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トレジャー!  作者:
2・通り魔(前編)
31/35

2-14 生真面目な男の結論

 ズズンッ

 と、ダンジョンに地鳴りが響く。

 天井から落ちてきた埃や石が、頭を叩く。


「おぉーなんやさっきから上の階層は騒がしいのー」


「ハルカとルーナが喧嘩でも始めたんじゃないか? だから俺は、あの二人を一緒にするのは反対だったんだ」


 暢気な口調のマイトに、リョウがきつい口調で不満を漏らす。


 地鳴りが始まったのは5分ほど前。

 しかし、その5分の間に、既に地鳴りは10回以上響いていた。

 

 リョウには、ハルカ達が現在どの階層にいるかは分からない。

 しかし、上方の階層で起きた衝撃が、これだけまじまじと伝わってくるのだ。

 上層では、相当な応酬が繰り広げられているのだろう。


「まぁ、あいつらも気が済んだら辞めるやろ。それよりも、ほれ。36層は直ぐそこや」


 マイトが、手に持つカンテラを前方に揺らす。

 そのささやかな光によって、闇の中から浮き出たのは、階段だ。

 

 現在リョウとマイトが居るのは35層。

 つまり、目の前の階段を下りていけば、もちろんそこは36層。

 第一の障害、ナイトマンが守る階層だ。


「あぁ……」


「なんや、リョウ? 怖いんか?」


「いや、何でもない。行こう」


 覗きこむ様にして顔色を窺ってくるマイト。

 しかし、リョウはそれを避ける様に、下へと続く階段に足を伸ばした。


 7ダンジョンに入ってからというもの。

 リョウは一つの事だけを考え続けていた。


 それは、フェンミリア=ティフェレトについてだ。


 フェンミリア=ティフェレトが、元『正義の盾』の隊員だということ自体は、リョウは3年前から知っていた。

 そして両親を殺害したフェンミリアが、マイトの部下だということも知っていた。

 フェンミリアとマイトは、よく二人でリョウの実家に足を運んできていたからだ。


 だからこそ、3年前のあの日、リョウはマイトが許せなかった。

 力があるにもかかわらず、自分の部下の謀反に気づけず、阻止できなかった男。そして、その部下を一向に捕まえることの出来ない男。

 両親を殺されたという、フェンミリア本人にぶつけられないリョウの怒りは、マイトの無能さに対する嫌悪感という形にすり替わっていた。

 自分の部下であるフェンミリアを罰から守る為、わざと捕まえていないとさえ考えたこともあった。


 しかし、今日一日でリョウは多くの事を知った。

 彼ら『正義の盾』は、フェンミリアを捕まえることを強く願っている。

 マイトが、この作戦にリョウを参加させた事にしても、彼なりの思惑があるのかもしれない。


 3年間積もり積もった、『正義の盾』に対する不信感が、リョウの元から消え去ろうとしていた。


「なぁ、マイト」


「なんや?」


 階段を降りながら、リョウは後方のマイトに声を掛ける。


「フェンミリアは、なんで『正義の盾』を裏切ったんだ?」


 3年間、聞くことの出来なかった疑問。

 どれほど熱心に『中央広場の悲劇』についての情報を集めたとしても、知ることの出来なかった疑問を、リョウはマイトに投げ掛けた。


「あいつは……真面目で、誰よりも正義感の強い奴やった」


 昔を思い出しているのだろうか、ゆっくりとマイトが言葉を紡ぎ始める。


「俺みたいな適当な人間とは正反対やったな。誰よりもティパール、いや、ユリアン国が平和になることを望んどった人間やった」


「じゃあ、なんでそんな奴が父さんと母さんをっ!」

 

 まるでフェンミリアを庇うかのようなマイトの物言いに、リョウが語気を強める。

 リョウの目の前で両親を殺したのは、紛れもなくフェンミリアだ。

 その張本人が、マイトの言うような男だとは、リョウにはどうしても思えなかった。


「そもそも、4年前。あの惨劇が起きる1年前やな。なんで国家直属の治安部隊の俺が、リョウのオトンとオカンの所に来たと思う?」


「それは……」


 リョウには、答えを述べることは出来なかった。


 4年前。両親が研究の大詰めにまで差し掛かった頃。

 マイトが、リョウの実家に来訪した。


 両親とマイトは、奥の部屋でなにやら話をし、その日はそれで終わった。

 その日から、毎日のようにマイトは家に訪れた。

 時には、他の隊員を引き連れ、父や母、そしてリョウにまでも優しく接してくれた。


 剣術。ダンジョンでの知識。人生の歩み方。

 マイト達は様々なことを教えてくれた。

 しかし、来訪の理由だけは、いつになっても教えてはくれなかった。


「お前のオトンとオカンの研究は、軍事転用される予定やったんや」


「なっ……!?」


 マイトの発言にリョウは絶句する。

 確かに、ティパールを統治するユリアン国は世界有数の軍事国家として、日々新たな技術を手に入れようと躍起だ。

 隙あらば攻め入ろうとしている隣国に対して、強力な武装を求めている。


「あの日、俺はカイさんに研究結果を提出するよう伝えに行ったんや。軍事目的に、研究を利用させてもらうために」


「そんな! 父さんがそんなこと認めるはずがない!」


 先ほどよりも、更に大きな声で反論するリョウ。

 ダンジョンの中ということなど、今の彼にとっては知ったことではない。


 リョウの父親。

 カイ=クレセッドは、何よりも公共の福祉の為に研究を進めていた。

 魔物に学習を与えることによって、その力を動力や平和維持の為に使う。

 なによりも社会の為にと、研究を進めていたカイが、軍事転用など認めるはずはない。


「お前の言う通りや。カイさんは、俺らの申し出を断った。『この研究を、そんな野蛮なことに使うとは。それで貴様達は、この国の平和を守っているつもりか!』ってな」


 苦い顔で当時を物語るマイト。


「言われて、俺は恥ずかしなったわ。平和の番人を名乗る資格なんてないんやないか。この人の方が、よっぽど平和について真剣に考えてるんやないかってな」


「そうか……」


 亡き父の力強い言葉に、リョウは目を伏せる。


「俺は、目が覚めた気分やった。上層部に掛け合って、軍事転用の件を無かったことにした。そして『正義の盾』は、それまで以上に活動を強化した」


「それじゃあ、なんでフェンミリアは研究の情報を……」


「言うたやろ? 奴は正義感が強い男やった。軍事転用の件が無くなり、『正義の盾』が本当の平和を求めて活動をしても、街の治安は一向に良くならんかった。それが奴にはどうにも許せへんかったみたいやな。そして……」


 一呼吸空け、マイトが言葉を続ける。

 真面目で、愚かな部下が行き着いた滑稽な結論。

 街を震撼させた男の、真意を語る。


「そして奴は考えたんや。ほんまの平和を築くためには、武力によって一端世界を蹂躙せなあかんってな」


「そんなの、間違ってる」


「そうや。あのボケの考えとることは、大間違いや。思考その物を放棄してまった結果や。せやから、俺があいつを止める。それが上司としての役目や」


 決意の篭ったマイトの口調。

 この男にしては珍しく、本心から出た言葉のようだ。


「そうだな。うん、そうだ」


 マイトの言葉を噛み締めるようにして、リョウは何度か頷く。

 

「さて、こないつまらん話はもうしまいや。気ぃ引き締めて行きやぁ、リョウ。36層や」


 いつもの明るい口調に戻るマイト。

 下りの階段が終わりを告げ、36層に辿り着く。


 前回は敗走を期した、ナイトマンが守る階層。

 しかし、今回は逃げる訳にはいけない。

 リョウの両親のためにも。そしてとんでもない考えに行き着いた、愚直な男の為にも。


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