六話
「僕が来たときはまだ大前田の頭はありましたよ」
「どういうことだ?」
状況説明。
僕が登校したのが七時五十分。教室には五十三分に入った。途中、トイレに向かった名木と別れて1人で教室に入り、そこで、頭から血を流す大前田を発見した。
その時、大前田は頭から血を大量に流しながら転がっていた。
「どういうことだ?大前田の頭は死んだ後に破壊されたという事か?」
「僕の目が正しかったらそうだと思いますけど、詳しくは国家公務員の皆さんに聞いてください」
事件の真相なんて、探偵か警察かに任せておけば自ずとわかるんじゃないだろうか。
なんて、現実逃避を繰り返す。
「お前が名木と合流したのはいつだ?」
「そのすぐ後です。名木が大声で叫んだの知ってますよね?」
「ああ、いつもの事だから放って置いたがな」
この先生は……。
「だから僕がわざわざ職員室まで行く羽目になったんですね」
「名木はその場に残ってたんだな?」
「途中トイレ行ってたそうです」
僕は名木を責める気にはなれない。
人の死に直接触れてしまったのだ。
しかも、仲の良かった、たった二人のうちのクラスメイトを一人、失ってしまったのだ。
超能力を持っていたとしても、彼女は、そう、僕たちはまだ高校生なのだ。大人でさえ思わず目をそらしてしまうような『殺人』に、平気でいられるはずがない。
「トイレから帰ってきたら頭が無くなっていた、と。そういう事か」
「はい。教室中に肉片が飛び散ってたそうです」
「まあ、頭蓋骨の破片で窓ガラスにヒビが入っていたしな」
男子生徒の一人が耐えられなくなったのか、青い顔をしてうずくまった。
それにつられて、二人目、三人目とうずくまる。
「お前ら、大丈夫か?」
「…………なんで……平気なんですか……」
メガネをかけた男子生徒が口元を抑えながら言った。
「こういう時こそ冷静に、が俺のモットーだ」
「…………」
その生徒は青い顔をしながら、今度は僕の顔を見る。
「僕だって吐きたいよ。吐いて胸のつっかえを少しでも軽くしたい」
でも、そんなことよりも、やらなければならないことがあるのだ。
「大前田を殺した犯人を。大前田を侮辱した犯人を。僕は一刻でも早く見つけ出したいんだ」
そして言ってやりたい。
『人を殺した気分はどうだい?』と。