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トレジャー!  作者:
2・通り魔(前編)
30/35

2-13 岩と爆薬の仲違い

「へぇー。じゃあ、マイトは裏切りに気付けなかったんだねっ!」


 両手を素早く動かし、手近な魔物を次々と解体していくヒカル。


「直属の懐刀に裏切られるようじゃ、一組織のトップとしてどうなのかしらねぇー」


 そのヒカルの後方で、ハルカは試験管を投げ、魔物を爆風に包んでいく。


「まぁ、マっ君も、あれでお人好しだからねぇ。『俺が信じてやらないで、何が上司やねん』とか言ってたよ」


 お世辞にも上手いとはいえない、マイトの声真似をする少女。

 ルーナ=ビナーは、二つに括った金髪を揺らしながら、その拳一つで魔物を粉砕する。


「お前ら! 真面目に戦えっ!」


 赤色に淡く光る両刃の剣を振るいながら、シンは大きく声をあげる。

 

 7ダンジョン18層。

 ミチルが、叫び声にも似た大声を上げていたその頃。

 シンを始めとする、第二陣のメンバー達も、フェンミリアについての話をしていた。


 状況として異なるのは、魔物との戦闘を繰り広げながら、という点であるが。


「しょうがないでしょー? この子達が、次から次に出てくるんだからぁ」


 目の前に広がるのは、巨大なヒルの大群。

 見るものが見れば、卒倒してしまいそうな光景だ。


「お前が、ホワイトリーチの巣なんか爆破するからだろうが!」


 7ダンジョン名物、白く巨大なヒル、『ホワイトリーチ』との戦闘を始めてから既に10分以上。

 未だに、シン達は戦闘を続けていた。


 事の発端は、ハルカの一言。

 フェンミリアの正体について話している最中に、ハルカがふと呟いた一言だ。


 『それはそうと、魔物。出てこないわねぇ』


 何を馬鹿なことを、というのがシンの感想であった。


 シンを始めとする第二陣は、先行するリョウ達が38層に突入した後。混乱に乗じて、38層に潜入するのが目的だ。

 つまり、それ以前で魔物に遭遇し、時間をロスしてしまうなど、あってはならないことなのである。

 もちろん、シンもそうならないように細心の注意を払って進行していた。

 現に18層まで、魔物に出会わずに来ていたのである。


 しかし、その注意をシン以外の馬鹿者達は理解していなかった。


 『せっかく、ダンジョンに潜ったのに、魔物と戦わないなんて意味無いよねっ!』

 『私も突入前に、肩慣らししておきたいかも!』

 『ここの魔物は、光によってくるんでしょう? なら私がぁー』


 後方で飛び交う、物騒な会話。

 シンが止めようと後ろを向いた時には、既に光が闇を切り裂いていた。


「はははっ! まさかこんなに一気に出てくるだなんて、思わなかったよっ!」


 一瞬で十数匹のホワイトリーチを、肉塊に変えていくヒカル。

 しかし、爆破によってぽっかりと空いた巣穴からは、処理した数と同じか、それ以上のホワイトリーチが湧いてくる。


 ハルカの投げた試験管から生じた爆発は、不運にも近くにあったホワイトリーチの巣を吹き飛ばしていた。

 一匹いれば、30匹は存在すると言われているホワイトリーチ。

 その巣穴を爆破したとなれば、湧き出るそれは十や二十で済む筈がない。


「笑い事じゃねぇだろ! っと、燃えろ!」


 横薙ぎに炎陽を振るい、飛び掛ってきた数匹を炎に包むシン。

 黒い消し炭に姿を変えたホワイトリーチが、ぼとぼとと床に落ちていく。


「本当に、これじゃ埒が明かないねぇ」


 次々とホワイトリーチを、鉄拳で潰していくルーナ。

 彼女は、武器の類は一切持たず、己の拳のみで戦っていくスタイルのようだ。


「ルーナ! お前ならどうにかできるだろ!」


「これでもシン君よりは年上なんだけどなぁ。呼び捨てはどうかと思うの」


「ルーナさん! 貴女の御高名は伺っております! どうか現状を打破して下さいませんか!」


「はい。良く出来ましたぁっとぉ!」


 シンの不出来な敬語に満足したのか。

 ルーナは後方に飛んで、自身を囲うホワートリーチの群れから抜け出す。


「敬語は大事よね。そうそう、敬語は大事なのよ」


 まるで自分が、人生における教訓を説法したと言うかの如く、何度も頷くルーナ。

 彼女は懐から一組のガントレットを取り出す。


 それは黄金に輝くガントレット。

 マイトの纏う『嫌われ者』に並ぶ、『正義の盾』が有する一次的秘宝の一つだ。

 そして、このガントレットこそ、ルーナ=ビナーをマイト直属の戦力としての地位を確立させ、はたまた彼女に『大地の姫』などという、ふざけた二つ名を与えた元凶である。


「ヒカル君、ハルカちゃん、シン君。巻き込んじゃったらごめんねぇ!」


 ガントレットを装着したルーナが、大きく右腕を振りかぶる。


「よっこい、せぃっ!」


 掛け声と共に、ダンジョンの床目掛けて振り下ろされる右の拳。

 次の瞬間、18層は地鳴りと轟音に包まれた。


「避けろハルカ! ヒカル!」


 咄嗟にシンが声をあげる。

 それも当然。まるで津波のように隆起した岩が、眼前に迫ってきたのだ。


 ルーナの拳によって砕かれた床を中心として、前方に岩の津波が生じていた。

 高さ3メートルは在ろうかと言う程の巨大な岩の波。次々にホワイトリーチを飲み込んで行く。


「噂以上の力だな……」


 辺りを覆いつくしていたホワイトリーチの群れを、全て飲み込んでしまった岩の津波。

 その惨状を眺めながら、シンは半ば呆れたように呟く。


 ルーナの所持する、黄金のガントレット。

 名を『岩窟王』

 岩を自在に操る魔力が込められた一品であり、それを嵌めた拳の一撃は大地を割る程の威力を誇る。

 その高い威力故、小回りが利かないのが難点ではあるが。


「よかったよかったー。ちゃんと避けてくれたんだねぇ。シン君とヒカル君は大丈夫だとは思ってたけど、ハルカちゃんも意外と動けるんだねぇ」


「あらぁ? 馬鹿にしないでほしいわねぇ」


 ルーナ自身は、素直な感想を述べたつもりなのだろうが、皮肉と受け取ったハルカは眉を吊り上げる。


「バカになんかしてないよぉ? でもハルカちゃんは、あまり運動しなさそうだったからぁ」


「まぁ、貴女みたいに下品な戦い方はしないように心掛けているもの。必然的に運動量は少なくなるかもしれないわねぇ」


 見た目は見目麗しい少女二人の口喧嘩だが、両者共に立派な女性。

 二人の間には、女性特有の不穏な気配が流れている。


「シン。僕怖いよっ……」


「あぁ、ハルカ相手に真っ向から嫌味を言える奴なんていないからな……」


 幼馴染の中でも、口喧嘩の実力は圧倒的なハルカ。

 それを熟知している為、男性陣は元より、アンでさえハルカと真っ向からの口喧嘩はしようとしない。


「下品ねぇ。でもいくら優雅な戦い方だと言っても、そのせいで運動不足になってるなら意味が無いんじゃなぁい? フリルが多い服を着ているのは、体型を隠す為なのかしら?」


「なっ!? あんたが言うような、醜い体型はしてないわっ!」


「あっ地雷踏んだっ」


「一番の地雷だな」


 顔面を真っ赤にして声をあげ、懐から試験管をいくつも取り出すハルカ。

 それを見て青褪めるシンとヒカル。


 古今東西。女性に対して体型に関する話題は最大の禁忌。

 それがいくら華奢な女性であっても、だ。

 気安く禁忌に触れるということは、すなわち死を意味する。


「こりゃキレるな」


「キレッキレだねっ」


「はぁ、まぁた魔物が寄ってくるぞ……」


 次の瞬間、切って落とされるであろう、二人の乙女の戦火。

 どう収拾をつけたものやらと、シンは頭を抱えるのであった。

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