここだけの話。
「─と言う訳で、最後に天使の現れる場所を教えてほしいんだ」
「野郎の願いなんて願い下げだね」
ゴーンの目が覚めたところで概況を説明したところ、拒絶の意を示す言葉をしれっと即答するゴーン。その言葉に拳を握り締めるファイ。
「こんの女ったらしが…。だから頼りたくなかったのよ…」
ぶつぶつ文句を言い続けるファイ。
「ファイがかわいーくお願いしてくれるなら話は別だけどなー」
その言葉にピクリと反応するファイ。暫しの黙考の後の彼女の決断は。
「………お・ね・が・い」
仕方なくプライドを削ぎ落とすことだった。その言葉が言い終わったほんの一瞬後に。
「OK!任せな!
魔の扉よ、彼の者の願い、天使の現れし所を教えたまえ……」
「ここまで見事な手の平の返し方は素晴らしいな……。逆に清々するぞ」
今にも拍手しそうなアルスをファイが視線で一喝する。するとやるわけないだろと言わんばかりに両手をひらひらさせる。二分ほど待っていただろうか。いや、実際にはそんなにたっていないが、長い無言の時間と沈黙の支配する空間では錯覚をさせるには充分だった。そして占いの終わったゴーンが口を開く。
「……アリュウトの国の王都フェナルド…」
『!!』
二人が息を呑む。そしてゴーンは先を続ける。
「巨大な城が見える……沢山の人集り……城の塔の先端に天使がいる……止めようとした二人が塵となり、その後全てが塵となり消えていった……」
「二人…」
「塵に…」
アルスとファイが呆然とする。
「そんな深刻な顔すんなって──グエッ!!!」
少し沈黙したのちのゴーンの能天気な声に、
「呑気な事言ってる場合じゃ無いのよ!!なんでヘラヘラしてんのよぉぉ!!」
「ちょっ…ギブギブギブ!!」
キレたファイが襟元を掴んで前後に揺さぶり、うつ伏せに倒してから逆海老を行う。それを見たアルスはしばらく眺めてから止めにかかる。
「ファイ、ちょっと落ち着け。気持ちは十二分にわかってるから」
その言葉で冷静になったファイはようやく攻撃を止めた。ようやく解放されたゴーンの方は軽く自分のマッサージをしながら話してきた。
「いっつ~……。いくら町一番の予知者と言われても、当たる確率は半々ぐらいだ。信じるか信じないはお前らに任せる」
「あぁ、可能性があるのならそれに賭けるさ」
それにまたアルスが答える。
「…部外者のオレが言うのもなんだが、最後に勝敗を決めるのは思いだ。そう信じてる」
すると暫く口を開いてないファイが言った。
「…王都にある闘技場に行きましょう。私達は、まだ強くならなければいけないもの」
「そうだな…。それじゃな、ゴーン」
ひらひらと右手を振り、出ていく二人。彼らが遠くに行ったのを確認してからゴーンは一人呟いた。
「アルスに……死相が見えたな」