表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トレジャー!  作者:
2・通り魔(前編)
26/35

2-9 人狼

「ふっ……」


 大きく息を吐き、地面を強く蹴る。

 凄まじいスピードで、周りの景色が後方へ飛び行く。

 狭い路地裏を疾走し、標的の後方へ回り込む。


 いくら先手を取って相手の懐に潜り込んだとしても、反撃を受けてしまっては意味がない。

 相手の反応が及ぶよりも早く、腰を右側に捻る。

 

 力を抜いていた両腕に、一気に力を込める。

 全身の筋肉を連動させ、右の掌一点に神経を集中。

 狙うは標的の腹部。


「だぁりゃぁ!」


 掛け声と共に、ミチルの掌底が放たれる。

 

 完璧なタイミング、角度、威力。

 舞打法を長年使用してきたミチルにだからこそ分かる、必中の一撃。

 掌底は、標的の腹部に深く突き刺さる。


 筈なのだが。


「くそっ!」


 ミチルの掌底は空を切ってしまう。

 

「ガァ!」


 まるで掌底が外れた事を嘲笑うかのように、ミチルの頭上に魔物の鳴き声が降り注ぐ。


「あんの野郎……」


 額に血管を浮かべながら、ミチルは標的を睨みつける。


 路地に面する建物の壁に、爪を突き立て張り付いている魔物。

 茶色の毛皮に全身を覆われ、顔は狼のそれの様。

 細く伸びた両腕の先には鋭い爪が光り、発達した後ろ足にも同様に鋭い爪が除いている。


 人狼型の魔物『ブロウズ』

元来好戦的な魔物ではあるが、知能や反応速度が秀でていない為に、脅威として考えられることは少ない。

 

 しかし、今回のブロウズは一味違った。

 舞打法の高速移動による撹乱にも素早く反応し、全ての攻撃を紙一重で避けられてしまう。

 明らかに格下だと思っていた魔物相手にてこずってしまう。これだけで、ミチルの怒りは爆発しそうになる。 

 

「少年! 早く下がりなさい! ここは我々に任せるんだ!」


「るせぇ! いいかぁ? もしお前らが邪魔してみろ? この犬っころより先に仕留めてやるからなぁ!」


 そしてこれも、ミチルの怒りを誘う要因。

 『正義の盾』警ら隊である。


 ミチルが魔物との戦闘始めてから数分後。

 騒ぎを聞きつけたのか、巡回中の警ら隊が集まってきたという訳だ。

 

「大体よぉ。お前らには、こいつの相手はちょいと荷が重いと思う、ぜっ!」


 犬歯を剥き出しにして、頭上のブロウズ目掛けて飛翔するミチル。


「グガァァ!」


 ミチルに呼応するかのように、雄たけびを上げるブロウズ。

 素早く壁に刺していた爪を抜くと、重力に任せて落下していく。


「舞打法。空技・弐式、雷雲」


 落下するブロウズと、上昇するミチル。

 交錯する瞬間、ミチルは身体を捻り、空中でブロウズ目掛けて連続で打撃を放つ。


 足、肘、肩、拳。

 全身の全てを駆使して打撃を放つ。


 目にも止まらない高速の連撃。 

 並みの相手であれば、出す機会すら無い様な大技。


「なっ!?」


 しかし、その大技ですらブロウズには届かない。

 放つ打撃越しに伝わるのは、肉の柔らかい感触ではなく、爪の硬い感触。


「はっはっはぁ! そうこなくちゃなぁ!」

 

 地面に降り立ち、高笑いをするミチル。

 

 ミチルが放った数多の打撃は、全てブロウズの爪によって阻まれてしまった。

 相手の力量を見誤ったことに憤りを感じたとしても、大技を無効化されたことに彼は憤りを感じない。

 前者は自分の洞察力不足ではあるが、後者であれば、それは強敵と戦えるという喜びへと変わるからである。


 『雷雲』の打撃全てを防いだブロウズ。

 その挙動は人間のそれのようであった。

 

 魔物でありながら、人間のような立ち回りの出来る個体。

 これほど面白い相手はいない。


「まだまだいくぜぇ!」


 ミチルは地面を蹴り、ブロウズまでの距離を一瞬で詰める。

 放つのは、全てが致命傷となりうる打撃の数々。


「グルルル」


 その打撃を低い唸り声を上げながら、的確に防御していくブロウズ。

 

(しっかし、なんだぁ? こいつ……)


 ブロウズと打撃の押収を繰り返しながら、ミチルは違和感を感じていた。


 ミチルの放つ攻撃は、全てがブロウズに対して致命傷となるような一撃だ。

 しかしブロウズは、それをすべて防御している。

 そう。「防御している」だけなのだ。


(反撃がねぇんだよな。魔物の癖に)


 ミチルの打撃を、まるで武術の達人かのように払いのけるブロウズ。

 しかし実際の達人であれば、あるはずの反撃が存在していない。

 ただ防御を繰り返しているだけ。魔物としてはありえない反応だ。 


(誰かが来るまでの、時間稼ぎ……)


「ミチル!」


 その時、ミチルの後方から聞き覚えのある声が響いた。


「リョウか!」


 実力十分の増援が現れた事を察知したミチルは、大きく後ろに飛び退いて、ブロウズとの距離をとる。

 そこには思った通り、リョウが凍月を構えて立っていた。


「なんだぁ? シンも一緒かよ」


 リョウの横で、炎陽を構えるシンの姿を見つけると、ミチルは悪態をつく。


「なんだとはなんだよ! それよりお前、怪我は無いか?」


 憎まれ口を叩かれても尚、ミチルの心配をするシン。

 仲間想いの彼らしい言動だ。


「はっ! ブロウズなんかに引けは取らねぇよ! だがこいつぁ変なんだよ。攻撃を仕掛けてこない」


「この魔物について、少し気になることがある。攻撃してこないのなら好都合だ、無力化する、ぞっ!?」


「グガァァ!」


 リョウが冷静に、凍月を振り下ろそうとした瞬間。

 それまでおとなしく防御だけをしていたブロウズが、リョウに向けて飛び掛ってきた。


 その脚力を生かした素早い動きで飛び上がり、鋭い爪を振りかざしてくるブロウズ。


「ちっ! 燃えろぉ!」


 突然の攻撃に、真っ先に反応できたのはシン。

 炎陽を横殴りに振り、リョウとブロウズの間に炎のカーテンを生み出す。


 防御、目くらましの為ではなく、ブロウズを燃やし尽くす勢いの炎だ。

  

「ガァ!」


 しかしこの炎も当たらない。

 近くの壁に爪を刺したブロウズは、急制動によって炎を避けた。


「おい、ミチル! こいつ攻撃してこないんじゃなかったのかよ!」


 ブロウズの追撃に備え、再び炎陽に大きく炎を纏わせながら、シンが大きく声を上げる。


「知らねぇよ! 俺の時は攻撃してこなかったんだからよぉ!」


「はっ! お前じゃ相手にならないって手加減されてたのかもな!」


「んだとこらぁ! 喧嘩か? 喧嘩してぇのかこらぁ!」


 売り言葉に買い言葉で、今にも喧嘩を始めそうになるシンとミチル。

 しかし、今はそんなことをしている場合ではない。


「おい! 来るぞ!」


「あっ、あぁ!」


「わぁってるよ!」


 リョウの指示によって、ミチルは舞打法で姿を消し、シンは炎陽を構える。


 個性の強すぎる幼馴染の中でも、常に冷静なリョウの指示だけには皆が従う。

 特にミチルが従う相手など、限られた者だけだ。


「ガァァ!」


 再び咆哮を上げながら飛び掛るブロウズ。

 牙を剥き出しにして、襲い掛かる。


「シン! 横だ! 凍れ!」


「おう! 燃えろ!」


 リョウは凍月を、シンは炎陽を思い切り振るう。

 ブロウズを挟むようにして出来上がる、炎と氷の壁。


 決して進路を塞いだ訳ではないが、これでブロウズが横に逃げることは出来なくなった。


「ミチル!」


「おうっ!」


 リョウが頭上に目をやり、声を上げる。

 舞打法の高速移動によって、飛び上がったミチルが姿を現す。


「舞打法。空技・参式、落雷!」


 空中で身体を大きく丸めたミチル。

 そのまま回転しながら、ブロウズ目掛けて落下していく。


 今まで、このブロウズは、高反応と急制動によって攻撃を避けてきた。

 しかし、今ブロウズはリョウ目掛けて一直線に前進をしている。

 通常の魔物がするような、我武者羅で、盲目的な突進だ。


 そして、シンとリョウによって作られた炎と氷の壁。

 これによって反応できたとしても、横に進路を変えることは叶わない。


 この攻撃は当たる。


「喰らえ!」


 回転によって勢いをつけたミチル。

 ブロウズ目掛けて、渾身の踵落としを放つ。


 ズガン! という打撃音。

 ミチルの踵は、ブロウズの脳天に吸い込まれていた。

 石畳を破壊し、顔を地面に叩き付けられたブロウズ。


 正に会心の一撃である。

 遠目で見ても分かる。ブロウズは完全に意識を失っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ