表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トレジャー!  作者:
2・通り魔(前編)
32/35

2-15 青年は少年に決意を与える

「おぉーやぁっぱりおるなぁ。殺気が駄々漏れな癖に、こっちに向かって来る気配も無い」


 壁にぴたりと身体を貼り付け、マイトは曲がり角の先の気配を探る。

 暗闇に包まれた7ダンジョン。頼りになるのは、聴覚、嗅覚、触覚だ。

 魔物の立てる音を拾い、その体臭を嗅ぎ取り、触れた壁や床から、標的の動きを察知する。


 そして現在も、リョウとマイトは曲がり角の先に居る標的、ナイトマンの気配を探り続けていた。


 全長2メートル程の、痩せ細った体を持つナイトマン。

 奴も現在、本来眼球が嵌っているであろう穴から伸びる10本の触手で、辺りの気配を探っているだろう。


「マイト。策はあるのか?」


 リョウが静かに尋ねる。

 強力な触手に加えて、全身を炎に包まれてもけろっとしている再生速度の速さ。

 明確な策が無い限り、打倒することは難しいだろう。


 しかし、この男は飄々とした態度で、こう告げる。


「んー特には無いで」


「お前なぁ……」


 呆れた口調のリョウ。

 先程、この男の強い決意に感銘を受けたのが、馬鹿らしくなってしまう。


「まぁ、全く無いって訳ではないんやけどなぁ。上手くいくかどうか……」


「なんだよ、もったいぶって」


 歯切れの悪いマイトの口振り。

 その時、マイトとリョウの意識は、完全にナイトマンからは外れてしまっていた。


「リョウ! 後ろやっ!」


 驚きを顔に浮かべながら、マイトが声を張り上げる。


「くっ!」


 その声に、咄嗟に凍月を抜き放ちながら振り向くリョウ。

 運良く、凍月の刃はリョウ目掛けて放たれていた触手を切り落としていた。


「こいつ、いつの間にここまで来てたんやっ」


 カンテラの出力を最大まで上げ、それを地面に置くマイト。

 揺れる光に、ナイトマンが照らし出される。

 

 気配を探った時、マイト達がいた曲がり角から、ナイトマンの気配までは、およそ30メートルはあった。

 その事に気を許し、ナイトマン討伐の策についてマイトとリョウが話していた隙。

 その一瞬の隙をついて、このナイトマンはリョウ達に接近していたようだ。


「グルルルル」


 奇襲が失敗に終わったことが不満なのか、低い唸り声を上げるナイトマン。

 うねうねと10本の触手をうねらせながら、こちらとの間合いを調整している。


「で? どうするんだよマイト」


「もうゆっくり説明してる場合やない。ぶっつけ本番や。えぇか、リョウ。今から俺が言うことをよぉく聞くんやで」


 ロングソードを抜き、中段に構えるマイト。

 目線はナイトマンに向けたまま、ゆっくりと告げる。

 その口振りからして、彼の考える策は、必ず成功するといった類のものではないようだ。


「こいつを倒すには、凍月の力が必要や。でもな」


「ガァッ!」


 マイトが言い終える前に、ナイトマンは咆哮と共に触手を一斉に伸ばす。

 作戦会議など、敵を目の前にして、そう易々とできるものではない。


「ちっ!」


「リョウ! ここは俺が前に出る!」


 触手を迎撃しようと、足を踏み出そうとしたリョウをマイトが制止する。


「マイトっ!」


 マイトの指示に従い、足を踏み止めたリョウ。

 しかしマイトを呼ぶ彼の声には、不安や心配等といった感情が入り混じっている。


「んな情けない声出すなや、リョウ。おぉら!」


 掛け声と共に、ロングソードを巧みに振り回すマイト。

 飛来する触手を、次々と切り伏せていく。


 しかし、一度切断した所で、ナイトマンは再生能力に長けている。

 切り落とされた傍から、触手は次々と生え変わってしまう。

 止む事の無い触手の雨。マイトは、その五月雨のような連撃を、剣で、拳で、そして身に纏う『嫌われ者』の重力操作によって防いでゆく。


「いいかっ! リョウ!」


 そんな攻防を繰り広げながら、マイトは声をあげる。


「さっきも言うたけどな、凍月の本当の力は、そんなもんじゃない!」


「どういう事、だ……?」


 マイトの言葉の真意が汲み取れず、戸惑うリョウ。


「刀匠、アルベルトが打ち出した、魔力を込めた名刀。そいつはなっ、ただ氷を出すだけで終わるような代物やない!」 


 ナイトマンの触手一本一本に意識を向けながら、背後にいるリョウへマイトは語りかける。


「氷を出すだけじゃ終わらない……」


 呟きながら、リョウは手に握られた凍月に目を落とす。


 青白く光る刀身。

 氷を操る魔力の籠められた、一級品。

 両親の仇を討つために追い求めてきた力、そのもの。


 しかし、マイトが言うには、リョウは凍月の本当の力を引き出していないらしい。


「アルベルト製の魔剣は、使用者の意志によって使える魔力が大幅に変わる! お前が強い意志を持ってそれを振るえば、それが起爆剤になって本当の力を引き出せる!」


「強い意志……」


 まるで、リョウを叱咤するかのようなマイトの力強い言葉。

 その言葉を反芻するかのように、口の中で呟き、凍月の柄を握る手にゆっくりと力を籠めてゆくリョウ。


「なんでお前は、その刀を手に入れたんや! その刀を振る理由はなんや! そうゆう想いを、ありったけ凍月に注ぎ込むんや!」


 ナイトマンが伸ばした10本の触手。

 その全てを一太刀で切り伏せたマイトは、リョウの方へ振り向く。

 そこには、魔剣を握る手に力を籠めつつも、自分にそこまでの力があるのか不安に感じている少年の姿があった。


 4年前、初めて会った時に見せた姿に良く似ている。


「お前なら出来るっ! いや、やってみせるんや! そんなことも出来なくて、なぁにが両親の仇討ちやぁ!」


 もはやマイトは、次に生え変わり、襲い掛かってくるであろう触手など気にかけてはいない。

 

 リョウなら凍月の本当の力を引き出せる。

 それは願望などではなく、確信だ。


 リョウの想いの強さは、マイトが一番よく理解している。

 冷めたような態度をとっているが、その身に宿している想いは、誰よりも熱く、強い。


「リョウ! お前の想い見せてみぃ!」


 最後の叱咤。

 次の瞬間。少年の目には、4年前には無かった、強い決意が宿っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ