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全ての繋がる物語  作者: 柳葉揺
世界崩壊
2/16

―六日―


「(クソッ、戦闘民族ってのが面倒の引き金になったのか……)」


今まで何度か戦闘に駆り出される事はあった。戦闘民族というだけでも聞こえは良くないが、実質は王家の戦闘奴隷。国からの命令があれば嫌でも行って戦わなければならない使命がある。自分の血を忌々しいと毒づき、彼は眠りについた。



翌日


城門前にアルスと国王とお付きの兵が数人集まっていた。


「すまぬな…、お主にこのような役を押しつけてしまい...」


殊勝な国王の物言いにアルスは鼻で笑って答えた。


「面倒くせぇがしかたねぇ。こっちも生きる場所がかかっているとなるとな。その代わり、崩壊が止められなくてもあの世で恨むんじゃねぇぞ」


もはや死ぬことを前提で話すアルス。だがそれにも国王は神妙に頷くことで返した。


「戻ってくれば、蛮族とは誰も言わぬであろう。それでは、気を付けてな」


「ハッ、精々あがいてみせるさ」


そう国王に吐き捨て城門前から旅立った。



数時間後


「一人旅ってのはどうにも空しいもんだな……。大体場所すら分からねぇってのに行かせるか?普通」


手がかり一つも無しに歩いていたアルスは背中に装備している槍の調子を感じながら進んでいた。文句たらたらに、そうアルスがぼやいていると、


「キャアアア!!」


「(人の声?………)」


声というよりは悲鳴。誰かの絶叫を聞き、方向と大体の距離を考える。数秒の逡巡という名の打算をしたアルスの結論は非常に明確なものだった。


「…よし!謝礼代わりに二人旅にするか!」


そう言うと声の聞こえた方へと駆けだしていった。



素早い動きをしてくるウルフに翻弄される。旅を始めてからそんな戦闘慣れしているわけではないが、速度で上回られるとやはり防御への意識が高まる。


「クッ…。リーチの差だけは否めないか…」


痺れる腕からの指令を無視しながら短剣を構える。数度目かの防御をしていると、突進に手の握力が一瞬途切れて短剣を取りこぼしてしまった。


「やばっ!」



アルスの視界に入った時、少女がウルフに襲われていて、短剣を取りこぼした瞬間だった。


「うぅ…。私の旅もこれまでか…。あそこの町でもっとケーキ食べておけばよかった…!」


少女が呟いて、死を覚悟し、反射的に目を閉じたその瞬間、ようやく彼女の前にたどり着いた。


「おいおい…、諦めんのはまだ早いぞ」

「えっ?」


信じられない――そんな声音を背後から受けながら槍を構える。


「敵を貫き通せ、破槍!」


踏みこみながらリーチの届く限りの只の突き。しかしウルフの様な直線への攻撃しかしてこない相手を真正面から迎え撃てば、絶命させるに足りる威力だった。

頭部に槍が突き刺さり、断末魔を上げる間もなく槍に串刺しになる。完全に動かなくなるまで待ってウルフの死骸を遠くへ投げ捨てると、アルスは少女に話し掛けた。


「平気か?」


背中のホルダーに槍を収めながらの問いに、少女は戸惑いながらも返答をしてきた。


「えっと…助けてくれてありがとう。私の名前はファイ=ルシル」


「オレはアルス=ファース。今なんか馬鹿みたいに偉そうな王様に頼まれて世界崩壊を止めろとか無理難題言われたんだけど、どうにも一人旅が空しくて。もし、ファイ。あんたがいいなら一緒にどうだ?」


「そうね……いいわよ、私も一人旅だったし」


二人の方が楽しそうだし。と付け足すファイ


「サンキュ!」

「ところでどこへ向かうの?」

「うっ…!」


目的地皆無だったアルスは思わず返答に詰まる。何しろ事前情報ゼロで行かされているのだ。脳内の知識をフル動員させて目的地を考えると、情報収集という言葉が浮かんだ。


「えーと……。この辺に資料の豊富にある町とかってあるか?何にせよ、情報を集めなきゃな」

「だったらこの近くにシャームロって町があるわよ」

「じゃあひとまずそこを目指すぞ」

「オッケー。よろしく、アルス」

「あぁ。こっちこそ」




「すっかり真っ暗になったな…」


四時間ほど歩き、ようやくシャームロの町に着いた二人。荷物を地面に降ろし軽く伸びをするアルス。


「そうね。でも、他の町よりは近いのよ?他にも取り扱ってる町はあるけど情報量とか全然違うし…」


唇に手を当て、唸るファイにアルスは苦笑いする。


「まぁな。集落でひっそり暮らしてるオレ等よりゃ、いろんな情報がお前のほうが当てになる」


身体に喝を入れ、再び荷物を背負い直す。


「んじゃ探し始めるけど、情報量の多いところといえば…図書館か。どこにあるか……」

「あぁ、それなら心配しなくても平気よ」

「何でだ?」


疑問符を浮かべるアルス。


「この町の象徴とも言えるとこだから凄い大きいの」


「ふーん」


そうしてアルスがふと顔を上げてみると、


「本当だ」


二人の目の前には巨大な図書館。王立の図書館の数倍はありそうだ。ファイが図書館正面に備え付けられた時計を見る。時刻は─17:50


「あともう十分ぐらいで閉館ね。0時ジャストに潜入しましょう」

「りょーかい」


軽い返事をして街を探索する前に今日の宿を探すべく歩みだした。



そして午前0時、作戦(?)開始


「んー、この辺りのコーナーがそうね…」


図書館の奥の方。書庫のさらに奥の厳重に警戒された棚を物色する。そんな彼女へ頬の辺りを掻きながら呟く。


「なぁ、侵入方法と言い、やってる事は盗賊とかと同じだと思うんだk「細かい事は気にしない!!」

「マジデカ」


因みに侵入方法はピッキング。彼女が一体どこでこんなスキルを身につけたのかは知らない。いつか自分たちは手配書に載るんじゃないか。そう思うと気が重い。アルスはファイに聞こえないよう小さくため息を吐いた。


「(何でピッキングあんな慣れた手つきでやってるんだよ……)」


他人の過去について触れることはしたくないが、その時だけはぶっちゃけ問い質したかった。するとさっきまで歴史書とにらめっこしていたファイが声を上げた。自分は字が読めないのだ。


「あっ、この本……」


本棚から手に取った本のタイトルを見てみる。


「……だめだ。なんて書いてあんだ?」

「過現来。要するに、過去から現在、未来に至るまでのこの世のあらゆる事が書いてある『世界書』みたいなものね」


ページをざっと流し読みをしてたところあるページでファイの手が止まり、顔が青ざめていった。



「そんな…」


小刻みに震え、恐慌状態になりそうなファイにアルスが肩を叩いて正気に返そうとする。


「どうした!?」


声をかけて少しすると、少し落ち着いたようで深呼吸をいくつかして落ち着いた声音で口を開く。


「この世界は──滅びるしかない」

「は?どういう事だ!?」


突然のファイの言葉にアルスは戸惑う。


「この世界はおとぎ話みたいに、悪魔とかに滅ぼされているんじゃない」

「……じゃあ何に」


自分が焦れば彼女を追い詰めると思い極力落ち着いた声で問い返す。


「一般的に救世主の象徴とされている──




天使がこの世を塵にして滅ぼしているのよ」

「どういう……ことだ?」

「いい?よく聞いて」


アルスが頷くと、ファイは静かに話しだした


『かつてこの世には全てが無く、ただ星だけが在った。

神は嘆いた。神はこの世に天使を遣わし、海を創らせ、大気を創り、あらゆる生物を生み出した。

やがて生物は長い年月を重ね、進化を重ねた生物をみて神々は満足した。

しかし人という生物が神々の期待を裏切った。進化を続けた人々は争った。争いを見た神々は再び嘆き、そして見放した。

尚も争う人々。それを見かねたある天使が、神に代わり、審判を下す。その天使の名は───ガブリエル。別の名を死の天使という。

生物最期の審判は生物生誕の日に下され、消えた大地は異界に吸い込まれる』


聞き終わり、顎に手を当て考えるアルス。


「生物生誕の日?まさか!」


アルスが気が付くと、肯定であるようにファイが頷いた。


「えぇ、私達の歴史が始まった日の数十億年後である六日後よ」

「細かい事を飛ばすと、調子に乗った天使を潰せば一応世界の崩壊は止められるんだ──」


地鳴り。地震よりも酷い揺れが急に訪れ、館内の本が本箱からバサバサ落ちる。それに油断していたファイが倒れかける。


「わっ!」

「危ねぇ!」

「ッ!」


倒れかけたところをアルスがガシッと腕にファイを抱き抱え、本が当たらないよう壁になる。何冊か後頭部に直撃するがこの程度何でもない。耐えているアルスとは別にファイの方は急に抱き締められ顔が赤くなっている。


「大丈夫か?」

「あ、ありがとう」

「気にすんな」


確認の掛け合いをしていると徐々に振動が収まってきた。振動が完全に収まると同時、炭酸が一気に弾けるような音がこの耳にも届いた。


「何だ!?今の音は!炭酸の弾けるような音だったけど…」


揺れが収まったと同時に聞こえてきた奇妙な音に疑念を抱くアルス。


「また!!」

「え?」


『また』という言葉に戸惑うアルス。するとファイは若干のヒステリーを起こして続けた。


「この音は近くの島の蒸発する音!破滅の足音はもう、すぐ近くなのよ!」


泣きだしそうなファイの背中を撫でながら落ち着くのを待つ。数分経って落ち着いたファイに優しく声をかける。


「取り敢えず、この本持って一旦宿へ戻ろう。オレらには考える事が多すぎる……」

「うん……」


そしてこっそり図書館を出て宿に戻る。宿に戻り、別々の部屋に分かれアルスが自分の部屋に戻ったときにふと気が付いた。


「あ。ピッキングしたとこ閉めてねぇ…」


まぁいいか。これから起こるだろうことに比べれば些細なことだ。頭からそのことを追い払うと、明日のことをぼんやり考えながら床に着いた。


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