十話
短めなのはいつも通りですよ。
「『あたしの名前は』『名木凪咲』『ナギナギちゃんって』『呼んでね☆!』」
邪悪な笑みを浮かべながら名木は階段を下ってくる。
「名木、僕はもう、逃げも隠れもしない」
「『そして』『あたしの目玉を』『破壊するって?』『ウサギ君なら』『簡単に出来るだろうねー』」
にやにやと笑いながら名木はゆっくりとこっちへやってくる。
階段から五メートル離れたところで、足を止めた。
「『もう一人は』『何処だ?』」
「名木なら、わかるんじゃないか?」
右脚の痛みに顔を歪めながら、しかし名木を睨み続ける。
「『んっんー』『御名答』『柱の後ろだね』」
「僕は知らないよ」
知っていても、知っていなくても名木には関係ない。
佐賀以上の『音遣い』だという名木には。
名木はまた歩き始めた。
「『もう気付いてると思うけど』『ウサギ君の身体は』『乗っ取ったからね』」
「ああ、そうかい」
音によるサブリミナル効果。
これにより『音遣い』は生物の肉体を支配するという。
「……一見簡単な仕組みだが、しかしそれが恐ろしい」
「『急にどうしたの?』」
「音遣いの支配を完全に振り切ることはできない。なにせ、耳から聞こえる音だけではなく、空気の振動による皮膚への微妙なストレスで他人を操る音遣いもいるそうだしな」
「……っ!」
「僕はどうにかしてその支配から逃れられないか考えたけど、諦めたよ!」
何故ならば……。
「何故ならば!」
右手を床に叩き付け、無理矢理体を起こし、そして立ち上がる。
「『お前……!』」
「『今だ!』『卯鷺!』」
柱の影から佐賀が飛び出し、名木に向かってコンクリートの破片を投げつける。
「う、ぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああっ!」
僕は足元に落ちた自分の右脚を渾身の力で名木に投げつけた。
「『う』『あああ……!』」
「っ、『眼球破壊』!」
何故ならば、わざわざ名木からのストレスを対策する必要がないくらい、僕は痛みに支配されていたのだから。