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トレジャー!  作者:
1・凍月
10/35

1-9 異変の元凶

 18ダンジョン52層。

 凍月の間が存在する目的の階層にリョウ達が足を踏み入れると同時に轟音が響き、地面が揺れた。


「おいおいこの音……」


「昨日聞いた音にそっくりね……」


 昨日聞いた爆発音と酷似した轟音に、リョウとアンは言葉を詰まらせる。


『くそっ! どうなってんだぁ!』

『うじゃうじゃ出てくるよっ』

『このままじゃジリ貧よぉー』


 断続的に響く轟音に乗って聞こえてくる3人の声。

 随分近い位置にいるようだ。目の前の突き当りを右に曲がった辺りにいるように感じる。

 これも昨日聞いたばかりの声。


「リョウ……この声って」


「あぁあいつらみたいだな……忍び込んだの……」


 聞き覚えのある声に気付いたシンも呆れ顔だ。 


「あんまりダンジョンに潜らないものねぇ、ミチル達」


 アンの言う通り、市場で商品のやり取りを主な生業とするクラン『砂上の行商人』のメンバーはあまりダンジョンに潜ることはない。ダンジョンに潜らなくても他のトレジャーハンター達が発掘してきた宝をやり取りすることで充分だからだ。

 そのクランの上層部に就いているミチル達も例外ではなく、彼らがダンジョンに潜った経験は数えるほどしかない。


「どうりでな……凍月の横取りに他のハンターが来てるにしたって、レゾナンスが起きるのはおかしいと思ったんだよ……」


 ぼやくリョウ。


 レゾナンスを引き起こすのは初心者の場合が多い。しかし初心者が凍月を横取り出来るような情報を持っているとは考えにくい。

 そのように実力と知識がアンバランスなトレジャーハンター。

 よくよく考えてみれば、そのような特徴に合致する人間はミチル達位のものだ。


「どうするよ、リョウ」


 シンが尋ねてくる。


 シンはミチル達三人とは性格的な相性が良いとは言えない。それに加え彼らはダンジョンに慣れてないとは言え、この階層に出てくる魔物に殺されるような軟弱者ではない。

 そのような理由から、シン本人としてもこのまま捨て置いても問題は無いと感じているのだろう。


「まぁ凍月の間に行くにはそこを右に曲がらないといけない。どっちみち助けるしかなさそうだな」


 幼馴染がモンスターに襲われているというのに冷静なリョウ。

 これもまた、ミチル達の実力をよく知っているからこその反応だ。


「それなら早く行こっ! 何かの間違いで幼馴染の数が半分になるなんて私嫌だし!」


 手短に出した結論に、槍を構えたアンが真っ先に駆け出す。


「おい! アン!」


「先に行くな!」


 すぐに追いかけるシンとリョウ。

 身体能力の差のため、目の前の角を右に曲がったのは三人同時であった。


「こりゃ……」


「すごいね……」


「やりすぎだろ……」


 角を曲がった三人は武器を構えたまま足を止めてしまう。


 そこはもはや戦場であった。

 幅8メートルほどの回廊にこれでもかと言うほど大挙する魔物。先日リョウが潜った時に対峙した猫型の魔物『ステインキャット』だ。

 体長3メートル程の四足の魔物が、回廊に少なく見積もっても50匹ほど存在した。奥の方に目を凝らすと、仲間の危機に他のステインキャットが次々現れてきているのが確認できる。


 その魔物達に囲まれるのはミチル、ヒカル、ハルカ。

 ハルカの爆弾の影響だろう。石造りの壁は所々焦げて黒く変色しており、火薬の臭いが鼻を突く。

 足元転がるのはミチルによって頭を陥没させられた死骸。ヒカルによって引き裂かれた死骸。そしてハルカによって黒焦げにさせられた死体等様々だ。


「おぉーやぁっと来たかリョウ!」


 魔物の群れの中で、両手両足を振るいながら声を上げるミチル。


「遅いよっ!」


「いやーシンとアンも一緒じゃないー」


 続いて声を上げるヒカルとハルカ。

 余裕を見せている三人だが、いくら殺しても湧き続けるステインキャットにそろそろ飽き飽きしているようだ。


「お前ら、よくこれだけの魔物をおびき出せたな……」


 呆れながら手近なステインキャットを、鋭い一閃で切り伏せるリョウ。


「いやぁーお前らを待つのに飽きたからこの層を散歩しててよっ!」


 リョウ達が来たことに安心したのか、ミチルは攻撃のスピードを上げていく。


「そしたらなんか魔物の巣を見つけちゃってっ!」


 魔物の間を駆け抜け、二振りの短剣を複雑に振り回して次々と魔物を解体していくヒカル。


「面白いかなーって思って爆弾投げてみたら、こんなことになっちゃったのー」


 必要最低限の小さな爆発を連続で起こすハルカ。

 

「そりゃお前らがっ! 悪いだろ! 燃えろぉ!」


 炎陽の炎で5匹ほど纏めて消し炭に変えるシン。


「大体なんでここにミチル達がいるのよ!」


 槍と雷撃を器用に使い分け、円形に囲ってくるステインキャット達を処理していくアン。


「それは後ではなぁーす! 今はこの状況をどうにかしてくれ!」


「全く! お前はいつもそうだよっ!」


 自分の失態が引き起こした状況に悪びれる様子もなく、偉そうに声を上げるミチルに苦言を呈しながらも、リョウは幾度も剣を振るった。


――――――


「これで終りっ!」


 ヒカルが最後のステインキャットを切り伏せる。


 リョウ達が戦闘に加わってから15分。

 回廊にはステインキャットの死骸が山のように積みあがっていた。


「やっぱり魔剣使いと魔法使いが加わると効率が良いな!」


 肩を回しながら、ミチルが飄々と告げる。


「くそっ! ほとんど俺らに始末させやがって」


「そうよっ! 魔法だってタダでぽんぽん出せるもんじゃないんだからね!」


 各々の武器を杖のようについて肩で息をしているのはシンとアン。

 次々を湧き出てくるステインキャットの半分ほどは、この二人が始末した。


「僕らじゃ一度にそんな沢山相手できないもんっ」


 けらけらと笑いながら血に染まった短剣を布で綺麗にするヒカル。


「私の爆発もこんな狭いところじゃ使い勝手が悪いものねー。なんちゃらと鋏は使いようって言うでしょうー?」


 試験管の残量をチェックしながらまたしても煽るハルカ。


「あんまりアンを煽るなよハルカ。それで?なんでミチル達はこんなところにいるんだ?」


 凍月の間への道を開く為、リョウは話しながら壁の隙間に2本の細い器具を通している。


「そりゃぁ俺らだって幼馴染が凍月を手に入れる瞬間を拝みたいからに決まってるじゃねぇか」


 まるで舞台役者のように、おおげさな所作で語るミチル。


「情報はどこからだ?」


「そりゃ砂埃でしょうよ」


 リョウの疑問に、呆れた様子で答えるのはアン。


「どうせ砂埃で話してるあの時に、そこのロリ娘が聞き耳を立ててたんでしょ」


「あらぁ人聞きの悪いこと言わないでよねー」


 アンの悪態にハルカは優雅な口調で返すのみだ。


「それならもっと他にやり様があっただろうよ。ゲートを飛び越えたりレゾナンスを引き起こしたり……」


「んーその方がかっこいいからっ?」


 呆れるシンに、悪びれる様子も無く応えるヒカル。


「辞めとけシン。こいつらに理詰めで話しても意味が無いから……」


 目線は手元に落としたまま、リョウも諦めたような表情で呟く。


「しっかしダンジョンに潜るのなんて久しぶりでよぉ。こんなとこに毎日潜って大変だなぁリョウ」


「まぁ慣れれば大した事はない。やっちゃいけない事を守ってれば簡単さ」


 ミチルをよく知らない人間からしたら馬鹿にされていると感じるような台詞に、リョウは何も感じない様子で平然と応える。


 ミチルは口こそ悪いが、根はそこまで悪い奴ではない。むしろ純粋すぎる位だ。

 ヒカルとハルカも同様。

 幼馴染だからこそ分かることなので、この三人が敵を作り易いというのも頷ける。


「よし、開くぞ……」


 凍月の間を開錠したリョウが声を上げると、一呼吸置いてゆっくりと壁が二つに割れていった。

 

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