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トレジャー!  作者:
3・通り魔(後編)
33/35

3-1 想いは世界を凍らせる

 世界がスローモーションに変わる。

 目の前に立つマイト。そしてマイトの背後で飛び交う、ナイトマンの触手。

 リョウの目に映る全ての物が、緩慢な動きへと変わっていく。


(想い……凍月を手に入れた理由……)


 リョウは、凍月の柄を力強く握る。


 凍月を手に入れた理由。それは殺された両親の仇を討つため。


『おとぉさーん、おかぁさーん!』


 3年前。

 リョウの両親は殺された。

 目の前で血を流す両親を見て、何も出来なかった自分。


 震える膝、ぼやける視界。

 当時14歳の少年には、力が無かった。

 力が無ければ、仇も討てない。圧倒的な力が欲しかった。


 その力として、凍月はうってつけであった。

 氷を操る魔剣。

 友人の持つ兄弟剣を見れば、その強さは明確。

 だからこそ、リョウは探し求めた。存在しないと言われていた、凍月を見つけ出した。


(そして……父さんの研究は、悪用なんかさせないっ!)


 尊敬する父の研究。

 悪用されれれば、多くの人が命を亡くすだろう。


『リョウ。この研究はね、世界を平和にする研究なんだよ』


 亡き父が、いつもリョウに語りかけていた言葉。

 彼は、常にこの世の平和のことだけを考えていた。

 そんな父の研究を、侮辱するような行為は見過ごせない。


(なにより、悪用だなんて、父さんが許す筈無いっ!)


 次の瞬間。

 リョウの心の中で何かが弾けた。呼応するかのように、強い光を放つ凍月。

 視界が青白い光によって埋め尽くされる。


「ひょう、ごく……」


 何故その言葉が口をついて出てきたのか、それはリョウにも分からない。

 しかし、その単語が、凍月の力の引き金になるという事だけは、なぜか分かった。

 だからリョウは口にする。引き金となるその単語を。

 

氷獄(ひょうごく)!」 


 ガラス同士をぶつけたような、澄んだ高音が響き渡る。

 次に感じるのは、冷え切った空気。

 氷その物かのように冷え切った空気が、リョウの周りを駆け抜ける。


「流石やっリョウ!」


 戻る視界。耳に届くマイトの声。

 凍月の放つ青白い光は既に収まり、カンテラの放つ暖かな光が辺りを照らしていた。


「これが、凍月の本当の力……」


 リョウは目の前に広がる光景に言葉を失う。


 リョウの目に映る光景は、先までの7ダンジョンと比べ、何もかもが変わっていた。

 石造りの床、壁はもう確認することは出来ない。その全てを、分厚い氷によって覆われていたからである。

 そして、何よりも変わっていたこと。それは目下の脅威であった、ナイトマンだ。


 マイトの背中を貫こうと、全力で伸ばしていた触手は、宙で固まっていた。

 それは、止まっているという比喩的な表現などではない。

 触手から始まり、前進を含めてナイトマンは、正真正銘固まっていた。


 床や壁と同じく、全身を氷に覆われ、まるで氷の彫刻のような姿に変わり果てたナイトマン。

 いくら再生能力に長けていると言えども、全身を一瞬にして氷漬けにされたとなれば、身動きを取れる筈も無い。


「この調子なら、なんとかなりそうやな……」


 氷像と化したナイトマンを、まじまじと見つめながら漏らすマイト。


「何がなんとかなりそうなんだ?」


「いぃや、こっちの話や。それよりどうや? 凍月、すごいやろ?」


 背後から声を掛けてくるリョウに、マイトは笑顔で語りかける。


「あぁ。すごい力だ」


 凍月を鞘に収め、改めて辺りを見回すリョウ。

 一瞬にして、辺りを氷で覆いつくす魔力。

 並みの魔法使いでも、ここまでの出力を出すことは難しいだろう。


「魔法ってのはな、魔力の総量も必要やけど、なによりも重要なのは、引き金となるそいつの想いなんや」


「あぁ、それは聞いたことがある」


 魔法とは、魔力がそこにあるだけでは形を成さない。

 言わば魔力は燃料なのだ。燃料に火を付けてるのが使用者の想い。

 魔力に意志や想いといった使用者の力が加わってこそ、強力な魔法が生み出される。


「アルベルト製の魔剣は、魔力を持たない人間でも魔法を使えるように、始めから魔力が刀身に込められとる。しかも『刀を振る』っちゅう、微弱な意志にも反応するように、込められえた魔力は強大や。せやから……」


「そこに、強い意志が加われば、強力な魔法が使える」


「そう言うこっちゃ。魔力は凍月が供給してくれる。せやからお前は、強い意志を持って行動するんや。わかったな」


「あぁ、わかった」


 素直にマイトの説明を受け入れるリョウ。自然とその頬が緩む。


 二人の間に流れるのは、4年前にも感じていた空気だ。

 リョウの知らない事を、何でも教えてくれたマイト。

 彼はリョウをまるで自分の弟かのように、そして、リョウもマイトを実の兄かの様に思っていた。


 あの悲劇から3年。

 再びその様な関係に戻れたことに、リョウは喜びを感じていた。


「さて、こっからが本番やで。目指すは38層や」


 カンテラを持ち上げ、マイトは37層に続く階段へと向かって歩き出す。


「あぁ。それよりマイト」


「ん? なんや?」


 マイトの後ろで、歩き始めたリョウが声を掛ける。


「もし、俺が凍月の力を引き出せていなかったら、お前はどうするつもりだったんだ?」


「そん時は、俺もお前もお陀仏やったかもなぁ」


 暢気な口調のマイト。

 あの時、ナイトマンの触手は、確実にマイトの背中を狙っていた。

 いくら『嫌われ者』の重力操作が鉄壁だとしても、背後の触手を正確に操作することは非常に困難だ。


「お前な……」


 今考えると、相当な博打をしていたマイト。

 それに気付いたリョウは、呆れ返る。


「でもまぁ、俺は信じとったで? お前の想いの強さは、俺が一番良く理解しとる」


「そう、だな……」


 どんな窮地であっても、自分の仲間を最後まで信じる。

 そんな信念を持っているからこそ、彼は『正義の盾』の頂点に君臨できるのかもしれない。



 

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