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5. 彼女のペース

 入学式の後、それぞれの学科ごとに教室に連れられていった。魔導全科の教室は人数の割には広く、ロッカーもひとりひとり与えられていて、そこそこ快適だといえる。


「じゃあ、先生がくるまでここで自由にしててね」

 教室まで案内してくれた女性(おそらく先輩)が、にっこり微笑んでそういうと手を振って教室を出ていった。

「ジーク、あの人もここの学校の人かな? 歳も僕達と同じくらいみたいだったし」

 リックは案内してくれた女性の後ろ姿を指さしながら、興味ありげに話しかけてきた。

「そうかもな」

 ジークは面倒くさそうに、ぶっきらぼうに答えると、近くの机に腰掛けた。ジークは自分の興味のない話題に対しては、いつもこんなふうに面倒くさそうな生返事をする。リックはそのことをよくわかっていたので、これ以上この会話を続けようとしなかった。こういうリックだからこそ、ジークと上手くやってこられたのだ。


 他の人たちはそれぞれ自己紹介を始めているようだった。やはり目立つのか、アンジェリカのまわりには特に多くの人が集まっていた。ジークは横目でその様子をうかがっていた。アンジェリカは笑いながら、集まってきた人たちと楽しく会話をしていた。


「あの子、あのラグランジェ家、それも本家の一人娘だって。やっぱりすごいよね」

 リックはジークの視線の先に気付いて、アンジェリカの話題を持ち掛けた。

 ジークははっとした。言われてみれば、ラグランジェといえば名門中の名門だし、ミドルネームがあることからも違和感は持っていた。名前を見たときにどうして気付かなかったのだろうとジークは思った。気付いたからどうというわけでもないのだが、気がつかなかったということ自体が、ジークにとっては情けなく、そしてくやしかった。やはり自分は完璧でなければならないという気持ちが、彼の中にはあるようだ。


 あらためてアンジェリカの方に目をやった。その瞬間、二人の視線がぶつかった。ジークは一瞬、驚き、慌てて視線を外した。すると、アンジェリカは自分を取り囲む環を飛び出し、まっすぐ彼の前にやってきた。

「なんだ?」

 その声にはまだ多少の動揺が感じ取れる。

「椅子があるのにどうして机の上に座っているの?」

 挑発的な笑みを含みつつ、アンジェリカが上目遣いで問いかける。吸い込まれそうな、大きな漆黒の瞳。その様子にジークはまた少し動揺を大きくする。

「俺の勝手だろう」

 動揺を悟られないようにアンジェリカから視線を逸らせながら答える。

「行儀が悪いわよ。降りなさいって。ほら!!」

 アンジェリカは、そう言いながら彼のふとももをはたいた。予想外のことに驚いて、ジークは座っていた机から半分ずり落ちるような格好になった。

「いてーな!! なにするんだ!!」

 大声でアンジェリカに突っかかっていく。だが、にっこりと笑う彼女を見ると、すっかり毒気を抜かれてしまった。なんだかわからないうちに、完全に彼女のペースに巻き込まれてしまっていた。


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