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トレジャー!  作者:
1・凍月
11/35

1-10 試練の裏技

 凍月の間。

 名刀『凍月』を隠すために作られた、青い鉱石に囲まれた部屋だ。

 リョウが昨日訪れた時と変わらず、その部屋の中は自ら光を放つ鉱石によって淡い青色に照らされている。


「シン、炎陽を貸してくれ」


「おう」


 沸き立つ興奮を抑えながら、シンから炎陽を受け取るリョウ。


「皆はここで待っていてくれ」


 シン達5人をその場に待機させ、リョウは決まった手順にそって足を運ぶ。


「よし」


 昨日とはまた違った決意を言葉に宿したリョウは、その場にしゃがみ床に指を這わせる。

 ガコッという音と共に現れる窪み。

 そこにある亀裂も昨日のままだ。


「行くぞ……」


 期待に胸を膨らませ、リョウは一気に炎陽を亀裂に差し込む。


「……」


「リョウーなんも起きないけどっ」


 場にそぐわないヒカルの能天気な声。

 炎陽を差し込んでも凍月の間には何も変化が起きなかった。


「なんでだ……」


 リョウの推理は完璧だったはずだ。

 しかし炎陽を亀裂に差し込んだ所で変化は何もない。


「……!?」


 リョウが思考を整理しようと立ち上がろうとしたその時である。

 強烈な風と浮遊感がリョウの体を包み込んだ。

 床が突如として消えた。


「くそっ!」


考えるよりも先に身体は反応し、手に握られた炎陽を凍月の間の外に投げ出すリョウ。


自分は罠に嵌った。

 そう理解できたのは、頭上で絶望その物といった様なアンの顔が覗いているのを確認した後だった。


――――――


「リョウっ! リョウーー!!」


 アンが錯乱して大声を上げる。

 突如目の前でリョウが消えた。

 正確にはリョウが立ち上がろうとした瞬間に、凍月の間の床が消え去ってしまった。まるで床が宙に溶けていってしまったかの様に、跡形もなく消え去ってしまったのだ。

 残ったのは、巨人の口のようにぽっかりと開いた縦穴。


「待っててね! リョウ!」


「おっおいアン落ち着けって!!」


 リョウを追い縦穴に飛び込もうとするアンを、必死な形相でシンが羽交い絞めする。


 縦穴は相当深いようだ。

 羽交い絞めにされながらもアンは下を覗こうとするが、濃厚な闇が視界を塞ぎ、底など見えるはずもなかった。


「良いじゃないー飛び込ませちゃえばー?」


「おいハルカ!」


 無責任なハルカの言動にシンが声を上げる。


「だってアンはリョウちゃんが死んじゃったと思ってるから、そんな無茶な行動取りたくなるんでしょー?」


 長い髪を指で弄りながらハルカは言葉を続ける。


「リョウちゃんは優秀なトレジャーハンターよー?これ位で死ぬとは思えないー。それなら私達は安全な方法で下りて、リョウちゃんと無事に合流するべきなんじゃないー?」


「アンタねぇ!」


「ハルカの言う通りだアン!」


 淡々と述べるハルカに食って掛かりそうになるアン。シンの一声がアンの身を強張らせた。


「多分リョウは無事だ」


「なんでそんなことが分かるのよ! ハルカの言う事信じられるわけ!? いくら優秀でもこんな深い縦穴に落ちて無事だなんて!!」


「そうじゃない、これがアルベルトの仕掛けた罠だから言えるんだ。リョウは無事だ」


 シンは真っ直ぐな瞳でアンを見つめる。


 リョウのことを幼馴染としても、異性としても好いていた少女。この状況で錯乱しないほうがおかしい。

 ここで彼女を落ち着かせるのが自分(シン)の役目だ。


「どういうこと?」


「お前そんなことも知らないでここに来たのかぁ?」


 シンの言葉の真意が理解できないアンに、馬鹿にしたように語り掛けるミチル。


「アルベルトの魔剣を手に入れるには、どれも最後に試練が伴うんだよ。そんでその試練は、魔剣を手に入れようとする者一人で挑戦しなきゃならなねぇ」


「ミチルの言う通りだ。俺も炎陽を手に入れる時、仲間と分断させるような罠が発動した」


 ミチルの言葉にシンが続く。


「じゃあ私達は、ここで待ってるしかないの?」


「そうするしか……」


「んなこたぁねぇよ」


 アンのすがるような目線にシンが目を伏せると、ミチルが口を挟んでくる。


「そもそも罠が仲間を分断してるだけで、最後の試練を複数人で受けちゃいけねぇってわけじゃねぇ。それに凍月の最後の試練は一人でどうにかなる規模じゃないらしいしなぁ」


 ミチルはシームアから聞いた情報を思い出す。


 凍月を手に入れるには『他よりも更に大きな死』を乗り越えなければならないらしい。

 他の試練でさえ命掛けなのに『それ以上』だ。いくらリョウが優秀だとしても一人でどうにかなるとは考えにくい。


「じゃあやっぱり追いかけるしか……」


「んな焦るなよアン。どうせこの縦穴も途中で閉じてるだろうしな。それよりももっと安全で、確実な方法があるだろうよ」


 ミチルの言葉に、アンとシンは首を傾げる。


「はぁーーーお前らバカだな。バカだ。純国産のバカだ」


「いいから早く教えなさいよ!」


 げらげらと笑うミチルに、アンが地団太を踏む。


「このダンジョンは2000年前に作られたんだろ? でもってアルベルトって悪趣味な野郎が凍月を隠したのは500年前だ」


 真相を見出さない二人に、馬鹿にしたような口調でミチルが雄弁に語る。


「つまりこの縦穴の仕掛けは、完成されたダンジョンを更に改造して作られたものなんだ。当時の作業員がこの縦穴を底まで掘った後、そのまま壁をよじ登ってきたと思うかぁ?」


「作業員用の通路か……」


 ミチルの言葉に瞬時に解答を導き出したシン。


 ミチルの言う通り、ダンジョンが発見された500年前、当時の資産家や変人の間でダンジョンに宝を隠す事が流行となった。ダンジョンが建設された当時、権力者が多くの宝をダンジョンに隠し、その権力を誇示したことを真似たのだろう。

 そしてその様な場合酔狂な権力者達の中には、ダンジョンを改造して罠を作る者も居た。

 その時の作業員用の通路が未だに残っているというのも、聞かない話ではない。

 現にティパールの保有する36のダンジョンのうちにも、『数字落ち(ロストナンバー)』と呼ばれる二次的に出来たダンジョンはいくつか存在する。


 そして目の前の縦穴。

 これだけの大規模な罠だ。作業員用の通路が残っている可能性は高い。


「それでその通路をどうやって探すのよ?」


 半信半疑でミチルに問いかけるアン。


「俺の部下は皆優秀なんだよ。ヒカル! そろそろ見つかったか?」


「うんっ! 多分ここだねっ!」


 アンが騒ぎ、ミチル達が話している間。ずっと回廊の壁や床に張り付き、何かを探りまわっていたヒカルが返事をする。

 凍月の間に入るため開いた壁の丁度反対側。ヒカルはそこを指差していた。


「そうか……ヒカルならすぐに分かるもんね……」


 やっと納得したアン。


 ヒカルには常人には無い力がある。

 彼の真骨頂とは二振りの短剣を振り回すことではない。微細な風を体で感じ、その空間を事細かく認識することこそ彼が一番に誇る能力である。

 そもそも集団の中を瞬時に駆け抜けるという芸当も、空間認識によってなせる業だ。

 ヒカルの能力を使えば、目に見えない場所にある空間も把握する事ができる。つまり隠された作業員通路を見つけ出すのも容易という訳だ。


「場所さえ分かれば後は簡単だ。ハルカ! ここぶち抜けるか? ってかぶち抜け」


「はいはーいー。どれを使おうかしらー?」


 ミチルに呼ばれたハルカがヒカルの元まで移動し、壁に触れつつ服の裏地に隠された試験管をいくつか取り出し始める。


「普通の石に見えるけどー現代の石造りとは比べ物にならない硬度ねぇ。一番のかわい子ちゃんをプレゼントー」


 独り言を呟きながら、ハルカは壁に向けて液状の薬品をいくつもかけていく。


「これで充分かなー。みんな角の陰に隠れてー」


 ハルカに言われ、5人は爆発の被害に巻き込まれないように陰に身を隠す。


「それじゃあ、アンー。小さな雷で着火してー」


「はいはい……えいっ!」


 ハルカに小間使いにされたことを少々不満に思いながら、アンは掌に魔力を込め、雷撃を発生させる。


「あっ、目と耳は塞いだ方がいいかもー」


「そういうことは早く言え!」


 ハルカのおっとりとした態度にシンが大声で返事をするのと、壁に設置された薬品達が爆発するのは、ほぼ同時であった。


 轟音。閃光。粉塵。熱風。

 爆発によって引き起こされるあらゆる要素が、壁越しに5人の下に到達した。

 耳を塞いでいるにもかかわらず鼓膜は限界まで振るえ、瞼越しに目が眩む。皮膚に細かな砂がこべりつき、その上から熱波が皮膚を焦がしにかかってくる。


「ちょーっと威力強すぎたかしらー」


「やりすぎだ……」


 回廊の床が抜け落ちてしまったのではないかというほどの大爆発。

 恐る恐るシンは角から頭だけを出して確認をする。


「やっぱりダンジョンの耐久力ってのは凄まじいな……」


 そう呟く彼の目には、作業員用の通路があった壁だけが見事に崩れ去り、他の壁や床には一切傷がついていないという奇妙な光景が映し出されていた。

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