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トレジャー!  作者:
2・通り魔(前編)
20/35

2-3 噂話

 情報クラン『噂話』のクランマスターは、背の低い、小太りの中年男である。

 名前は、ウェスター=トート。


「いやーどうもどうも。わざわざ、ご足労頂いてすいませんね」

 

 脂ぎった額をハンカチで拭きながら、リョウとシンに対して、歓迎の言葉を告げるウェスター=トート。

 

 トレジャーハンターには珍しい、色あせた茶色のスーツ。

 横に広く、ぱんぱんに張った顔面。

 小さな瞳に、寒さに弱そうな頭頂部。

 『トート』という苗字と、外見的な特徴から、付けられたあだ名は『トード』。


「相変わらず汚い所だなぁ。掃除くらいしろよトード」


 軽口を叩きながら、辺りを見回すシン。


 『噂話』の本部は、とにかくごった返している。

 部屋に並ぶデスクの上は、書類の山がいくつも積み重なり、それでも収まらなくなった書類の束たちは、床で雪崩を起こしている。

 クランメンバー達は取材に出払っているようで、部屋にはトード一人のみだ。


「うちのクランは急がしいんですよぉ。それよりも、そちらの方はリョウ=クレセッドさんですよね?」


 シンに弁明をしながら、脂ぎった顔で微笑みかけてくるトード。


「俺の名前を知ってるのか?」


 リョウは驚きを口にする。

 トードとは初対面の筈だ。また『噂話』のメンバーにも知り合いは居ない。

 そんなリョウの顔を確認したトードは、顔を綻ばせた。


「うちはクラン『噂話』ですよ? 先日、あのアルベルトの魔剣を発掘された方の、顔とお名前位は存じておりますよ。どうぞどうぞリョウさんも、お掛けください」


 トードに勧められ、リョウも椅子に掛ける。


 なるほど、リョウはウェスター=トートという男の人柄が、少々理解できてきたような気がした。

 他のクランマスターとは違い、力強さや豪傑さなどは垣間見えないウェスター=トート。

 しかし、彼の丁寧な所作の裏からは、細やかな洞察力や計算高さが見え隠れしている。

 『噂話』という弱小クランが、ここまでの影響力を持ったのは、(ひとえ)に彼の手腕の賜物であろう。


「それでトード。今日は、通り魔記事の件で来たんだけど」

 

「はいはい、そうでしたね。今回はシンさんだけでなく、リョウさんも手伝っていただけるんですか?」


 自らも椅子に腰掛けるトード。

 シンに言われ、書類の山の中から、いくつかの紙束を引き抜く。

 こうして見ると、しがない雇われの事務職員のようだ。


「あぁ、クランには所属してないが、大丈夫か?」


「えぇ、他の方ならともかく、シンさんの紹介ですし。魔剣使いが二人も協力していただけるのであれば心強いですよ」


 にこやかに答えるトード。

 リョウの事を戦力的に信頼してくれているようだ。

 悪い気はしない。

 このような言葉選びも、彼の持つカリスマ性が成せる技なのだろう。

 

「それで、コレが現段階で分かっている情報ですね」


 デスク越しに、紙束を二人に渡すトード。

 渡された紙束に、即座に目を通すリョウとシン。


 紙束には、シンが持っていた事故現場の写真。

 詳しい事件の詳細。

 送られてきた、脅迫文の写真が載っていた。


 はっきり言って、目新しい情報はほとんど無い。


「あんま進展してねぇなー」


 知っている情報しか紙束には無かった為、シンは紙束を近くのデスクに放ってしまう。

 しかし、その隣のリョウは、文章に目を通し続けていた。


「まぁまだ発生して4日ですし、次の事件が起こったわけでもないですからねぇ。しかし、そんな時点で脅迫が来たものですから……」


「そりゃまぁ、何かしら大きなスクープがあるわけだよな」


 今回、通り魔の記事を特別版に掲載してから、直ぐに脅迫文が送られてきている。

 対応が早すぎる。

 即座に反応があるということは、記事に書かれた内容が、これ以上公になることを強く嫌う人間が居るという事だ。

 逆に考えれば、それだけ重要な真相が隠されているという事だ。


「おい、シン。これはどう思う?」


 進展が無いことに諦めムードの漂うトードとシンに、リョウが紙束を見せる。


「どうって事件現場の写真だろ?俺がお前に見せた奴よりはサイズが大きいけど、それだけじゃねぇか」


 リョウが見せたのは、事件現場の写真。

 シンの言う通り、サイズが大きく見やすくなっていることを除けば、『黄金の世代』で見た物と全く同じだ。


「ここだよ、ここ」


 リョウは写真を指差す。それは写真の右奥。

 被害者の男が倒れていたであろう場所であった。

 何か小さな物が、石畳に転がっている。


「こりゃ短剣、か? 随分小さいな、それに紫の刀身……」


「毒蛇の牙ですな……」


 毒蛇の牙。

 短剣の中でも小さい部類。10センチ程の、紫の刀身。

 その禍々しい見た目は、一度見たら忘れられない印象を与えてくる。

 3年前、中央広場で暴動を起こしたクラン『毒牙』のメンバーが、その所属の証として装備していた短剣だ。

 

「でも『毒牙』は解散したはずだろ?」


「そう聞いていますが……」


 シンの疑問に、トードが答える。

 

 『毒牙』は、中央広場での暴動の後、直ぐに解散された。

 中央広場まで進行されるといった失態を犯した『正義の盾』が、躍起になって掃討したのだ。

 現在でも『正義の盾』が、過干渉なまでの取締りをしているのも、『毒牙』の残党を逃すまいとしているからだ。


「どういう事だ? 街に居ないはずの魔物の痕跡、それに加えて『毒牙』の痕跡までも……」


 事件に関わってくるのは、この街にいないはずの者達ばかり。

 それに加え、リョウに関係のある存在ばかりだ。


 両親を殺害した『毒牙』。

 そして、その両親は魔物の研究をしていた。

 その研究内容は『魔物の生態』。特に魔物がダンジョンから出てこない理由だ。

 悪用されれば、魔物を街中に解き放つ研究だ。


「この事件が、想像以上に俺達向けだったって事だろ。トードありがとう。俺達はもう行くよ」


 戸惑うシンに、当事者であるはずのリョウは冷静に告げる。


 こういった時は、手に入れている情報に、最も精通した人間から話を聞くのが一番だ。

 『毒牙』、魔物の生態の研究。

 どちらにも深く関わっていた人間は、リョウ以外にもこの街にいる。


 今頃彼は、中央広場で警備の統括をしている頃だろう。

 西の鈍りの利いた、あの特徴的な口調の彼だ。

 


 

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