九話
「し、下からっ!」
崩れ落ちる足元に気を付けながら、周りを見渡す。
「『頭上に注意しろ!』」
「『っそのっとおーっり!』」
聞き覚えのある『大声』が頭上から降ってくる。
「『っっっっっっっっっっ!』」
「『――――――――――!』」
名木の『大声』と佐賀の『大声』。
二つの『大声』がぶつかり合った衝撃で僕たち五人は一階のフロアまで叩き落とされる。
「あがぁっ……!」
「ぶ、『無事か?』」
右脚の感覚が怪しく、じわじわと痛みがやってきた。
「脚の骨が折れた……」
「『俺は頭から血が』『止まらない』」
どちらも重症のようだ。他の三人は……。
「他のは平気か?」
しかし、返事はない。
「……おい、生きてるか?」
返事がない。
「『三人の音が消えた』」
「……え?」
慌てて立ち上がろうとして、転ぶ。ぱちゃりと水っぽい音がした。
胸がざわつく。
「お、大友……?」
視界の端に移る、普通ではない量の血だまり。今もまだ増え続けている。
「か、唐木……。武者……?」
大友は首がねじ曲がり、唐木は頭が半分欠けていた。そして、唐木の右腕が武者の心臓部に突き刺さっていた。
「…………!」
「『落ちつけ』『俺がお前に殺される』」
「っ、ごめん」
しかし、いつまでも僕は混乱していた。三人の血にまみれたまま、身動きできずにいるこの状況。こんな状況から早く抜け出したいという思いが強く、とても落ち着いてなんかいられなかった。
できれば、今ので死んでしまいたかった。