三話
「ねえ、見ない顔だね。転校生?」
「あ、はい。七組です」
「え……そ、そう……。じゃあ、また……」
編入から一週間が経ち、このやり取りにもある程度は慣れた。慣れて、先手を取れるようにもなった。しかし、胸の奥で何かがつかえたような感覚は無くならない。
「委員は何にしようかな」
別に入っても入らなくても良いらしいが、とりあえず入ることにした。部活には入らない予定だ。入っても、肩身の狭い思いをするだけだ。
なら、何故委員会に入るかって?
自分の居場所を探すため、だろう。
「えーっと、生徒会室に行けば何かわかるって先生も言ってたことだし」
生徒会室は校舎東の三階。まずはそこへ向かおう。
生徒会室へ向かう途中、何人かの生徒に声をかけられた。七組だと分かっていて、あえて声をかけてくるような輩ばかりだったが、そんなことをいちいち気にしていたら十円禿げが出来てしまう。
この年で禿げなんて作りたくはない。
そうこうしているうちに、生徒会室に辿り着いた。
「一年七組三番、卯鷺ユウキですっ!失礼しまっす!」
勢いよくドアをスライドさせながら叫んだ。
「っ!」
突然の襲来に驚いたようで、生徒会室にいる人たちはみな、椅子から腰を浮かせた状態で硬直していた。が、しかし。
「頭髪ぅ!染めるな!って言うか脱色するな一年!」
髪の長い女生徒が負けじと大声で僕の髪を指摘した。おそらく、僕のこの白髪を指しての事だろう。
「気のせいです!」
「阿呆!だったらなんだ!地毛とでも言うのか!」
「言って見せましょう!これは地毛です!」
女生徒の拳がドガンと机に叩き付けられる。
ほかの生徒達はびくりと震え、それぞれ後ずさった。
「後で生徒会室に来ぉい!」
彼女は、窓がかたかたと音を鳴らすほどの大声でそう言い放った。
頭髪がどうだ、服装がどうだ、挙句の果てになんだその態度は、と散々指導を受けた挙句一発顔を殴られてからようやく本題に入った。
「ところで僕の第一印象は最悪ですね」
「当たり前だ」
口に端をひくひくと震えさせながらも、生徒会長を名乗る女性とは答えた。
「なんの用だ、卯鷺」
「まあまあ、怒っても良いことありませんよ。現に、生徒を殴っちゃってるんですから」
地毛だし、服装については校則の範囲内だし、態度なんてただのこじつけだ。
「ぐ……」
「と、とりあえず落ち着いて下さい、生徒会長……」
男子生徒が生徒会長をなだめる。
む……こいつ……。
さては生徒会長が好きだな?
「えーっと、委員会に入りたいんですけど、どんな委員会に入ったらいいかわからないんですよ」
「ほう?卯鷺がか?」
「保健委員とか駄目ですよ。誰も保健室に来なくなりますから」
その前に僕って何度も生き物殺しちゃってるから、向いてる向いてないの話じゃない。
笑えない冗談だ。
「じゃあ飼育委員なんてのはどうだ」
「生き物殺しちゃいますよ」
「どんな超能力だよ!」
ぶちりと生徒会長がキレ、それを周りの生徒がなだめていく。
なんとも面白い光景だった。
「殺傷能力だけは高いです」
「そうかい……。じゃあ、風紀委員だな。あいつらは主に暴力で取り締まってるからな」
「暴力は嫌いです」
「うるっせえよ!じゃあなんで委員会に入ろうなんて思ったんだよ!」
恐ろしいほどの形相で睨んでくる。
「まあまあ」
「お前が言うな!」
怒られた。
「うーん、じゃあ、委員会は諦めます」
「生徒会には絶対に入るなよ」
あ、やっぱり?
だんだん周りからの視線が痛くなってきたところで僕は席を立った。
「じゃ、失礼しました、じゃないか。お邪魔しましたー」
「二度と来るなよー」
「はーい」
ひらひらと手を振りながら、僕は生徒会室を後にした。
「あー、お腹減った」
今晩の献立はなんだろうかと予想しながら僕は階段を下りる。
外からは野球部の掛け声が聞こえた。おそらく、ランニング中なのだろう。
大会に出られるわけないのに、よくもまあ頑張れるものだと。
つい、捻くれたような考えが頭に浮かんでしまうのだった。
事件はその三日後に起きたのだった。