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30. プレゼント

 とうとうアンジェリカの誕生パーティ当日がやってきた。


 レイラは張り切って、鼻歌まじりで髪をセットしたり化粧をしたりしていた。ジークは化粧をした母親の姿などほとんど見たこともなく、どうなるのだろうと不安な気持ちで眺めていた。

「ところでジーク、あんたプレゼントは何にした?」

 レイラは鏡を覗き込みながら、腕を組み扉口に立っているジークに声を掛けた。

「は? そんなものねーよ」

「……あんたまさかパーティに呼ばれておきながら、手ぶらで行くつもりじゃないでしょうね」

 レイラは手を止め、ゆっくりとジークに顔を向けた。ジークは彼女の視線から逃げるように目を伏せた。

「アンジェリカは来るだけでいいって言ったんだよ」

「ああ! 情けないっ!」

 レイラは身をのけぞらせると、額に手を当て、オーバーアクションで嘆いた。そして、鏡台から立ち上がり、驚いて身構えるジークに、化粧途中の顔を下から突きつけた。

「いい? ジーク」

 レイラは腰に手を当て、眉をひそめ、よりいっそうジークに顔を近づけた。ジークは右手で彼女を制止すると、斜め後ろに身を引いた。

「プレゼントは物じゃない、気持ちなのよ。自分のために、自分のことを想いながら選んでくれた気持ちが嬉しいわけ。わかる?」

 レイラは人さし指をジークの鼻先に突きつけた。

「何もむやみやたらにプレゼント攻撃しろって言ってんじゃないのよ。誕生日は何を祝う日かわかってる?」

「ひとつ歳をとったことを祝う日だろ」

「浅ーいっ!」

 ジークの脳天に空手チョップが入った。

「ってーな! 何しやがる!」

「もちろんそれもあるわよ。でも大事なのは、その人が生まれてきたこと、今生きていることに感謝するってことなのよ。だから大事な人の誕生日は特別なわけ」

「……」

「うだうだ言ってないで、ほら、さっさと買って来る!」

 ジークの体を玄関に向けると、背中を平手で目一杯バチンと叩いた。彼は数歩よろけて前へ出ると、顔だけ振り返り母親を見た。レイラは満面の笑みで手を振っていた。

「リックには先に行っててもらうから」

 ジークはレイラに押し切られる形で家を出た。


「ったく……。何を買えばいいか見当もつかねぇ」

 あてもなく町を歩きながら、ぶつぶつと独り言を口にした。

「そういえば」

 ジークは突然はっとした。

「俺、両親に誕生日プレゼントなんてもらったことあったか……?」


「お、買ってきたね」

 無言で帰ってきたジークの手に小さめの袋がぶら下がっているのを目ざとく見つけ、レイラは声を弾ませた。ジークはそれを隠すように後ろにまわすと、仏頂面をレイラに向けた。彼女は化粧を終え、服も着替え、すっかり準備を整えていた。

 化けた――。

 ジークは彼女の変貌ぶりに驚いたが、あえてそのことには触れなかった。

「今度の俺の誕生日にはプレゼント用意しとけよ」

「なに言ってんのよ。毎年ケーキ焼いてあげてるでしょ。愛情を込めて。まあ半分は私が食べたいからだけど」

 ジークは何も言えなかった。

「ところで、どう?」

 右手で横髪をはね上げ、左手を腰に当てると、レイラはポーズをとった。

「若作りしすぎだろ」

 ジークは毒づいた。しかしレイラはあははと豪快に笑い飛ばした。

「素直じゃないわね。アンタも」

 そう言ってジークの肩に手を置いた。

「ていうか、こんなことしてる場合じゃないだろ。もう走っていっても間に合わないな……」

「大丈夫。アレがあるでしょ」

 彼女がウインクしながら指差した先には大型のバイクがあった。それはジークの父親の形見だった。

 ジークは顔から血の気が引いた。

「ペーパードライバーのくせに何言ってんだよ」

「あら。免許があることには変わりないでしょ」

 息子の心配をよそに、嬉々としながらバイクを外へ運び出した。そしていったん部屋の奥へ戻ると、レイラはライダースーツにヘルメットをを装着して出てきた。ヘルメットはともかくライダースーツなんてどこにあったのか、ジークは不思議でならなかった。

「さ、後ろ乗りなさい」

 レイラはバイクにまたがると、ジークにヘルメットを投げてよこした。ジークは乗りたくなかった。しかし乗らなければ確実に間に合わない。少しの葛藤の後、彼は渋々ヘルメットを被った。

「安全運転、頼むぜ」

 レイラの後ろにまたがりながら、ジークは祈るように言った。

「まーかせて。自称A級ライセンスの腕を見せてあげるわ」

「自称ってなんだよ! わけわかんね……うわっ!!」

 ジークの叫び声を残し、バイクは豪快なエンジン音とともに猛スピードで走り去った。


 ふたりの乗ったバイクは、アンジェリカの家の前で止まった。

 レイラはヘルメットをとり、頭を振ると髪を風になびかせた。

「どう? 私の運転」

「スピード出しすぎ。急発進しすぎ」

 ジークはぐったりして言った。そんな息子を見ながら、レイラは小さく笑った。

「ふふ。昔リュークにも同じこと言われた」

「そりゃ親父でも誰でも言いたくなるぜ」

 ジークは大きくため息をついた。


「ジーク!」

 後ろからリックが手を振りながら走ってきた。

「やっぱりさっき追い抜いていったのってジークたちだったんだ。このバイクってお父さんの形見の?」

「ああ。俺もまさかこれが動くとは思わなかったけどな」

 ジークは額の汗を手の甲で拭った。

「ちゃんといつでも走れるように手入れしてたのよ」

 レイラは愛おしげに車体を撫でた。


「いらっしゃい」

 いつの間にか門まで出迎えにきていたレイチェルが笑顔で声を掛けた。

「レイチェル!」

 レイラはレイチェルに走り寄り、覆いかぶさるように小柄な彼女を抱きしめた。

「何やってんだよ!」

 母親のあまりの馴れ馴れしさに驚き、ジークは声をあげた。レイラはジークを振り返るとニヤリと笑った。

「ははーん。アンタうらやましいんでしょ」

「は?」

「それではジークさんも」

 レイチェルは無防備な笑顔で、ジークに向かって両手を広げた。

「な……」

 ジークは一歩脚を引いたまま硬直した。そして彼の耳はだんだん赤くなっていった。レイチェルとレイラは顔を見合わせると、ふたりしてあははと声を立てて笑った。

「遊ばれてるね」

 リックは気の毒そうに笑った。


 レイチェルに先導され、三人は玄関までやってきた。

「いらっしゃい」

 赤いワンピースを着て、赤いリボンを頭につけ、いつもより華やかなアンジェリカが出迎えた。彼女は少し恥ずかしそうにはにかんでいた。

「かぁーわいー!」

 レイラは両手を広げてアンジェリカに走りよろうとした。しかしジークが後ろからレイラの肩を押さえた。

「待て」

「何よ。ヤキモチ妬くくらいなら自分が行けばいいでしょ」

「バカ! そんなんじゃねぇよ!」

 ジークの耳はまたしても赤くなっていった。

 アンジェリカはそんなふたりのやりとりをきょとんと見ていた。

「まあまあ、親子喧嘩はそのくらいにして」

 奥からサイファが姿を現した。彼はアンジェリカに歩み寄ると、後ろから彼女の両肩に手をのせ、ジークたちににっこり微笑んだ。

「どうぞお入りください」

「どうもー、お邪魔しまーす」

 レイラは右手を上げ軽い調子で挨拶すると、応接間へと入っていった。そのあとに仏頂面のジークと笑顔のリックも続いた。


 応接間にはすっかりパーティの準備が整えられていた。

「すっごーい!」

 ご馳走の山を目の前にして、レイラは目を輝かせた。

「はしゃぐな!」

 ジークは恥ずかしそうにレイラを制止した。しかし、レイラはジークの言葉など耳に入っていないようだった。

「まずは乾杯ね!」

「なんでオマエが仕切ってるんだよ!」

 レイラはジークを無視して、レイチェルとともに乾杯の準備を始めた。

「えー、それでは。アンジェリカの11歳の誕生日を祝して、乾杯!」

「乾杯!」

 なぜかレイラが音頭をとり、みんなで乾杯をした。ジークだけは納得のいかない顔でレイラを睨んでいた。

「そうそう。忘れないうちに渡しておかなきゃ」

 レイラは鞄をがさごそかき回すと、赤とピンクのリボンがかかった黒い箱を取り出した。

「お誕生日おめでとう!」

 レイラがその箱を差し出すと、アンジェリカはとまどって両親を振り返った。両親はふたりともにっこりとうなずいた。

「ありがとうございます」

 まだ少し驚きながらも、嬉しそうにその箱を両手で受け取った。

「開けてもいいですか?」

「どうぞどうぞ」

 アンジェリカは丁寧にリボンをほどき、蓋をゆっくりと持ち上げた。

「わぁ!」

 その中には深紅の革靴が1足入っていた。つま先が丸く、かわいらしいデザインだった。

「私の手作りなのよ、それ」

「ありがとうございます!」

 実際にプレゼントを目にして、よりいっそう彼女の感情は高ぶった。

「サイズはほんのちょっとだけ大きく作ってあるから。それがピッタリになった頃には……ね! ジーク」

「はあ? 何に対して同意を求めてるのか、わけわかんねーよ」

 ジークは眉をひそめた。

 アンジェリカも何のことだかわからずにぽかんとしている。

 レイラはひたすらニコニコ笑っていた。

「僕もプレゼント持ってきたよ」

 言葉が途切れたところで、リックが割って入った。

「ごめんね。リボンとか何もかけてないんだけど……」

 そう言いながら、茶色いそっけない紙袋をアンジェリカに差し出した。

「ありがとう! 開けていい?」

 リックがうなずいたのを見ると、アンジェリカは口止めのテープをゆっくりとはがし、中味を取り出した。

「この本……」

「アンジェリカがよく図書館で読んでたなと思って。もしかしてもう持ってたりする?」

「ううん、欲しかったの。ありがとう! すごく嬉しい!」

 ジークはリックがプレゼントを用意していたことに、多少ショックを受けていた。

「ほれ、アンタも出しなさい」

 レイラは息子の背中をバシッと叩いた。

「いいよ俺はあとで……」

 ジークは弱々しく口ごもった。

「なぁーに言ってんの! あとでなんて忘れるでしょ! 今にしなさい、今に!」

 レイラの迫力に負け、ジークは鞄を手に取った。しかし興味津々で覗き込んでいるレイラとリックに気がつくと、鞄を隠すようにして立ち上がった。そしてアンジェリカを手招きすると、応接間の外へと出て行った。

 アンジェリカは目をぱちくりさせていたが、すぐに彼を追って外へ出て行った。

 ジークは扉を背にしゃがみ込み、頭を抱えていた。

「どうしたの?」

「何を買えばいいのか見当がつかなくて、とりあえず長持ちしそうなものにしてみたけど、そうじゃないかもしれねぇ……」

 アンジェリカはジークの言っていることが理解できずに、首をかしげた。

「まあとりあえず渡しとく。気に入らなかったら捨ててくれ」

 ジークは鞄の中から小さな袋を取り出し、アンジェリカに手渡した。

「ありがとう。見ていい?」

「あ! 待て! 俺が帰ってからにしてくれ」

 ジークの懇願するような目を見て、アンジェリカはしばらく考えていた。そして「わかったわ」とにっこり微笑んだ。

「部屋に置いてくるわね」

 アンジェリカは階段を駆け上がっていった。

「中はまだ見るなよ!」

 ジークは下から念を押した。


「ジークのプレゼントって何だったんですか?」

 リックがレイラに尋ねた。

「私も知らないのよね。でもあの子、こういうことに関してはバカだから、きっと普通じゃ思いもつかないようなしょうもない物に違いないわ」

 レイラはふふっと楽しそうに笑った。

「何かしら、私も楽しみだわ」

 レイチェルも後ろから話に加わった。サイファはさらにその後ろで、にこにこと笑顔を浮かべていた。

「ホントあの子バカだけど、温かく見守ってやってちょうだいね」

 そう言ったレイラの顔が、ふいに柔らかくなった。


 ギィ……という鈍い音がして扉が開いた。そこにいた四人は、いっせいにその扉の方を見た。

 ジークは皆と視線を合わせないよう目を伏せて入ってきた。

「ジーク! どうだった?」

 レイラは遠くから大きな声で尋ねた。

「渡した」

 ジークは素っ気なく答えた。

「で? で? 反応は?」

 下世話な興味を隠そうともせず、レイラはジークににじり寄った。

「あー!! もう俺に話し掛けるな! おまえに話し掛けられるだけで13倍疲れんだよ!」

「まー!! なによ 13って中途半端な数字は! 10か15のどっちかにしなさいよ! ホント割り切れない男だわ!!」

「おまえには不吉な 13がお似合いなんだよ!」

「もうふたりともやめようよ。よそのウチまで来て喧嘩することないじゃない」

 エスカレートしてきたふたりの言い合いに、リックは焦って止めに入った。そして、申しわけなさそうにサイファとレイチェルに目をやった。だが、ふたりには迷惑がっている様子はなく、くすくすとあまり声を立てないように笑っていた。リックは少しほっとした。

「どうしたの?」

 いつの間にか戻ってきたアンジェリカがリックに尋ねた。

「ただの親子喧嘩。いつものことだから気にしないで」

 リックは苦笑いを浮かべた。


「もう子供たちは放っておいて、私たちは私たちでオトナな会話を楽しみましょ」

 さんざんジークと子供じみたことを言い合ったあと、レイラはサイファとレイチェルのところへやってきた。そしてふたりの間に入り、彼らの肩に手を回し引き寄せた。

「レイラさんはバイクにお乗りになるんですね」

 レイチェルは顔を少し上げ、大きな瞳でレイラを見た。

「最近は全然乗ってなかったけどね」

 レイラは首をすくめた。

「よろしければバイク、見せていただけません?」

 レイチェルの思いがけない言葉に、レイラは顔をぱっと輝かせた。

「もちろん! サイファも行きましょ」

 三人は連れ立って部屋を出て行った。


 外はほんのり薄暗くなっていた。ジークとのことで熱くなっていたレイラには、ひんやりした風が心地よく感じた。

「わぁ、近くで見たのって初めてですわ」

 レイチェルはしゃがみ込んでまじまじとバイクを観察した。

「これ、死んだダンナの形見なのよ」

「それでは、旦那さんの影響で?」

「出会って間もない頃だけどね。そりゃもう必死で免許を取ったわよ。恋する乙女のパワーってヤツ?」

「まあ」

 レイチェルはにっこり笑った。

「旦那さんはお仕事もバイク関連だったのですか?」

 サイファが尋ねると、レイラはまっすぐ彼の目を見ながら答えた。

「そう。小さな町工場で技術者やってたわ。けっこう強い魔導力も持ってたらしいんだけど、そっちには全く興味がなかったみたい」

 レイラは肩をすくめた。

「そういうのって、全く使えない私から見ると腹が立つわけよ。なんで才能を腐らせておくのかって。それでいちど怒ったことがあるの」

 そう言いながら彼女は、思い出したように笑っていた。

「それで、アイツなんて答えたと思う?」

「え? なんて答えたのですか?」

 レイチェルはレイラを見上げた。彼女はハンドルにひじを乗せ、どこか遠くを見つめていた。

「初めて魔導が使えたときより、初めて自転車に乗れたときの方が嬉しかったんだ、って。ほーんと、バカでしょ」

 レイラは肩をすくめ、すこし照れくさそうに笑った。

「素敵なお話ですね」

 レイチェルは目を細めて微笑んだ。


「何話してんだろうな」

 ジークは肉にかぶりつきながら、窓越しに親たちを見ていた。声は聞こえなかったが、楽しそうに笑いながら話をしていることはその様子から容易にわかった。

「ジークの子供のころの話だったりして」

 窓際でジークと並んで外を見ていたアンジェリカがぼそりと言った。

「なんでだよ」

 ジークは外に目を向けたまま、今度はポテトを食べ始めた。アンジェリカは彼をを見上げると、いたずらっぽく笑った。

「私もいろいろ聞いたけど、結構おもしろかったわよ」

 ジークの動きが止まった。

「え? どんな話? 僕も聞きたい」

 リックが身を乗り出した。

「ちょっと待て! ……リックはそこにいろよ」

 額にうっすら汗をにじませながら、ジークは右手でリックを制止すると、アンジェリカの手を引き、部屋の隅まで引っ張ってきた。

「で、何の話を聞いたんだ?」

 動揺を隠すように腕を組み、彼女から目をそらしながら、ジークは低い声で言った。アンジェリカは少し遠くを見て考えるような素振りを見せると、淡々と語り始めた。

「いろいろあるけど、自分で掘った落とし穴にはまって足をくじいてさらに生き埋めになりかけたとか、魔導の力を使って魚を焼こうとしてテーブルまで燃やしちゃって火事になりかけたとか、あと……」

「あーー!! もういいもういい!!」

 ジークの顔はみるみるうちに真っ赤になった。

「とにかく! リックには言うなよ! いいな!」

 アンジェリカに人差し指を突きつけ、大声でわめき立てた。

「なんだか仲間はずれみたいでかわいそう」

 アンジェリカは口をとがらせ、不満げに言った。

「かわいそうなのは俺じゃねーかよ」

 ジークはくたびれたような乾いた笑いを浮かべた。


「ごめんね、リック。口止めされちゃった」

 アンジェリカはリックのところへ戻ると、両手を顔の前で合わせて謝った。

「もしかしてその話って落とし穴とかのじゃない?」

 リックはさらりと言った。

「!! なんでオマエっ……!」

 アンジェリカの後ろで、ジークは口を開けたまま硬直していた。

「ずいぶん前だけど、レイラさんから聞いたことがあるよ」

 リックはにっこりとジークに笑いかけた。

「あんのヤロー……」

 ジークは窓に張りついて、外で楽しそうに談笑している母親を睨んだ。


 パーティが終わる頃には、すっかり外が暗くなっていた。

「長居しちゃってごめんなさいね」

 レイラは軽い調子で言った。彼女は来たときと同様、ライダースーツを身に付けていた。

「いえ、とても楽しかったですわ」

 レイチェルの言葉にサイファも頷き、付け加えた。

「またいつでもいらしてください」

 レイラはウインクで答えると、大きなエンジン音を轟かせながら、バイクでひとり走り去った。


「アンジェリカ、またあしたね」

 リックが笑顔で右手を挙げた。アンジェリカも笑顔で返した。

「ふたりとも、本当にありがとう」

 ジークはアンジェリカをじっと見つめた。そして無言で右手を挙げると、背中を向け歩いていった。

 アンジェリカと彼女の両親は、ジークとリックの背中を小さくなるまで見送った。


 アンジェリカは、家に戻ると小走りで自分の部屋へと駆けていった。そして、ジークのプレゼントが入った袋を手に取った。袋の口を開け、中を覗き込む。

「……サボテン?」

 彼女は袋の中に手を入れ、ゆっくりとそれを取り出した。それは、鉢植えのミニサボテンだった。アンジェリカは渡してくれたときのジークの表情とサボテンを重ね合わせ、ひとりで声を立てて笑った。

 ひとしきり笑い終わると、彼女はそれを南側の窓際に置いた。

「ありがとう、ジーク。頑張って長持ちさせるわ」

 彼女はサボテンに向かって、とびきりの笑顔を見せた。


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