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トレジャー!  作者:
2・通り魔(前編)
25/35

2-8 確信と侵攻

「はぁ、はぁっ……」


 鼓動を速めた心臓が胸を叩き、肺が空気を求め続ける。

 真っ暗なダンジョン内。

 手持ちのランプの光を頼りにして、36層と35層を繋ぐ階段を一足飛びに駆け上る。


 いつ背後から触手が飛んできても可笑しくはない。

 そんな緊張感が、更に身体中の筋肉を強張らせる。


「リョウ、シン! 35層に出るで!」

 

 リョウの前を走るマイトが声を上げる。


「ちょっと待てマイト!」


「なんや!? もう追いついてきたんか!?」


 リョウの呼びかけに、マイトが勢い良く振り返る。


「おかしい。あいつは、追ってきていない……」


 リョウは異変に気付く。

 いくら感覚を研ぎ澄ましても、ナイトマンがリョウ達を追ってくる気配がしないからだ。


「単純に、あいつをまいたって事はないのか?」


 後ろから追いついてきたシンが、楽観的な見解を述べる。

 しかし、リョウは納得をしない。


「あのナイトマンが普通の個体だとしても、この距離でまける訳がない」


 ダンジョンにおいて、通常の魔物から逃げ切るのなら、姿が見えなくなるまで走り続ければそれでいい。

 それこそ階層を、2つ程変えてしまえば安全だ。

 左右に曲がり角を幾度も繰り返すダンジョンでは、それで十分なのだ。


 しかし今回三人を追っているであろう相手は違う。

 ナイトマンは元来、好戦的な魔物だ。また感覚器官も鋭いため、一度狙った魔物を1層で見失うなどと言うことはありえない。

 それに加え、今回の個体は通常とは異なった雰囲気を纏っていた。

 追ってこないという事実に、何かしらの意図を感じる。


「じゃあ、あいつは今何してるって言うんだ? まだあの場所に居続けてるって言うのか?」


「案外そうかもしれへんで? なぁリョウ」


「あぁ。考えたくないけどな……」


 リョウは、あのナイトマンに見覚えがあった。

 正確には、あのナイトマンの行動に見覚えがあった。


『学習を繰り返せば、魔物は知性を持つ』


 リョウの父親。

 カイ=クレセッドが残した言葉だ。


 ダンジョンから魔物が出てこない理由を研究していたカイ。

 いつしか彼は一つの結論を導き出していた。

 魔物がダンジョンから出てこないのは、ダンジョンを出るという選択肢が魔物達に存在しないからだ。

 ダンジョンの外へ出す、『学習』を繰り返すことによって、魔物達はダンジョンの外へ行くことが出切るだろう。

 

 これはその他の点についても言えることであり、繰り返し学習をさせていくことで、魔物達は元の彼らには出来なかったようなことを易々と出切る様になる。

 ナイトマンのリスクとリターンを理解した、人間のような判断。

 そして、ある場所に近付かせないように、防衛させるといったことも可能だ。 


「あのナイトマンには、『学習』を施されているかもしれない。父さんの研究を悪用してな」


「カイさんの研究が?」


「あぁ。確証はないが、そう考えれば全てが繋がる。今、父さんの研究を悪用できるのは、3年前に情報を奪っていった『毒牙』だけ。そして通り魔事件現場に残った『毒牙』の痕跡」


「ほんで、『毒牙』のメンバーが目撃された、このダンジョンに現れた異常な魔物。『毒牙』が裏で糸を引いてるってぇ考えるのが自然やわな」


 マイトがリョウの意見に賛同する。

 

 疑惑が確証に変わる。

 今回の通り魔事件には、『毒牙』が関わっている。

 

 かつて『正義の盾』によって壊滅させられた筈の『毒牙』。

 しかし、今ティパールに彼等の魔の手が伸び始めている。


~~~~~


「っかぁーやっぱり外は空気がちがうのぉー!」

 

 7ダンジョンから地上に出たマイトは、大きく伸びをする。

 空は既に赤く染まっており、斜陽が暗闇になれた目を焦がす。


 結局あの後、リョウ達三人は地上に引き返すことにした。

 真偽を確かめるために37層に行くとしても、ナイトマンが邪魔となってしまう。

 その為、一旦地上に戻り体制を立て直すこととなった。


「リョウ、大丈夫か?」

 

 清々しい顔のマイトとは対照的に、浮かない顔のリョウをシンが心配する。


 35層において、父親の研究が悪用された可能性を見出してから、リョウは黙り込んだままだ。

 35層から地上に上がるまでの間も、険しい表情のまま、なにか考え込んでしまっている。


「あぁ、大丈夫だシン。ちょっと考え事をしてるだけ」


「長官! どこ行ってたんですか長官!!」


 リョウが言い終わるのと、ダンジョン前に男の声が響くのは同時であった。


「なんやぁ?」


 声の主を見つけ、マイトが呆けた声を上げる。


「なんやぁ? じゃないですよ! 仕事中にいきなり消えないで下さい!」


 それは、白銀のプレートメイルを着込む男だった。

 顔こそ兜のせいで確認できないが、鎧の色、腰に吊るされた両手剣、背負われた盾、この3点から『正義の盾』のメンバーだと言うことは即座に分かる。

 

 個人の特定より先に、所属している組織が明確になる。

 治安維持組織として重要な機能である。


「おーすまんすまん。ほんで? なんか用か?」


 悪びれる様子もないマイト。

 

 上司がこの調子だ。

 『正義の盾』のメンバーは苦労ばかりであろう。


「大変なんです! 外周東、68番街にて魔物が出現しました!」


「なんやて!?」


「現在、警ら隊複数名、及び民間人数名が交戦中!」


「行くぞ、シン」


 男の報告を聞き、いち早く動き出したのはリョウであった。


「おっおう!」


 慌ててシンもその後に続く。


「若いっちゅうのは、ええことやのぉ」


 全速力で走り出した二人とは対照的に、マイトは悠然とした態度を崩さない。


「長官! 行かなくていいんですか!?」


 一向に動こうとしないマイトに、部下の男は声を荒げる。


「んーえぇんちゃう? 俺らはゆっくり行こうやぁ」


 慌てる部下を見ても、その態度を崩さないマイト。

 やはり、この長官の下で働くのは苦労が絶えないのかもしれない。

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