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トレジャー!  作者:
1・凍月
1/35

序章 青く光る部屋で

「よし……もう少し……」


 緊張に彼の手が震える。

 暗い暗い地下の奥深く。

 頼りの明かりは、申し訳程度に設置された壁のランプのみ。

 ゆっくりと細い二本の針金を駆使し、壁の隙間から除く鍵穴の解除を試みる。


「いける……開いた!」


 石造りの壁が重い音を響かせ、彼の目の前に一つの部屋が開かれる。


凍月(とうげつ)の間……やっと見つけたぞ」


 彼は開かれた部屋に、ゆっくりと足を踏み入れる。

 彼が作業していた石造りの回廊とは材質が異なり、その部屋は、青白い透明な鉱石で作られていた。


 光源は鉱石そのもの。

 鉱石と同色の光が、部屋全体を照らしていた。

 空気はひんやりと冷たく、数百年誰も足を踏み入れていない場所だというのに埃一つ見当たらない。

 

 不思議な場所であった。

 まるで異世界。絵本の中に迷い込んでしまった気分になる。


「さて、ここからが本番なんだけど……」


 彼はゆっくりと首を動かし、部屋を観察する。

 ちょうど部屋は立方体。目に付くものは何も無い。


「左に2歩、前に5歩、右に3歩……」


 とある文献から読み解いた通りに、彼は歩みを進める。

 この通りに動かなかった場合、罠が作動して彼の命など一瞬のうちに消し飛んでしまうだろう。


「ふぅ……」


 心地良い緊張感。

 しかし彼の体は、その緊張感を心地良いとは感じていないようだ。

 命を守れるように必要最低限着込んだ、安物の外套と鎧。その下を幾筋も冷や汗が流れる。

 

「落ち着け……」


 震える脚に語りかけ、彼はゆっくりとその場に膝を付く。


「……」


 どうやら罠は作動しないらしい。

 彼は一安心して、足元で光る鉱石に左から右へ一気に指を這わす。

ガコッ

 という音と共に30センチ四方の切れ込みが鉱石に走り、その部分が20センチほど窪む。


「文献通りだ」


 自らの解釈が正しいことが証明され、したり顔の少年は窪みをじっくりと観察する。

 どうやらこの窪みに、ある物を差し込むらしい。

 窪みの底、中央に丁度一振りの剣が差し込めるような亀裂が存在する。


「問題は何を差し込むか……」


 彼は、必要となる鍵の候補を一つづつあげていく。


「闇月、狂華、雷切り……違うな」


 亀裂を指でなぞりながら、彼はそこに刺さるであろう刃の形状を想像する。

 幅は10センチ、厚さは最も分厚い部分で1センチ程。かなり大きな部類だ。

 よく見ると、刃の紋章に引っかかるような突起が亀裂の奥から窺える。

 そうなった場合に彼が思いつく剣はただ1つ。


炎陽(えんよう)……か」


 彼は一つ含み笑いをし、彼の友人が大切に腰に下げている愛剣を思い浮かべた。


「さ……てと、面倒だな」


 ここに鍵が存在しないということは、彼がこの部屋で出来ることはもうない。

 彼は立ち上がり、行きと正反対の決まった手順で部屋から回廊へ出る。


 どういう仕組みかは分からないが、彼が部屋から出た瞬間、重い音と共に再び壁は閉ざされてしまった。

 数秒間、名残惜しそうに壁を見つめた彼。壁の開くために使った器具やランプを手早く片付け、脱出の準備を整える。

 彼としてもこの場でゆっくりアフタヌーンティーとしゃれ込みたい所だが、そうはいかない。

 ここは危険過ぎる。


 彼が今立つのは18ダンジョン52下層。


 財宝を狙う人々の欲望が渦巻き、罠や魔物に命を刈り取られた人々の血糊が至る所にこべり付いている魔窟だ。

 ゆっくりと体を伸ばすのは地上に出てからだ。


「っと、やっぱり出てきたか」


 彼は回廊の左手奥から気配を感じ取り、視線を向ける。


 ダンジョンに潜る時は、いかなる時でも気を抜いてはいけない。

 彼を含め人間は、ダンジョンに忌み嫌われているようだ。

 人がダンジョンに足を踏み入れた瞬間、そこに住まう魔物達は寝床から這い出て狩りの準備を始め、罠は虎視眈々と哀れな犠牲者を待ち続ける。


 彼は奥からこちらへ忍び寄る影に目を凝らす。

 四速歩行、猫のような体つき。黄色い体毛は手入れなどされているはずも無く、灰色に薄汚れている。

 地上の猫のようなサイズであれば、連れ帰って風呂にでも入らせて愛玩用として飼ってみたいものだが。体長3メートル、50センチの牙と爪を光らせるペットなど、誰が欲しがるだろうか。


「さて・・・」


 彼はゆっくりと、腰に吊るされた片刃の剣を抜き放つ。

 並の人間では、彼が対峙するバケモノにひとたまりも無く喰われてしまうだろう。

 しかし彼にとって、この程度の相手なら何の問題も無い。


 ―――リョウ=クレセッド


 彼もまた日々ダンジョンに潜り、危険と隣り合わせの状況で宝を狙い続けるトレジャーハンターの一人なのである。

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