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トレジャー!  作者:
2・通り魔(前編)
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2-4 苦肉の策

「ほんなら、1班は西。2班は南。3班は東。4班は北や。午後も気張ってきってやー」


「はいっ!」


 強い鈍りの利いた声。

 それに応える、男達の号令。


 中央広場に60人程集まる、白銀の鎧の集団。

 彼等からは「正義を守っている」という自信が伝わってくる。

 しかし、周囲の人間達から投げかけられるのは、賛辞や声援ではなく、迷惑そうな視線ばかり。

 このような組織は、ティパールでは1つしかない。 

 『正義の盾』である。


 ティパール中央区における午後の警備体制を始めるため、彼らは中央広場まで集まって来ていたのだ。


 そして、リョウとシンは、その集合で指示を出している一人の男に、会いに来た。


「マイト。ちょっといいか?」


「おっ! こりゃ珍しい。リョウが俺に声掛けてくるなんて、いつぶりのことやろか」


 後ろから掛けられたリョウの声に、舞台役者の様な、わざとらしい身振りで振り返る男。

 獅子のようにボリュームのある金髪。そして特徴的な細い目。

 マイト=ケテルは清々しいまでの笑顔で、リョウとシンを迎えた。


「どうしたんや? やっと『正義の盾』に入る気になったんか?」


「そんな訳無いだろ。ちょっと聞きたいことがあるんだよ」


 弾むような声で語りかけてくるマイトに、シンが口を挟む。


「なんや、シン=アルフォル君やないの。俺、今リョウに話してるんやけど? 正直俺、自分の事そうゆう所嫌いやわー」


「言ってくれるじゃねぁか。お前、俺がミチルみたいに好戦的じゃないと思ってたら、大間違いだからな」


「おぉこわっ。ほんで? シン君は好戦的で? ここで俺に切りかかってくるんか? 勝てると思ってるなら、それこそ大間違いやで?」


「あんだと……?」


 売り言葉に買い言葉で、ヒートアップし続けるシンとマイト。


 マイトとシンは仲が悪い。

 シンとしては、リョウにトラウマを埋めつけた元凶だという認識があるし、マイトからしてみれば、いつもリョウに纏わりついている迷惑なガキという認識だ。


 しかし、このまま口論を激化させてしまうと、白昼堂々血塗られた決闘が始まってしまうかもしれない。

 

「マイト。シンを虐めるのも大概にしてやってくれ」


「なっ!? 俺はいじめられてなんか無いぞ!」


 即座に意を唱えるシン。

 しかし、そんな彼にマイトは目もくれない。


「せやな、弱いもの虐めは止めにしとくわ。ほんで、何の用や?」


 そして、目もくれないのは、リョウも同様の様だ。


「通り魔事件についてだ。4日前、外周で起きた。周囲が傷だらけになっていた事件」


「ほう……」


「もう俺は存在意義が見出せない……」


 冷静なリョウ。そのリョウの言葉に表情を堅くするマイト。打ちひしがれるシン。

 三者三様である。


「なぁんで、俺に通り魔事件の話を聞きにくるんや? あの事件は『正義の盾(うち)』じゃ調べてへんで?」


 表情を堅くしたのも、一瞬。

 すぐさまマイトは、飄々とした雰囲気を取り戻す。


「そんな筈無いだろ? 『毒牙』が関係してるんだ。お前達が手出しをしていない筈が無いじゃないか」


 詰め寄るシン。しかしマイトの態度が崩れることはない。


「毒牙ぁ? 何で今更、『毒牙』なんかが関係してくるんや? あいつらは、みーんな俺らが倒したやないの」


 いつものらりくらりと、本音を話すことを避けるマイトだ。このまま詰め寄ったところで、真相を話すとは思えない。

 

 リョウはここで、切り札を切る事にした。


「なぁ、マイト」


「なんやぁ? リョウ?」


「今回の件。お前達が良くても、ユリアン国が知ったら、どうなる?」


「……狡賢くなったのぉ」


「お前に似たのかもな」

 

 リョウに痛いところを突かれ、珍しく苦い顔をするマイト。


 マイト達『正義の盾』は、ユリアン国直属の治安維持部隊だ。

 しかしユリアン国自身は『正義の盾』を名目上配置しただけで、ティパールの治安を完全に統治したいと考えてはいない。ティパールに住むのは、誰にも縛られないトレジャーハンター達だ。無理に縛ろうとすれば反発を生む。

 そのため『正義の盾』の行動方針は、ユリアン国が命令するのではなく、ある程度マイトに一任されている。マイト達がティパールでの統治を、緩めようが強めようが、ユリアン国は文句を言ってこないだろう。


 しかし、今回の件がユリアン国の耳に入ったとなれば話は別だ。

 中央広場で殺戮を繰り広げた『毒牙』。そして街中にあらわれた魔物の痕跡。これを知ったなら、ユリアン国も本格的な統治に乗り切らざるを得ない。 

 これはマイトとしても具合が良くない事だ。

 彼は、自分の手で『毒牙』を根絶したいと考えている。ユリアン国からの干渉を受ければ、その様な目的の達成は難しくなるだろう。


「まぁえぇ。どうせお前にも関係あることや」


 マイトは観念した様子だ。

 後頭部を掻きながら、渋々と言った様子で言葉を続ける。


「7ダンジョンや。あっこで『毒牙』のメンバーらしき男が目撃されとる」


「7ダンジョン……」


 思わず、声に出してしまうリョウ。


 7ダンジョンは別名『闇の洞穴』。

 死傷者数が著しく多いことで有名な、ダンジョンである。


 その理由は、そこに巣食う魔物の特性。

 光を嫌い、また光に対して攻撃性を強く発揮する魔物ばかり巣食う。その為、光源を設置する訳にもいかず、常に暗い。足元を照らす明かりなど存在せず、魔物達がどこから出てくるか分からない。

 ティパールに存在するダンジョンでも、トレジャーハンターが好まないダンジョンの一つだ。


「今回の件に関係するかどうかは、正直俺達でも分かってへん。せやけど、調べてみる価値はあるとは思う」


 マイトの言う通りである。

 今回の通り魔事件と、7ダンジョンで『毒牙』の残党が現れたことに関係性があるとは限らない。

 しかし、ここ3年姿を消していた『毒牙』のメンバーが、目撃されたとあれば、調べる価値は十二分にあるだろう。


「シン。どう思う?」


 今回の事件の調査依頼は、シンの物だ。

 リョウはシンの出方を窺ってみることにした。


「いいんじゃないか? でも7ダンジョンか……俺あそこに詳しくないぞ?」


「俺も数えるほどしか行ったことがないな」


 黙り込む二人。


 リョウもシンも、正直7ダンジョンへはあまり行ったことがない。

 暗闇のせいで危険だということもあるが、なによりあのダンジョンは秘宝が隠されているという情報が少ないのだ。


 ある学説では、7ダンジョンは秘宝を隠すためのダンジョンではなく、古代の人々の特殊な戦闘訓練の場であったのではないか、と考えられている。そのため、暗闇の中に凶暴な魔物達だけが放たれており、重要な秘宝も少ない。

 そんなダンジョンに好き好んで潜る人間は少ないだろう。


「ほんなら俺と行くか?」


「え?」


 唐突なマイトの提案に驚くリョウ。


 治安維持組織に属するマイトは、ダンジョンに潜るということをあまりしない。しないと言うよりも、その必要が無い。


「お前らとは逆に、俺ら『正義の盾』は7ダンジョンに良く潜るから詳しいで?」


 マイトの言葉に、リョウとシンは納得する。


 『正義の盾』は治安維持組織、もちろん金銭目的の集団ではない。

 と、すればダンジョンに潜る目的となり得るのは、金銭に変わる秘宝などではなく、戦闘経験をつむことのできる魔物との戦いだ。

 その観点からすれば7ダンジョンは、おあつらえ向きである。

 他に秘宝を狙って潜るトレジャーハンターーも少ないため、諍いを起こすことも少なく、強力な魔物と戦える。

 これ以上、実地訓練に向いたダンジョンは少ないだろう。


「うちは、通常兵士の訓練は低層で。俺みたいに腕に自身がある奴は、深層で訓練しとる。道案内以上の戦力にはなるで?」


「うーん。確かに戦力的には、心強いけどなぁ……」


 躊躇うシン。

 いくら戦力的には本物であっても、好意を持たない人間と、ダンジョンに潜るのは気が進まない。


「良いんじゃないか?」


「良いのかぁ?」


 ここでリョウから、鶴の一声。

 自分以上にマイトを快く思っていないはずのリョウの提案に、シンも思わず調子の外れた声を上げる。


「戦力的には問題ないし、事件の進展も無いんだ。背に腹は代えられない」


「おー! リョウも大人になったんやな!」


「お前を信用しているわけじゃないからな」


 喜び勇むマイトとは対照的に、冷たい言葉を放つリョウ。


 リョウとしても、この判断は一大決心なのだ。

 いくら両親の死の直接の原因とは言え、7ダンジョンを調査するにはマイトが必要だ。

 ここで駄々をこねているほど、彼も子どもではない。


 それほどリョウは、この事件の真相にたいして強い想いがある。


 こうして、炎と氷、二人の魔剣使いは、街中から嫌われる実力者を加え、ティパールでも最も嫌われるダンジョンへ向かうことになった。


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