表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トレジャー!  作者:
2・通り魔(前編)
18/35

2-1 無所属の宿命

 今朝は嫌な夢を見た。


 両親が目の前で死にゆく夢。

 そして感情に任せて暴言を吐き続ける夢。

 リョウとしてはこれ以上に夢見が悪いということはない。


 しかし夢は夢。どれだけ嫌な夢を見たとしても現実の世界では何事もなかったように振舞わなければならない。

 それが先週手に入れたばかりの秘宝が狙われている、という場面であれば尚更だ。


 ティパール外周の東。澄み渡った昼の青空に若い男の声が木霊する。


「リョウ=クレセッドだな? 凍月を置いていきやがれ!」


 あからさまに迷惑そうな顔をするリョウ。


「なんで置いていかなきゃいけないんだよ」


 鋭い目線を飛ばしてくるチンピラ達に冷静に対応するリョウ。


 凍月を発掘してから一週間。

 このように凍月狙いの輩に絡まれる事にリョウはすっかり慣れてしまっていた。


 むしろこいつ等はまだマシな方だ。

 いきなり背後から殴り掛かってくる奴もいる中、凍月を狙う宣言もしている。

 またリョウの自宅を調べ当てて押し掛けて来る輩が居る中、治安の悪い外周でリョウに絡んできている。

 ステレオタイプというか、教本どおりというべきか。どちらにせよ一定のマナーを守っているチンピラではあるようだ。


 そう感じる時点で、リョウもすっかり感覚が麻痺しているのだろう。

 どちらにせよ対峙するチンピラは5人。凍月を抜きにしても、リョウにとっては大した脅威でもない。


「いいから早く置いて行けよぉ!」


 凍月を渡すそぶりなど微塵も見せないリョウに業を煮やしたのか、5人のチンピラ達は剣や槍等、各々の武器を取り出し襲い掛かってくる。


「はぁ……さっさと終わらせるぞ」


 リョウは面倒そうに、ゆっくりと腰に吊るされた青白い刀を抜いてゆく。

 外気に触れた刀身から霜が降りてゆき、全てが抜き放たれる頃には刀身全体を霜が覆いつくしていた。

 正に『氷を司る魔剣』に相応しい姿である。


 殺到してくるチンピラ達を横目に、リョウはゆっくりと凍月を地面に触れさせる。


「凍れ」


 リョウが告げると刀身に触れた地面が凍りついた。


「はっ! 地面を少し凍らせるだけか! 魔剣が聞いて呆れるぜ!」


 リョウの仰々しい所作に反して、凍月に触れた地面が少々凍っただけ。

 チンピラ達もここぞとばかりにリョウへ詰め寄る。


「アルベルトの魔剣だぞ? これだけな訳が無いだろう? ……ふっ!」


 チンピラ達の無知さに呆れつつも、リョウは凍月を振るう。


 チンピラ達は凍月の刃の間合いには入っていない。当然刀身を当てるためではない。

 凍月の刃が振られると同時に、地面の凍っていた部分がチンピラ達の足元へと這って行く。


「なっなんだぁ!?」


 凍月の力に驚きを隠せない様子のチンピラ達。

 状況に着いていけない彼等。当然避けられるはずも無く、地面を走る氷によって足を凍らされ、身動きが取れなくなる。


 どうやら『凍月』というネームバリューだけに誘われて、この場に現れたらしい。

 魔剣を相手取るにしては無警戒すぎる。


「そのうち溶けるだろうさ。次はもっと勉強してから来るんだな」


 これまで凍月を狙って襲い掛かってきた輩の中でも最も無謀な者達に一言告げ、リョウはゆっくりとその場を去っていった。


~~~~~

「と、こんな所だ」


「はははっ俺も炎陽を手に入れてすぐはそんな感じだったよ」


 リョウの体験談にシンは大声で笑う。


 餅は餅屋。

 魔剣の悩みは魔剣所有者に聞くに限る。魔剣を所有するといった点で、シンはリョウの先輩だ。


「そろそろ諦めて欲しいんだがなぁ。そんな俺弱そうに見えるか?」


 テーブルに頬杖をつくリョウ。

 外周の東で襲撃に遭ったリョウ。もう襲撃はうんざりだということで、シンのいるクラン『黄金の世代(ゴールデンエイジ)』の本部にまで足を運んだというわけだ。


 『黄金の世代』の本部は中央区の西側。通称クラン街に存在する、石造りの3階の建物だ。

 クラン街はその名の通り、多くのトレジャーハンター達がクランの本部を構えている界隈である。

 ダンジョンで発掘した宝を換金してくれる国営の換金所や、鑑定所が存在している為、おのずとクランの本部が多くなったというわけだ。


 リョウとシンがテーブルを囲むのは、本部3階の奥に存在するクランマスターの部屋。つまりシンの部屋だ。

 50人のメンバーを率いるシンの部屋は、大きな物書き机と円形のテーブルが一台づつ。質素といえば聞こえはいいが、あまりクランマスターとしての威厳を感じさせない内装だ。


「弱そうっていうかなー17歳の坊主が秘刀をぶら下げてるって聞いたら、そりゃ狙う奴も出てくるだろうよ。それに無所属だろう?」


「やっぱりそうなるか……」

 

 シンの正論過ぎる発言にリョウの悩みは更に大きなものへと変わっていく。


 クランに所属していないトレジャーハンター、所謂『無所属組』は横取りを生業にしている『ハイエナ』のような輩に狙われやすい。

 単身でダンジョンに潜り、単身で宝を管理する。常に仲間がフォローをしてくれるクラン所属組と比べれば、リスクの大きさは一目瞭然だ。


「俺が炎陽を手に入れた時、安全に過ごせたのも横の繋がりのお陰だしな」


 一つのクランに所属すると、味方はそのクランのメンバーだけではなくなる。

 所属を決めたクランに友好的な立場を取っているクランのメンバー達も、当然味方となるわけだ。

 つまり秘宝目当てで安易に持ち主に対して襲撃を行ってしまうと、その持ち主が所属するクランだけではなく他の複数のクランまでも敵に回してしまう可能性があるのだ。


 クラン同士の友好関係は主にクランマスター同士のプライベートな関係性が大きく影響する為、外部の人間が把握することは難しい。

 構成人数数人の弱小クランが、1000人を越える巨大なクランと太いパイプを持っているという事も有り得ない事例ではない。

 その様な理由からクランに所属するということは、襲撃に対してのけん制手段として考えられることも多い。


「そんなに悩むならうちのクランに入ればいいのに」


「お前の下に付くのはなんか嫌だ。生理的に嫌だ」


 シンの提案に対して即答するリョウ。


 シンに対しては冗談交じりで応えるリョウだが、彼にも彼なりにクランに所属しない理由はいくつかある。

 それは単純に人間関係というものが面倒という理由であったり、単純に一人でダンジョンに潜るのが好きという理由などある。

 しかし一番の理由は、自分のせいで仲間が死ぬことへの恐怖。

 自分の両親が殺されたように、自分と関わりがあるという理由だけで他人に危害が及ぶことを恐れているのだ。


「まぁいいけどよ、っとそうだ。お前『通り魔』の話聞いたか?」


「なんだそれ?」


「やっぱり知らないのか。こうゆう情報もクランに入るからこそ入る情報なんだぞ?」


 何も知らないリョウに対して、シンは苦笑いをしながら一枚の紙を服のポケットから取り出す。


「記事の切り抜き?……ティパール通信のか?」


 シンがテーブルに置いた紙を見るリョウ。

 それは情報収集を専門に行うクラン『噂話』が発行している新聞。『ティパール通信』の一面記事の切り抜きのようだ。


 トレジャーハンターに向け、最新発掘情報から武器防具のトレンドまで幅広く扱うティパール通信。

 ティパールでトレジャーハンターをしている人間ならほぼ全員が読んでいる新聞だ、リョウももちろん購読している。

 しかし最近の記事でシンの言う、通り魔のような記事はなかった筈だ。


「そう。しかもこれはクランマスターに対してのみ回ってくる特別版だ」


「あぁ、通りで」


 シンの言葉に納得のいくリョウ。


 情報収集や新聞発行とは、とかく敵を作り安いものだ。しかし『噂話』は戦力面では決して強いクランとは言えない。

 そのため友好的な立場を取ってくれるクランに対して特別版のティパール通信を流すことによって、戦力面において協調関係を作り出しているというわけだ。


 特別版のティパール通信には、不特定多数に対して流布するには確証が足りない情報が多く盛り込まれている。

 普通の新聞であれば特別版というよりも不完全版なのだが、ティパールはトレジャーハンターの街。確証が足りないような情報というのは、秘宝の在り処に繋がるような情報である場合が多い。

 もちろん、秘宝の情報以外にも怪奇現象のような雑な情報もいくつか盛り込まれているのだが。


 そんな特別版のティパール通信一面の見出しには、色づけされた字が大きく踊っていた。


『通り魔か? 現場に残る無数の傷跡!』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ