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トレジャー!  作者:
1・凍月
9/35

1-8 幼馴染との冒険

「……さん! ……リョウさん居ますか!」


 部屋のドアを乱暴にノックされる音によって、リョウは心地よい眠りから無理やり現実に引き戻される。

 床に投げ出された時計の文字盤を確認すると、午前8時。トレジャーハンターとしては少々遅い起床だ。


「誰だ……」


 寝ぼけ眼をこすりながら、リョウはかすれた声で返事をする。


「『黄金の世代』の者です。マスターに言われてお迎えにあがりました」


 若い少年の声だ。


 『黄金の世代』は全クランの中でも、ずば抜けて平均年齢が低いクランだ。

 今部屋のドアの前でリョウを呼んでいる少年も、13歳前後の幼い少年だろう。


「あぁ……そういえばそうだな。ありがとうシンはどこに居る?」


 ドア越しにリョウが問う。


「直接18ダンジョンで待っていると伺いました!」


「そうか、分かったこれから俺も18ダンジョンに行く。付き添いはいらない、帰っていいぞ」


「はい! 分かりました! それと……」


 少年は元気よく返事をした後言葉を濁らせる。

 必要な道具を麻の袋に入れダンジョンに潜る準備を整えていたリョウは、その手を止めて少年に声を掛ける。


「どうした?」


「リョウさん! マスターの次に尊敬しています! 今日、頑張ってください!」


「ふっそうか、ありがとう」


「それでは! 失礼します!」


 ドア越しに少年が走り去っていく音を確認すると、リョウは手早く身支度を終わらせる。


マスター(シン)の次に、ねぇ」


 部下からの幼馴染への人望が思いのほか厚い事を知れたリョウは、微笑みながら部屋を後にした。


――――――


「あっリョウおはようっ!」


 リョウがティパールの南、18ダンジョンの入り口に辿り着くとアンが元気に駆け寄ってきた。


「あぁおはよう。準備はちゃんとしてきたか?」


「もちろん! ちゃんとこれも付けて来たし!」


 リョウに言われたアンは、誇らしげにリョウにプレゼントしてもらったブローチ『雷神の涙』を見せ付ける。

 

「昨日からそのブローチを自慢してきて大変なんだぜ、リョウ」


 呆れた声を飛ばしてきたのはシン。

 炎によく似た装飾を施された鞘に収まる『炎陽』を腰に下げ、気合充分といった様子だ。


「部下を迎えに遣してもらって悪かったな」


「いや俺が言った事だし良いんだよ。リオーもお前に会いたがってたし」


 リオーとは、今日リョウのことを起こしに来た少年のことだろう。

 リョウはクランマスターであるシンと幼馴染である為『黄金の世代』のメンバーにも顔が広い。

 光栄なことに、トレジャーハンターとしてのリョウに憧れを抱いてくれるメンバーも何人か居るようだ。


「俺のことをシンの次に尊敬してるそうだ」


 リオーの発言を思い出し、リョウは笑いながらシンに告げる。


「そこは気を使って欲しいよなぁ」


「確かに」


 笑い合うシンとリョウ。

 幼馴染同士でダンジョンに潜るのは久しぶりだ、二人とも無意識に高揚しているのだろう。


「ほらほら、早く行こー! 52層に行くだけでも結構時間かかるんだし!」


 アンが二人の後ろから声を張り上げる。

 彼女もまた幼馴染同士の冒険に夢を膨らませているようだ。


――――――


「リョウそっちに行ったぞ!」


「わかって……るっ!」


 リョウの一閃。


 左下から大きく振り上げた剣が、ネズミ型の魔物『ビッグラット』を一刀両断に切り伏せる。

 全長1メートル以上。鋭く伸びた牙と赤く光る目が特徴的なビッグラットは、自らの血の海に沈みながらビクビクと身体を震わせている。


「ふぅ……終わったねぇ」


 他のビッグラットを槍で一突きした後に、魔法の電撃で黒焦げにしたアンが一息つく。


 現在リョウ達3人がいるのは、18ダンジョンの35層。

 石造りの回廊が迷路のように張り巡らされ、限られた光源のせいで薄暗い。湿度が高く、必然的に巣食う魔物たちも湿気を好む物が多くなってきている。

 この辺りはビッグラットの群生地。他の魔物と比べても格段に繁殖力が高く、群れを成しやすいのがビックラットの生物的な特徴だ。先からリョウ達は彼等の対処に手間を取られていた。


「ほら、一息ついてるとまた出てくる。さっさと行くぞ」


「分かってるわよっ」


 悠々と炎陽を鞘に戻すシンに、アンは早口で返事をする。


「しかし今日は魔物が多いな」


 こちらも余力を残しながら鞘に剣を収めるリョウ。


 彼の言う通り、今日のダンジョンは魔物の数が多かった。

 この手前の27層では、多数の蔓をうねらせる植物系の魔物『絡み蕾』が大量に這い出てきて道を塞いで来たし、18層では鳥人型の『アーマーバード』に囲まれた。

 元々そこまで魔物が大挙してくる訳ではない18ダンジョンの低層としては考えられない状況だ。


「死骸も多いしなーこりゃ少し様子がおかしいな」


 シンが辺りを見回す。

 辺りにはリョウ達が始末をしたビッグラットの死骸以外にも、他に死骸がいくつか転がっていた。


 ダンジョンでは死骸が3日残れば良いほうだ。ダンジョンで絶命した者は、人間でも魔物でもすぐに跡形もなく消えてしまう。

 それは魔物たちが肉を喰らい、装備品はダンジョンで亡くなったハンターの死体を専門に漁る『グール』と呼ばれる集団たちによって根こそぎ持っていかれてしまうからだ。

 しかし今日は道中で魔物の死骸を見かける事が多い。


「こりゃ看守さんが行ってた事も本当なのかもねー」


 槍を仕舞ったアンは、次の階層に降りる階段の場所を地図で確認しながら歩き始める。

 『昨日の夜、誰かが忍び込んだかもしれない』

 そうリョウ達がダンジョンに潜る前、ゲートの看守が述べていた。


 夜の間に見張りをしていた看守がふと目を離して書き物をしていると、誰かがゲート前を走り抜けた気がしたらしい。確認できたのはダンジョンを降りていくような複数の足音のみ。

 本当に誰かがダンジョンに忍びこんだのか、聞き間違いか、あるいは低層の魔物が入り口付近まで上がってきたのか、判断の出来なかった看守は大事にはしなかったようだ。


 第一ゲートを通らずにダンジョンに忍び込む利点が見当たらない。

 元来ゲートは魔物を街へ解き放たないための措置だ。外から入るものに対しては幼い子供が迷い込まないようする注意する位で、それ以外でダンジョンに潜る人間に対しては特に制限は設けていない。

 そのような理由も相まって、看守達は特に気にはしていないようだった。


「凍月を狙って先に入ったやつが居るのかもな……」


 リョウがアンの支持を受けながら先頭を歩き始める。


「凍月の情報なんて私達以外は知らないと思うけどなぁ。マイトが凍月に興味あるとは思えないし」


 リョウに引き続くアン。


 アンとシンには昨日マイトに会った事。マイトが凍月の情報を掴んでいた事をリョウは告げていた。

 ガラスの小瓶を受け取った話だけは伏せていたのだが。

 あれほど忌み嫌っている相手から物を受け取るという行為は、リョウとしては隠しておきたい事実なのだ。


「まぁ状況を見るに誰かが潜ってるのは確かだと思うけどな。ここに慣れないハンターが巣でも突っついて逃げ出したんだろ」


 しんがりを勤めるのはシン。一瞬の火力ならリョウより高い彼にとって、しんがりの役目は最適だ。


 彼の述べる可能性も少なくはない。

 事実そのダンジョンに慣れてないハンターは、ダンジョンのどこに魔物が巣を作っているのか分からない為、必要以上に魔物を刺激してしまうことがある。

 それを防ぐためハンター達は慣れないダンジョンに潜る時は、先人達の苦労から成り立ったダンジョンの地図を街で手に入れてから潜るのだが、そうしない者も少なからず存在する。

 そのようなハンター達が魔物を刺激すると、それ以外の階に巣食う魔物たちも共鳴して殺気だつ。

 『レゾナンス』と呼ばれるこの現象は、長いときは一週間以上も続くこともある。その為影響が命の危機にまで直結するハンター達にとっては、大変迷惑な状態として忌み嫌われている。


「レゾナンスで済めばいいけどなぁ……」


 そう願望交じりに呟くリョウは、前方の角に違和感を感じ歩みを止める。


「どうしたの?」


 急に足を止めたリョウに、心配そうな声を掛けるアン。


「シン。前に出ろ」


「お、おう。多いのか?」


 リョウの指示従うシン。


 リョウがシンを前に出すということは、単純な高火力を欲している証拠。単体を相手にするだけならリョウの方が効率的だからだ。

 彼の愛剣『炎陽』は多数を一気に殲滅することに適している。


「角の影に20位だな。突き当たりだ、ここから一気に燃やし尽くしちまえ」


「任せとけ」


 シンがゆっくりと炎陽を抜刀する。

 燃えるような鞘から抜き放たれたのは、両刃の綺麗な直刃。刀身には炎の紋章。

 炎の魔力が込められた名剣が、徐々に刀身の温度を上げていく。


「燃えろ」


 シンが告げた途端。炎陽の刀身から赤い炎が一斉に溢れ出る。

 薄暗い回廊が一気に照らされ、角の陰に隠れていたビックラットたちの姿が確認できる様になる。


「うぉら!」


 声と共に上段から下段に思い切り一振りするシン。

 炎陽から炎の塊が放たれ、回廊の突き当りまで勢いよく飛んでいく。


 炎を瞬時に放てる魔剣の使い手。これこそ『焔火』と言うシンの通り名を確立した一撃だ。


「羨ましい位の火力だな」


 突き当りの奥から響くビックラット達の断末魔に満足したリョウは再び歩き始める。


「凍月を手に入れたら、お前も二つ名持ちの仲間入りだ」


 炎陽を鞘に収めながら軽く述べるリョウ。


「無事に手に入れられるといいねぇ」


 ニコニコしてリョウに寄りそるアン。


 凍月の間まで後17層。

 リョウが夢にまで見た宝剣はすぐそこまで迫っていた。

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