1-15 宴と思惑
その日は、盛大な宴を開いた。
リョウ達が凍月を携えてダンジョンを脱出したのは夕方。
18ダンジョンの前には、シンの事を心配した『黄金の世代』のメンバー。そして失踪したミチルを探しに来ていた『砂上の行商人』のメンバーまで居た。
リョウが見事凍月を手に入れたと聞き、両クランのメンバー達は大喝采。
そしてミチルの計らいにより、盛大な宴が開かれたというわけだ。
会場はティパール中央に存在する、『砂上の行商人』直轄のレストラン『スクランブル』。
木造2階建ての大きなレストランは、その名に相応しく老若男女入り乱れ喧騒に包まれていた。バーカウンターには色とりどりの酒が並び、一階二階に所狭しと並べられたテーブルにはコレでもかと言う程の料理が大皿で並んでいる。
宴が始まってから3時間以上は経過したというのに人々は未だ歌い、踊り、喉を潤わせ、腹を満たし続けている。
仲間のトレジャーハンターが秘宝を見付けたとなれば盛大な宴を開催する。500年前から変わらず続いてきた喜びの席だ。入れ替わり立ち代りにぞくぞくと参加者が『スクランブル』に押し寄せてきていた。
「いやーしかし本当に手に入れられるとはな!」
『スクランブル』の2階の最も奥のテーブル。
他よりも更に豪華な料理が並ぶテーブルをシン達は囲んでいた。
ソテーされた海老に豪快にかぶりつくシン。宴が始まってからというもの、料理を延々と食べ続けている。
「ほんとほんと。まさかゴーレムまで出てくるとは思わなかったけど」
食後の紅茶をゆっくりと啜るのはアン。
シンの食べっぷりを目の当たりにして、食欲も失せてしまった様だ。
「おっきかったわねぇー」
「強かったねっ!」
ヒカルとハルカもケーキを頬張りながら笑顔を見せる。
こちらの双子は延々と甘味を食べ続けてる。
「実際お前達が居なかったら死んでたかもな」
「おっリョウ。ヒーローは引っ張りダコで大変だな」
シン達が4人で話しているとリョウが声をかけてくる。
何しろ秘宝を見つけ出した張本人である。宴が始まってからというもの、ティパール全体から押し寄せた鑑定師、武器収集家、鍛冶屋に質問攻めを今まで受けて居たというわけだ。
腰には見慣れた片刃の剣ではなく、細身の刀が吊るされている。宴の主賓と言っても過言ではない一振りの刀。
『凍月』だ。
照明が放つ暖色の光に照らされた青白い鞘は、魅惑的な輝きを覗かせている。
「ふぅ。おっシンその海老旨そうだな」
「ん? 食うか?」
椅子にどかっと腰を下ろしたリョウは、シンから海老を受け取り齧り付き始める。
宴が始まってから何も口にしていない彼。シン以上に料理に喰らい付く。
「そういえばミチルはどうした?」
卓上、そして周囲を見回し一人足りないことに気付くリョウ。
「リョウ。海老付いてるよ?ミチルはなんか『宴会の主催者としてやることが色々あるんだよぉ』って言ってどっかに行ったよー」
リョウの口元をナプキンで拭きながら応えるアン。
宴会開催直後からミチルはシン達と一緒に食事をしていた。
しかし、ふと一階に視線を走らせた途端席を外した。それがつい先程の話。よほど重要な来客があったのか、はたまたその逆か。
どちらにせよ、本日死線を一緒に越えた仲だ。
このめでたい宴で同席できないのというのは、リョウとしても少々不満である。
「まぁミチルのことだしっ」
「そのうち戻ってくるわよぉー」
「まぁそれまでゆっくり待つさ」
双子に言われ、リョウは料理を口に運び続けた。
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喧騒と灯りに包まれる『スクランブル』の裏手。
建物同士に挟まれた路地裏は、スクランブルの内部とは対照的に暗く冷たい空気が漂っていた。
建物によって切り取られた夜空が、月の光を注いでくる。その月の光に照らされる二つの影。
『スクランブル』で開かれている宴の主催者。
ミチル=ターメラ
『正義の盾』の頂点に君臨する鎧の男。
マイト=ケテル
ティパールの中でも特に住人に嫌われる二人が、路地裏で対峙していた。
「俺は、お前なんかを宴会に招待した覚えは無いんだがなぁ?」
マイトに鋭い目を向けるミチル。リョウ同様、ミチルもマイトに対して友好的な感情は抱いていない。
そもそもマイトに対して友好的な人間など『正義の盾』のメンバー以外で見たことはない。
「お前もリョウと一緒でツレない態度やのぉ。これでもこの街の平和を願ってやまんのやけど?」
ニヤニヤと細い目を更に細めながら、おちょくった口調で話すマイト。
「だーれが本当にお前らが街の平和を願っていると思うんだ」
「はははっそれはきっついわ。それで? リョウはアレを使ったんか?」
マイトの言うアレとは、表面が黒く塗られた硝子の小瓶のことだろう。
ミチルが犬歯をむき出しにして笑う。
「あんなの使うかよ。そもそも俺らが着いて行ったんだ。使う必要すらなかったぜ」
硝子のビンの中身は『鉱石樹の種』。
マイトがリョウに会いに行く直前。ミチルから直々に買い付けた代物だ。
光に反応し一瞬で大木へと成長する種で、鉱石を栄養源とする。
鉱石で出来たゴーレムが最後の試練。硝子の小瓶を叩き割れば、一瞬でゴーレムを無力化することが出来ただろう。
「アレを使ったら一瞬で最後の試練クリアやったのにのぉ」
「あんなの使ったら楽しくねぇだろうが。お前もリョウにちょっかい出してんじゃねぇよ。殺すぞ?」
さらにニヤニヤと笑うマイト。それに対して獰猛な笑みで応えるミチル。
なにか小さいキッカケ一つで、路地裏が戦場へと変貌してしまうような雰囲気だ。
「幼馴染の命より、戦闘の楽しさ選ぶなんてリョウが聞いたら泣くでぇ? まぁ今回はえぇんやけどなぁ。あいつが凍月を手に入れた訳やし?」
後頭部を掻きながらミチルに近付くマイト。身構えるミチル。
正に一触即発である。
「ほんでも、今後は邪魔したらあかんよ? こっちも細かい計画練ってるんやし。それこそお前を殺さなあかんかもしれへん」
ミチルの耳元で囁くマイト。
彼の体から一斉に発せられた殺気に、ミチルは一瞬で飛び退く。
まるで全身を飲み込む様な殺気。確実に殺す気で発したそれだ。
「ほんじゃのぉ。その内お前らにも動いてもらわなあかん。風邪、ひくなよぉ」
冷や汗を流すミチルを見て一つ侮蔑の笑みを放ったマイトは、飄々と路地裏から去っていく。
「ちっ! なんなんだあいつはぁ……!」
マイトから放たれた尋常ではない殺気。
そしてそれに本能的に反応してしまい、飛退いてしまった自分自身に憤りを感じるミチル。
(しかし……)
情けない自分よりも今興味を惹かれること。ミチルは今までのマイトの発言を反芻し始める。
リョウが凍月を手に入れることは、マイトの思惑通りらしい。
(マイトには何か企んでいることがある……)
マイト個人の計画か、『正義の盾』全体が企てている計画か。
どちらにせよティパールには脅威なり得るだろう。
三年前同様。奴等が動くということは、そういうことだ。
しかしミチルにとって関係があるのは、戦場が整えられるという事実のみ。
(今回は遅れはとらねぇ!)
月光に照らされた凶暴な彼は、空を仰ぎ見ながら顔を歪めた。




