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短編

アポロ

作者: RK

月から来た少年の話→http://ncode.syosetu.com/n4339bo/

 1969年。それは世界を大きく震撼させた出来事だった。

 アポロ11号が月に向けて発射された。

 様々な苦難が押し寄せたこの計画も、遂に成功をすることとなる。

 だが、それは絶望の始まりでもあった。

「こちらアルムストローグ!緊急事態だ!まさか…!まさかこんな…!」

「落ち着けアルムストローグ!一体何があったんだ!」

「月は…!月は人間が思っていたものじゃない!嗚呼…!嗚呼…!」

「落ち着け!一体何が起きたというんだ!」

「地獄だ!」

「何!?」

「ここはじご――――」

 通信はそこで途切れた。それから間もなく、異変が起きる。

「見ろ!月が…!!」

 空に浮かぶ月が赤く変色していた。

 時間的に観測できないはずの場所でも月が出現し、赤い輝きを大地に振りまいていた。


 月が赤い輝きを放ち始めてから様々なことが狂い始めた。

 水面の遷移により沈む大地。

 集団で飛びまわり人を喰い荒らす昆虫。

 突如襲った天変地異から生き延びた人間も次第に狂いだす。

「追ってくるんだ!月がさぁ!月が月が月がつきつきつききききききがががががが!!!」

「見てるんだ!だから隠れるんだ!お前の中に!邪魔な内臓を掻きだして!お前の中に!」

「月が見えるんだよぉ!何処に行ってもぉ!もう視界なんてないはずなのに!目ん玉抉りだしたのに!みえるんだよぉ!!みいえぇぇるぅんだよおぉ!!」

「兎だウサギ!俺は白い兎!うへへへ…!俺はうさぎなんだよお?」

 月の放つ赤い光の波長が人を、自然を狂わせる。

 それが判明した直後、人を狂わせる波長を遮断することを試みる。

 相殺波長を放つことでなんとか対策をすることに成功する。

 時を同じくして月からの使者が現れる。

 人と変わらぬ姿を持つその使者は、それでも人とは違うことを認識させられる。

「我々は月の民。愚かな侵略者よ。何故貴様らは我らが領土を侵した?いや、答えは必要としていない。我らと貴様らの間に交わした条約を破ったことでそれは理解している。愚かな地上人よ。狂気的な程の進化を繰り返す者どもよ。我々は貴様らと手を取り合うことは無いと知れ」

 その後、使者が訪れた場所は地獄絵図となった。

 人が人を殺す。犯す。喰う。嗤う。自らを損傷させ、他人を貪り、犯し、殺す。


 そして1970年。

 月との全面戦争が始まる。

 月の民は一騎当千の強さを持ち、狂気を振りまく。

 地球の兵力は月の民と相対するだけで同士討ちを始める。

 地球は劣勢に立たされていた。

 だが、月の民の一人が接触を図ってきたことで戦いの勢いは逆転を始める。

「あの月は位相の異なる場所にある。アポロ11号は様々な要因が絡みその位相の異なる地点へと着陸をしてしまった。その時点で位相のズレがそのまま固定されてしまった。つまり、道が繋がってしまったままになっていた。月の民はそれを侵略だと思ったのだ」

「そもそも月の民とはなんだ?」

「変化を恐れた民だ。自らを月の閉じ込め変化を最小限に抑えた者たちだ。進化は時に忘却を生む。それは忘れてはいけないことすら忘れてしまう。貴君らと袂を分かつ時、月の民と地上の民は約束したのだ。地上の民は月の民に干渉しないと。だが、それは長い時を経て忘れ去られ破られた」

「なぜ、キミは我々にそのような情報を?」

「月の民はもう狂っている。長い時間を変化の少ない空間で過ごしている。それは少しずつ、緩やかに月の民を狂わせていった。まともな思考を出来る者はほんの一握りだろう。君達の話に聞く耳を持たないのはそういった理由もある」

「つまり?」

「僕は我々を終わらせようと思うんだ」

 

 月との戦争は、地上の勝利によって終わる。

 位相のずれた月との経路は断たれた。

 もう二度とあの月と地球が繋がることは無いと言う。

 勝利をもたらした一人の月の民は地上に残された。

 その少年は故郷を捨てたことを悔やむこととなる。

 彼は狂っていたのかもしれない。

 静かに、穏やかに、彼は狂っていたのかもしれない。

 彼は狂っているから、激しく狂うことすら出来ずに苦しんでいる。

 月は今も地上を見続けている。

 あの狂気は今も続いている。

 終わることのない、忘れることのできない、眼をそらすことは許されない。

 もう、誰もが正気ではいられない。

 この物語はもう語られない。

 狂った語り部しか存在しない物語はもう終わる。

 穢なくも美しい星の狂った物語の幕は閉じる。

 それでも月は、狂気を振りまいていた。

 ―――救いなど、存在しない。

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