四話
「……卯鷺、昨日の放課後何してた?」
「町中走りまわりながらしかも叫びまくってました」
呆れた表情を先生は返してきた。
「まあ、一応苦情が数十件届いてたから信じるとしよう」
「『クリームシチュー』、『観覧車』、『金属バット』ですね」
「『有刺鉄線』、『赤信号』、『ロケットねずみ花火』もな」
とりあえず、僕のアリバイはちゃんとある。
昨日の放課後、小学生と一緒に色々な単語を叫びながら三時間以上、日が暮れるギリギリまで町中を走り回っていたのだ。
何故そんなことをしたのかって?
そんな気がしたからだとしか言いようがない。
「名木も一緒にまわってたそうだな」
「あたしも一緒に叫んでましたよー」
こんな時なのに、名木は元気よく手を挙げながら返事をした。
「お前は事件が落ち着くまで謹慎処分だ」
「あ、やっぱりっすか?」
「お前の『大声』で笠木中学の校庭に大穴が出来たそうだ」
ああ、あれ。あれは本当に驚いた。名木の怖さを知った気がしたけど、小学生は喜んでたんだよな。ちょっとフクザツな気分だ。
「さて、余談はこれぐらいにして。お前ら」
先生はぐるりと教室にいる生徒たちを見渡す。
「大前田がなぜ殺されたのか、わかるやつはいるか?」
しん、と音が消えた気がした。
先生の言葉で、僕は改めて現実を突きつけられた。
僕は今朝、名木と登校した。なんてことはない会話をしながら歩き、靴を履き替え、教室へ向かった。
そして、見つけたのだ。
大前田と思われる生徒の死体を。
「警察には既に連絡しておいた。少ししたらやってくるだろう。お前らが集められた理由は言う必要はないよな」
体育館に集められた76名の生徒達。彼らは特に大前田と関わりが深い生徒達らしい。
その中には当然僕や名木も含まれている。
「あの……」
1人の女生徒が手を挙げた。
「どうした?」
「ど、どうして私が……?」
ここからは見えないが、か細い感じの声だった。
「私も……」
「私も……です」
さらに数人の女生徒が手を挙げる。
「ああ、お前らな。こっち来い」
そう言って、7名の女生徒を一か所に集めた。
「先生何するんすかね」
(声でかいぞ)
(あ、失敗)
しかし、大前田とあの女生徒たちは何の関係があるというのだろう。先生は彼女たちに向かって何か話しかけているようだが、全く聞き取れない。
彼女、ではないみたいだし……。
しばらくして、集められた女生徒たちは返された。
「よし、お前ら、移動するぞ。逃げた奴は問答無用で疑うからな」
疑ってるから残されたんだろ。
生徒たちのざわめきから、そんな気持ちが伝わってきた。