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トレジャー!  作者:
2・通り魔(前編)
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2-2 街中の爪跡

 事件は4日前の深夜。ティパール外周の路地裏で発生したようだ。

 被害者は路地裏に居た男性3人。全員身体中に切り傷を残して死に絶えていた。 

 時間と外周の治安が相まって目撃者は誰もおらず、犯人の手がかりは何も無いらしい。


「まぁ物騒な話ではあるけど、夜の外周だろ? 聞かない話じゃない」


 シン渡された紙。

 『ティパール通信』の切抜きを読みながら、リョウは率直な感想を告げる。

 ティパールに住む者としては、至極真っ当な意見だ。


 事実、夜間におけるティパール外周の治安は非常に悪い。

 日常的に『正義の盾』のメンバー達が警備している中央区とは違い、外周には犯罪者紛いの危険な人間が数多く存在する。

 そのため追い剥ぎ、強盗、強姦等も珍しい話ではない。殺人も同様だ。

  

 他の街では考えられないような事態だが、ティパールという街はトレジャーハンターが世界から集う特殊な街だ。

 誰にも縛られることも無く、しかし誰も守ってはくれない。

 それがティパール本来の姿。

 誰からも命を奪われる心配の無い、所謂『平穏と安息の日々』を求める。そんな人間であれば、すぐさま他の街へ引っ越すべきであろう。


「まぁそうなんだけどよぉ。これはどう思う?」


「なんだ?」


 シンが次にポケットから取り出したのは写真。その写真を注視するリョウ。

 写真を見た途端、彼の眉間に深い皺が寄せられた。


 事件現場の路地裏の写真だ。

 不揃いな石畳に、所々破損が見れる建物達。正に外周の路地裏といった風情。


 しかし、写真の中の路地裏は普段の光景ではない。いつもの路地裏とは掛け離れてしまっている。

 路地裏が変わってしまっている原因。

 

 それは傷跡だ。

 

 そう傷跡だらけなのだ。石畳も、建物も、近くに置かれていたのであろう木箱の類も、全て。

 写真に写った全ての物が、幾度も切り付けられたかのような傷が残っている。

 深く、鋭い傷跡だ。


「なんだ、この傷跡……」


「これがこの事件が特別版にだけ載る理由だよ。殺人だけなら珍しい話でもないけど、こんなに多くの傷を殺人と一緒に付ける奴見たこと無い」


 外周で起こる殺人事件の主な原因は、私怨か追い剥ぎ目的。

 戦闘において多少の被害が周りの建物等に出ることはあっても、わざわざ周囲一体を傷だらけにする人間などそうそういない。


 シンが説明している間にも、リョウは写真の中の傷跡を食い入るように見る。


「それに、この傷……人間じゃないよな」


「やっぱりお前もそう思うか?」


 身を乗り出して反応するシン。

 リョウの見解が、シンの考えていた予想と全く同じだったからだ。


「ほら、この傷なんて分かり易い」


 壁に刻まれた4本の傷跡を指差すリョウ。

 そこには4筋の傷跡が等間隔に並んでいた。真っ直ぐ走る4本の傷跡。


 リョウとシンはコレに似た傷跡を見たことがある。

 とても馴染みのある、そして見るだけで身を引き締まらせるような強烈な印象を与える傷跡だ。


「ダンジョンでよく見る傷跡だよな」


 まるで確認を取るかのようなシンの口調。


「そうだな。魔物の爪跡にそっくりだ」


 リョウとシンの間に緊張感が走る。


 事件現場に残された傷跡。それはダンジョンに巣食う魔物達の爪跡に酷似していた。

 しかし、ティパールの街中に魔物が出現することは無い。否、あってはならない事だ。

 ダンジョン内で多くの人間の命を奪う魔物。

 そんな脅威が街中に出現したら、それこそ一大事だ。

 『正義の盾』どころかユリアン国すら黙っては居ないだろう。


「でも魔物が地上に出てくるなんて、聞いたこと無い」


 リョウの言う通り、魔物がダンジョンから地上に這い出てくる事自体異例だ。

 魔物の生態的な特徴なのか、それとも何かしらの強制力が働いているのか。どちらにせよ魔物達はダンジョンから出ようとしない。

 ダンジョンが発見されてから500年。魔物がダンジョンから這い出てきたことなど一度も無い。

 街中で魔物の痕跡を見るということは、それほど有り得ないことなのだ。


「だからこそ、なんだよ」


 リョウの指摘に、指を立て説明を始めるシン。


「ダンジョンから魔物が出ることは考えられないのに、街中には魔物が付けたような傷跡。可笑しいと思うだろ? リョウ」


「俺にどうして欲しいんだよ。率直に言え。率直に」


 意味深な微笑みを浮かべながら、回りくどい説明を続けるシン。

 業を煮やしたリョウが冷たい言葉を投げかける。


「俺とこの事件を調べて欲しいんだ」


「またどこかのクランに泣きつかれたのか?」


 怪訝な顔をするリョウ。


 シンは正義感の強い男だ。そして魔剣使いという個人的な戦力も持ち合わせている。

 その結果、彼は様々な人間から頼まれ事をされるのだ。

 

 悪質な犯罪者クランに嫌がらせを受ける弱小クラン。

 ダンジョンで命を落とした恋人の形見を拾ってきて欲しいという女性。

 

 彼のお陰で救われた人間は数多い。

 現在ではクラン『黄金の世代』も、そのようなティパールの住民からの頼まれごとを引き受ける、何でも屋クランとして名を売っている。

 

「『噂話』がな、今回の記事を書いてから圧力を掛けられてるみたいなんだ」


「圧力?」


「あぁ、特別版に記事を載せて直ぐ『噂話』の本部に脅迫状が来たらしい。これ以上事件に首を突っ込んだら命は無い、ってな」


「それはまた典型的な脅しだな」


 冗談じみた物言いのリョウだが、その瞳は笑っていない。


 『噂話』が今回の件で脅しをかけられる事。

 その脅しに対して、シンがクランマスターを勤める『黄金の世代』に救済の話が行く事。 

 どちらも至極有り得る話だ。

 しかし、この話をシンがリョウに対して持ちかけてくる思惑。

 これがリョウには見えてこない。 


「だろう? それに今回の事件、お前の両親の件に……」


「あぁ……分かった」


 言いにくい内容に言いよどむシン。その言葉を遮るように、リョウは即決した。

 

 そしてリョウはシンの思惑を読み取る。

 シンが言わんとしている事は、何分リョウのプライベート的な内容だ。

 遠回しな勧誘も、濁すような言葉遣いも頷ける。これ以上シンに気遣いをさせるのは心苦しい。


「そうか! 良かった。まずは『噂話』の本部に行こうと思うんだけど……リョウはこの後、大丈夫か?」


「特に予定は無い。いいぞ、行こう」


 シンの提案にリョウは賛同し、二人は『噂話』の本部へ向かうことにした。

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