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トレジャー!  作者:
2・通り魔(前編)
28/35

2-11 白銀の鎧は噂の種

 『黄金の世代(ゴールデンエイジ)』の本部が存在するビルは、決して大きなものではない。

 必然的に一つ一つの部屋も、比較的小ぢんまりとした印象を与える部屋が多い。


 それはクランマスターである、シンの部屋も例外ではない。

 大きな物書き机と、円形のテーブルしか存在しない質素な部屋。

 5人も部屋の中に存在すれば、一気に過密地帯へと早代わりしてしまう。


「だぁぁぁぁ! なんでうちなんだよ!」


 そんな『黄金の世代』クランマスター室の持ち主であるシン=アルフォルは、悲痛な叫びを上げていた。


 理由はただ1つ。

 5人でも手狭になってしまう部屋に、十数人もの人間が大挙していたからである。


 部屋にいるのは、ブロウズとの戦闘を終えたリョウ、シン、ミチルに加え、アン、ハルカ、ヒカルの幼馴染6人。

 このメンバーだけであれば、手狭になることもない。

 なにより幼馴染の6人が集合する事自体は、シンとしても文句が無い。


 問題は、その6人以外にいる鎧の集団であった。


「すまんなー。手土産も持たずに来てしもて。なんやったら今からでも買いに行かせよかぁ? スカイウェルのチェリーパイなんかどうや?」


 わざとらしい口調で、そう告げる馬鹿者。

 手土産を持って来ようなどと、この男は決して本心から思っている訳ではない。

 8人もの鎧の集団を引き連れ、強引にクラン本部まで来る様な男だ。彼、マイト=ケテルには遠慮という物など存在しないのだろう。


 ブロウズとの戦闘を終えたシン達が、『黄金の世代』に戻ろうとした時。

 戦闘を眺めていた警ら隊8人を引き連れたマイトが、声を掛けてきた。

 

 彼が言うには、今後の為に情報を整理しておきたいらしい。

 そして、その会場として選ばれたのが『黄金の世代』本部。

 『正義の盾』の息がかかっていない場所として、選ばれたのである。

 

「手土産とか、そういう問題じゃねぇ。あぁ、絶対他のクランに変な噂を立てられる……」


 打ちひしがれるシン。


 クランの本部に『正義の盾』のメンバーが訪れると言うのは、非常にまずい。

 治安維持部隊である『正義の盾』が、一般のクランを訪れる理由は二つ。

 1つは、そのクランが治安を脅かすような存在である場合。

 そして、もう1つは『正義の盾』を支持している組織だという場合。


 『黄金の世代』は周辺のクランからも信頼を置かれている、慈善的な集団だ。

 よって、非合法な事などする訳も無く、必然的に後者の嫌疑が濃くなるだろう。

 ティパール全市民から嫌われる『正義の盾』。これを支持していると勘繰られれば、今後のクラン運営にも少なからず支障が出てしまう。

 

「まぁまぁ、良いじゃないのシン。ここはチェリーパイで、手を打ちましょー」


「スカイウェルのチェリーパイ、僕も好きっ!」


「双子は黙ってろ。話がややこしくなる」


 円卓について、声を上げるハルカとヒカル。

 そして、そこに睨みを利かせるリョウ。

 

「大体、非常識も良い所なんじゃない? こんな大人数で押し寄せて」


 マイトの連れて来た警ら隊達を眺めながら、アンは眉を吊り上げる。

 『黄金の世代』の財布を握る彼女としても、今後のクラン運営を危うくする存在の訪問は歓迎できない様子だ。


「それは俺も賛成だなぁ。こうも男ばっかりじゃむさっ苦しくて適わねぇよ」


「あぁすまんかったのぉ。ミチル君がおるなら、ユイも連れてきたら良かったなぁ」


「なっ!? なんであの鉄面皮が出て来るんだよ!」


 マイトの指摘に、あからさまに動揺をするミチル。

 彼がここまで動揺すると言うのも珍しい。


「ユイちゃん綺麗よねぇー」


「クールビューティー? だよねっ!」


「どうせおっぱいにしか目が行ってないんじゃないの?」


「いやアン。ミチルのことだ。尻かもしれない」


「あぁ、うちのクランの信頼と実績が……」


 一斉に口を開く幼馴染達。

 今後のクランの運営を心配する、クランマスターのため息も混ざっていたが。


「お、おおおおお前らは黙ってろ! それにリョウ! 俺は美脚派だっ!」


 顔を真っ赤にしながら、大声を上げるミチル。

 後半の的外れな発言からも、相当動揺していることが見て取れる。


「あっはっはっは、まぁからかうのはこれ位でええか。お前ら、もう帰って良いでぇ」


「はいっ!」


 ひとしきり笑い、満足したのか、マイトは連れて来た警ら隊のメンバーたちに帰宅命令を出す。

 ぞろぞろと部屋を後にする警ら隊。

 それを見て、目を丸くするシン。


「あいつら、関係ないのかよ……」


「連れてきたら、シンがおもろい反応してくれるんやないかとおもただけやで? そもそも、俺は『正義の盾』の長官や。最高決定権を持つ人間さえおれば、十分やろ」


「リョウ、俺こいつ殺したい……」


「今は我慢の時だ」


「さて、ほんなら情報整理といこかぁ!」


 幼馴染メンバー6人を騒がせるだけ騒がせておいて、マイトは本題へと話を進める。


 どうやら警ら隊員の8名は、本当にシンへの嫌がらせの為につれてきたらしい。

 そんな上官に素直に従う、警ら隊員も大概ではあるが。


「首謀者。分かったんだろ?」


「おっまえは本当に、楽しみを後にとっておくって事を知らんのぉ。リョウ」


 マイト個人としては、今回の事件の首謀者を突き止めたことは、とっておきの情報であった。

 それこそ、ある程度情報整理が終了した状態で伝え、皆をあっと驚かせようとしていた情報だ。

 それを真っ先にリョウが言ってしまったというのは、心地の良いことではない。


「『毒牙』が裏で糸を引いているのは分かってるんだ。首謀者はフェンミリアなんだろ。お前がブロウズが暴れている所に来なかったのは、その確証を得る為だ」


「さすがやなリョウ」


 リョウにはマイトの行動はお見通しのようであった。

 しかし、その本音を見抜かれたマイトの表情は、どこか嬉しげな感情が垣間見えた。


「フェンミリアって、フェンミリア=ティフェレト……?」


 聞き覚えのある、名前にアンが言葉を失う。 


 フェンミリア=ティフェレト

 3年前の『毒牙』による暴動。

 『中央広場の悲劇』の首謀者であり、歴史上唯一ティパール追放命令を下された極悪人。


 『噂話』から依頼された脅迫事件の黒幕としては、お釣りが来る程の人物だ。


「あんな極悪人と同姓同名な奴が何人もいて堪るかよ。それで? 首謀者は分かったから、俺らに手伝って欲しいってか?」


 皮肉たっぷりに言うミチル。


 それもそのはず。

 『正義の盾』が犯罪者を討伐する際、民間人や、他のクランに助けを請うことは無い。

 長官がいくら適当な人間だとしても、ユリアン国直属の組織だ。

 統治される側の人間に手を貸してもらうわけにはいかない。


 しかし、その統治組織のトップは、すんなりと今までの常識を覆す発言をした。


「おっ、話が早いやん。その通りや」


「あらぁ、自分の所の手じゃ負えなくなったのかしらー?」


「いや、そういうわけじゃないだろ……」


 ミチルに続いて皮肉を重ねるハルカに、それまで打ちひしがれていたシンが口を挟む。


「おぉシン! やぁっと立ち直ってくれたんか!」


「おかげさまでな! どうせ、お前は自分の所の部隊を出したくないんだろ」


 クラン運営に支障をきたしたお返しと言わんばかりに、鋭い目線を向けるシン。

 

「なるほど。上に報告をしたくないから、俺達を小間使いって訳だな」


 合点のいったリョウも、シンと同じくマイトを睨む。


 今回の事件は、『正義の盾』としても上層部には知られたくない一件だ。

 3年前の事件の首謀者が、再びティパールで悪さを企んでいる。

 これが『正義の盾』の上司とも言える、ユリアン国に知られてしまえば、統治権の収縮も免れないだろう。

 そのため実働部隊には、今回の事件をある程度知っており、尚且つユリアン国に報告が上がらない人間こそ、好ましいと言うわけだ。


 つまり、リョウ達が適任というわけだ。


「そない悪い言い方せんとってやぁ。今回の件はリョウにも関係あるわけやし」


 いくら睨まれたとしても、ぶれないのがこの男である。


 実際、今回の事件はリョウと大いに関係がある。

 両親を殺した元凶である『毒牙』。

 そして、『毒牙』が悪用しようとしているのはリョウの父親の研究。

 リョウには、この作戦に参加する足るだけの動機が十分あるのだ。


「もちろんこっちやって、直属の部下なら何人かは出すで?」


 マイトには、直属の部下数名が存在する。

 他の隊員よりも、強くマイトが干渉出来るその部下達であれば、上層部に知られることの無いよう口止めをすることは可能だろう。


 一時の情に左右されない為に、根本的な部分に論点を向け、次いで最低限の譲歩も見せる。

 相手に自分の要求を飲ませるには、非常に有効な手段だ。


「お前、本当にこういう交渉じみた事は得意だよな……」


 諦めたかのようなリョウの口ぶりに、ここぞとばかりの笑顔を見せるマイト。


「これが、治安維持のトップなんだから、嫌になっちゃうわよね」


「アンちゃんはきついなぁ。とりあえず、これで交渉成立やな。目指すは7ダンジョン38層! そこがやつらの居場所や!」


「それで? 作戦決行はいつにするんだよ、まさか今からだなんて言わねぇよな」


 景気良く宣言するマイトに、ミチルが口を挟む。

 

 窓を見ると、既に暗くなっている。

 リョウとシンは、昼から7ダンジョンに潜っていたわけだし、ミチルもブロウズと戦ったばかりだ。

 もちろんマイトもダンジョンに潜っていた。

 いくらマイトと言えども、今から7ダンジョンの38層まで潜り、『毒牙』との決戦を迎えるという暴挙には出ないであろう。


 しかし、


「なぁに言ってるんや。今からや、今から。ほれ準備せぇ」


 この男には、加減という物が存在しないらしい。

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