1-14 秘宝を手に入れた彼は叫ぶ
巻き起こる爆炎。視界は赤く染まり、熱波に皮膚が焼ける。
『火剣液』を使ったのは初めてではない。しかし今回の『火剣液』はハルカ特製のようだった、火力が段違いだ。
(避けられないっ……)
リョウが『火剣液』の熱線の中でそう考えた瞬間、襟元が強く後ろに引かれた。
「諦めてんじゃねぇよ! お前も純国産バカに認定してやろうかぁ?」
リョウが振り返ると、そこには犬歯をむき出しにして笑うミチルの顔があった。
爆発が起きる瞬間にリョウが爆風を避けきれない事を察知した彼は、舞打法の高速移動を使用したのだろう。
幼馴染の中でも、最高のスピードを誇るミチルの活躍によって、リョウは高速で迫ってくる爆炎から逃げることに成功した。
背後で響く轟音。地響き。
炎に焼かれたゴーレムが崩れ行く音だ。
「やった……のか」
ゴーレムを注視するリョウ。
ゴーレムの骨組みを構成するアドニスは全て焼け切れ、ただの鉱石の集合体と成り下がってゆく。
アルベルトが500年前に作った最終試練が、たった今突破されたのである。
「ありがとうなミチル」
「はっ! バーカ。お前がここで死んだらメスの純国産バカが騒がしいんだよ」
床に座り込むリョウに、ミチルがアンの方を見ながら無愛想に告げる。
ミチルの目線を追うと、今にも泣き出しそうな顔のアンがいた。
「おい! リョウ見てみろよ!」
シンが崩れたゴーレムの残骸を奥を指差す。
そこにはいつの間にか台座が現れていた。高さ1メートルほどの青く光る鉱石でできた台座だ。
「とうとう……」
台座の出現を確認したリョウ。立ち上がり、ゆっくりと歩みだす。一歩ずつ、確実な足取りで台座へと向かう。
「これが、凍月……」
台座には一振りの剣が鎮座していた。
緩く反った青白い鞘に収められた剣。鍔と柄には氷の結晶のような紋章が細かく刻まれている。
「綺麗だ……」
リョウはゆっくりと凍月を手に取り、その刀身を鞘からゆっくりと外気に晒してゆく。
鞘と同色。青白い片刃がリョウの目に映る。
剣というよりは、極東で古くから使用された『刀』と呼ばれる種類の一振りのようだ。
刀身の外気に触れた部分からゆっくりと霜が下りていく。
『氷を司る魔剣』
アルベルトの136振りの中でも一級品と呼ばれる一振りは、まるでそれその物が一つの芸術品かのような高貴な雰囲気を漂わせていた。
「ほぉーこれが凍月ねぇ」
「綺麗だねぇっ!」
「リョウちゃんやったわねぇー」
「炎陽とはまた違った綺麗さだな」
リョウが芸術品に目を奪われているうちに近付いてきたのか、アンを除いた4人の幼馴染たちが凍月を覗き込んでいた。
「リョウ……」
背後から響いたアンの声にリョウは振り返る。
「アン、やっと見つけたよ」
綺麗に霜が降りた刀身をアンに見せるリョウ。
それを見たアンは感極まって両手で口を塞ぐ。
「やったね、リョウ……」
くぐもったアンの涙声。
それを聞いたリョウは困った様な、また慈しむ様な微笑を浮かべた。
「おぉーお前ら二人でイチャイチャしてんじゃねぇよ」
大声を上げて茶化すミチル。しかし彼の顔も微笑を湛えたままだ。
「なぁリョウアレやっとかなくていいのか?」
「そうだよっ! あれやりなよっ!」
ミチルの提案にヒカルも賛同の声を上げる。
「アレかぁ。やらなきゃ駄目か?」
盛り上がる幼馴染達に、リョウは乗り気ではないようだ。
「やりなさいよーリョウちゃんー」
ハルカも後押し。
「リョウ。やろ!」
涙を拭ったアンもリョウに語りかける。
「そうかぁ・・・・・・じゃぁいくぞ・・・・・・」
アンに言われては無下に出来ないリョウ。渋々鞘に収めた凍月を右手で握り、それを頭上へかがげてゆく。
ダンジョンが発掘された500年前。
秘宝を発見しても、他人に横取りされる事が多々あった。
苦労して見つけた宝を横取りされたとなっては、憎しみの感情が湧いてくるというのが人間というもの。横取りが原因で刃傷沙汰が起きる事もしばしばだった。
そのような無益な争いを起こさない様に、いつしか当時のトレジャーハンター達の中で決められた一つの暗黙の了解。
今となっては一種の儀式の様な物となってはいるが、今日でもトレジャーハンターとして生きる者達はその伝統を知らないものは居ない。
『これは自分の見付けた宝だ』という宣言。
リョウは頭上に凍月を掲げながら、こう叫ぶ。
「トレジャー!」




