表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トレジャー!  作者:
2・通り魔(前編)
23/35

2-6 迫り来る脅威

 7ダンジョン。別名『闇の洞穴』。

 死傷率トップクラスを誇るこのダンジョンは他と違い、光源を設置しておらず、常に濃い闇に包まれている。

 石造りのダンジョンは、左右に細かく曲がっており、魔物の息遣いが闇の向こう側から絶えず聞こえてくる。


 頼りになるのは、手元で最小限まで抑えた光を放つカンテラ、そして己の五感のみ。

 1メートル前方しか認識できない状況下で、魔物の気配をすばやく察知しなければならない。

 完璧な闇とは、それだけで十分な脅威と成り得る。


「だりゃぁ!」


 煌く炎陽の太刀筋が、魔物の身体を一刀両断する。

 ベチャ、と生々しい音を立てて床に落ちる肉片。7ダンジョン名物の巨大なヒル、『ホワイトリーチ』の亡骸だ。


 7ダンジョンの浅い層から深層まで、至る所に生息するホワイトリーチ。

 光を酷く嫌うその性質から、表皮は白く進化し、目が退化して無くなっている。

 その見た目で、全長は50センチ。見るものが見れば鳥肌物だろう。

 とにかく繁殖能力が高く、一匹見たら30匹は近くにいるのは確実。個々の危険性は低くとも、見付け次第駆除していかないと、取り返しのつかないことになり易い。


「おい! ドアホォ! はよ、その使い物にならんクソ魔剣を仕舞わんかい!」


「うるっせぇ! 分かってるよ!」


 炎陽を宙で一振り。

 ホワイトリーチの体液を素早く刀身から振り落とし、シンは炎陽を納刀する。


 炎陽は、その込められた魔力によって、刀身が空気に触れると薄く炎を纏ってしまう。

 炎自体は非常に微かな物ではあるが、ここは闇の洞穴。僅かな明かりでも、非常に目立ってしまう。

 そのためシンは、魔物を両断する一瞬のみしか抜刀をすることが出来ない。

 不用意に炎陽を抜刀し続ければ、延々と魔物をひきつけてしまうだろう。


「リョウ! このボケに任せてたら埒があかん! 凍らせてまえ!」


「お前は、指図ばかりだなっ!」


 マイトに悪態をつきつつも、リョウは一息で凍月を抜刀する。

 刀身から柄を通して、リョウの掌に、霜の降りてゆく感触が伝わる。


「ふっ!」


 地面に凍月をつきたてるリョウ。

 続けて、ゆっくりと凍月に力を込めていく。


「凍れっ!」


 次の瞬間。リョウ達3人を冷気が包んだ。


「さっすが凍月や。どっかの炎を出すしか能の無い、しょーもない魔剣より優秀やで」


 ひとまずホワイトリーチの脅威は過ぎ去った。

 そう確信して、リョウに歩み寄ってくるマイトの声。


「この場所が悪いんだよ! 炎陽だって十分すごい魔剣だ! しっかし床から壁まで全部凍らすなんて、うわっ!」


 それに続いて、シンの素っ頓狂な声と、身体を強く打ち付ける鈍い音がダンジョンに響く。

 彼は転んだようだ。床が凍っていたからだろう。


 床に突き刺された凍月。その刀身から広がった氷は、一瞬にしてリョウ達の周りを凍らせた。

 リョウ達を取り囲んでいた無数のホワイトリーチ達も、例外に漏れず凍り付いているだろう。


「さぁてと、アホは放っておいてやな。とりあえず、現在地点を確認しよか」


「お前、ちょっとは心配しろよ……」


 強かに腰を打ちつけたシンに見向きもせず、床に置かれたカンテラの明かりを頼りに、マイトは地図を開く。

 7ダンジョンは、暗闇に惑わされ道を違い易い。それに加えて、戦闘というものは方向感覚を狂わせるものだ。

 このように、戦闘毎に地図を確認しなければ深層に進むどころか、脱出さえもままならない。


「シン。腰は冷やさないほうがいいぞ。マイト、あと何層だ?」


「そうやなぁ、今36層やから、もう後2層やな」


 『正義の盾』が仕入れていた情報によると、『毒牙』のメンバーが現れたのは38層。

 たまたま、7ダンジョンでの単独演習を行っていた『正義の盾』の幹部が目撃したのだ。

 数人の柄の悪そうな男達と、その腰に光る悪趣味な短剣達。それは紛れも無く『毒牙』のメンバーだったようだ。


「そろそろ『毒牙』のメンバーに出くわしても、可笑しくない階層だな。シン、気をつけて行くぞ」


「おっ、おう!」


 凍った床の上を、ゆっくりと立ち上がろうとするシン。

 しかし滑る床に邪魔をされ、まるで生まれたての小鹿のような覚束ない足取りだ。


「なんやだらしないのぉ。ほれ、はよ行く……で?」


 一向に立てる気配を見せないシンに、嘲笑を浮かべていたマイトの顔が強張る。

 闇の向こうに気配を感じたからだ。


「リョウ」


「あぁ……」


 ゆっくりと腰を落とす二人。

 五感を研ぎ澄まし、闇の向こう側を探る。


 呼吸音、空気の流れ、床を削る爪の音。そして放たれる殺気。

 全てを読み取り、リョウは気配の主を感じ取る。

 

「でかいな、シン! 炎陽を抜け!」


 気配の主は、大きく、強く、強暴だ。

 この際、他の魔物の事など構っている暇はない。炎陽の炎で全貌を暴く方が先決だ。


「燃えろ!」


 先まで氷の上で這い蹲っていたシンだが、彼も死線を潜り抜けてきたトレジャーハンターの端くれだ。

 正確に、そして即座に状況判断をした彼は、炎陽を抜き放ち、辺りに炎を撒き散らす。


 炎に照らされる、凍った床、壁、ホワイトリーチの亡骸。

 そしてその後方に、気配の主が姿を現す。

 その姿を見たリョウは、思わず息を呑む。


 炎に照らされ姿を現したのは、全長2メートル程の地面に這い蹲る魔物だ。

 容姿は人間に限りなく近いが、こいつをみて人間だと判断する者はいないだろう。

 灰色の皮膚。骨と皮だけのやせ細った身体は何も纏っていない。それだけでも、十分身の毛のよだつ外見なのだが、最も異端なのは別の部位。

 本来眼球が嵌っているであろう穴から、数本の触手伸び出ているのだ。

 まるで人間の舌の様な質感で、長く伸びる触手。各穴から5本づつ、計10本のおぞましい触手がうねうねと宙で蠢いていた。


「ナイトマン……」


 リョウは呟く。

 この醜悪な外見を持つ魔物の名だ。


 ナイトマンは、この7ダンジョンの中でも、最深層に巣食うと言われている魔物だ。

 その醜悪な見た目に違わず、凶暴で強力な魔物。

 ナイトマン1匹を駆除するのには、手練のトレジャーハンターが10人以上は必要だといわれている。


「なんでこいつが36層に? こんな上にまで来るような魔物じゃないだろ」


 炎陽を構えながら、シンも言葉を漏らす。

 彼の言う通り、ナイトマンはダンジョンの深層で生きる魔物だ。

 36層といった浅い場所で、出会うような生き物ではない。 

 

「なんやゆうても、目の前にいるっちゅうことは変わらん! くるで!」


 マイトが叫ぶのと、ナイトマンが触手を勢い良く伸ばすのは、ほぼ同時だった。

 空間を最大限に利用して、上下左右から迫り来る触手。

 この触手のどれか一つにでも捕まれば、人間の骨など一瞬で粉砕されてしまうだろう。


「燃えろ!」


「凍れ!」


 互いに愛刀を振るいながら叫ぶリョウとシン。

 二振りの魔剣から、吐き出された氷と炎が、触手をいくつも飲み込んでいく。


「グルルルルル……」


 触手の半分を消し炭、残り半分を氷塊に変えられてしまったナイトマンが、低く唸る。

 しかし、そこは深層に住まう魔物。触手が使い物にならなくなった所で、その脅威は衰えない。


「ガァ!」


 ナイトマンが一吠えすると、全ての触手は生え変わり、再び攻撃を始める。

 他の魔物の追随を許さない再生力。これが、この魔物の最も恐れるべき部分だ。


「シン!」


「おう!」


 迫り来る第二陣の触手。それを二人の魔剣使いは、燃やし、凍らせ、両断していく。


 個々の触手を捉えるのは容易い。

 しかし、いくら処理をしても、次の瞬間には生え変わってしまう。

 これでは切りが無い。


 じりじりと下がっていく戦線。

 リョウとシンの額には、汗が流れ始めていた。


「マイト! まだか!?」


「もうええで! 時間稼ぎご苦労さん!」


 ここまで戦線に加わらなかったマイトが、ようやく声を上げる。

 戦線に加わらなかったといっても、何も彼は高みの見物をしていたわけではない。

 今回は、彼も一戦力として数えられている。それが同行の条件だ。

 リョウとシンが攻防を繰り広げている間、彼も彼なりの戦闘準備をしていた。


「ほな、一丁行こか! リョウ! シン!」


 マイトの合図で、二人は後方に飛び退く。


 突如として目標を失う触手。

 必然的に、全ての触手がマイトへと殺到する。それに反して、マイトは剣も盾も構えていない。

 絶望的な状況。しかし、マイトの顔に浮かぶのは笑み。


 『正義の盾』の長官という肩書きは、伊達ではない。 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ