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神様に投げつけられた地味なバグスキルを限界まで検証した俺だけ、荒廃した東京で今日も飯がうまい  作者:


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第3話

 ベッドに座り、ノートを見返す。


 書き込みはもう10数ページに及んでいた。


 出せる。

 消せる。

 再出現できる。

 最大生成数は1個。

 1辺15センチ。

 視界内2メートル以内。

 音声不要、意志でコントロール可能。

 壊れない。

 動かない。

 表面状態は再出現でリセットされる。


 これが今の全部だ。


「次は、拡張性と実用性だな」


 声に出すと、少し整理できた気がした。

 なんで声に出すと整理できるんだろう、とは思う。

 でも実際そうなので、一人暮らしの部屋で独り言を言い続けることにした。


 壊れない。

 動かない。

 近距離限定。

 この3つが揃っているなら、荷重や衝撃に対してどこまで耐えるかを確かめたい。

 ただ、室内でできることには限界がある。


 夜の公園に行くことにした。


 持ち物を確認する。

 メジャー、ノート、ペン、水入りのペットボトル、スマホ。


「検証だから」


 自分に言い訳しながら玄関を出た。

 深夜に公園へ向かう大学生。

 客観的に見るとだいぶ怪しいが、仕方ない。


 住宅街から10分ほど自転車を走らせると、小さな公園があった。


 ブランコ、鉄棒、ベンチ、自販機、自転車置き場。

 設備は古いが、夜のこの時間帯に人の気配はない。


 入口で立ち止まり、周囲を確認した。

 通行人なし。

 監視カメラは……自販機の上に1台あるが、角度的にブランコ付近は映っていないはずだ。


「職質されたら説明が面倒だな」


 何をしていたんですか。

『謎の黒い立方体の性能を確かめていました』。

 絶対に信じてもらえない。


 小さく呟いて、奥へ進む。

 まずは危険度の低い実験から始めると決めていた。


 最初は荷重テストだ。


 膝くらいの高さの空中に、キューブを出す。


 ぽこん。


 黒い立方体が宙に浮いた。

 夜だから余計に目立つが、見ている人間はいない。


 手で押す。

 変化なし。


 片手を乗せ、ぶら下がるように体重をかける。

 動かない。


 両手で思い切り押す。

 やはり動かない。


 俺はそのまま、片足を立方体の上に乗せた。


 15センチ四方の黒い面が、足の裏をしっかり受け止めた。


 ぐらつきは一切なかった。


「……お?」


 ゆっくりと、もう片方の足も持ち上げる。


 両足で立つ。


 揺れない。

 沈まない。

 ずれない。


「おおっ」


 思わず声が出た。

 両足乗せても動かない。

 15センチ四方の黒い箱の上に、俺が普通に立っている。

 なんかすごい。

 地味だけどすごい。


 サイズが問題だった。

 1辺15センチでは、両足を揃えるのがぎりぎりで、少しでも重心がずれると落ちる。

 踏み台として使うには、かなり不安定だ。


「サイズさえ何とかなれば……」


 ノートに書く。

 体重をかけても動かない。

 足場として成立する可能性あり。

 ただしサイズ制限が厳しい。

 サイズ変更できないか今後要確認。


 次は水テストだ。


 ペットボトルの口を傾け、キューブの上面へ水を流す。


 水滴が表面に乗る。

 黒い面を伝って、いくつかの流れになった。


 指で触れると、普通に濡れていた。

 水は付着する。


 俺はそのままキューブを消した。


 再出現させる。


 ぽこん。


 表面を確認する。


 乾いていた。


「あ、これ便利かも」


 汚れや液体の持ち越しがない。

 衛生面では便利かもしれない。

 もっとも、1個しか出せないキューブを衛生用途に使う場面が具体的に思い浮かばないが。

 どんな場面だ。


 ノートに書く。

 水は付着する。

 消去→再出現で完全リセット。

 表面付着物全般が消える可能性。


 次はブランコだ。


 まず止まっているブランコの前方にキューブを出し、高さと距離を測った。


 ブランコを軽く押して、どの軌道を通るかを確認する。

 弧を描いて揺れる軌道に対して、キューブの高さをどこに設定するかで、当たり方が全然違う。


 足元に置けば、つまずかせる。


 膝の高さなら、関節を壊す可能性がある。


 顔の高さなら。


「……待ってくれ」


 俺は一人でブランコに向かって両手を上げた。


 悪用を想定し始めている。

 いや、想定すること自体は必要だ。

 危険性の把握は大事だ。

 でも夜の公園で一人、無人のブランコを眺めながら「顔の高さに置いたら」って考えている大学生、客観的に見てかなりまずい。


 ノートに書く。

 設置位置の高さが重要。

 位置によって危険性が激変する。

 ※悪用厳禁。


 では、動いているブランコに対してはどうか。


 ブランコを軽く揺らし、弧の頂点付近の進路上にキューブを出した。


 ブランコが戻ってくる。


 鈍い音がした。


 ブランコの座面がキューブに当たった瞬間、座面側が弾かれた。

 キューブは微動だにしない。


「おっ」


 もう一度。

 今度は少し振れ幅を増やす。


 当たりが強くなる。

 ブランコ側の跳ね返りも大きくなる。


 キューブは、変わらず無反応だった。


「……これ、かなり危ないな」


 思わず周囲を見回した。

 人はいない。

 よかった。


 止まっているのはキューブではなく、ぶつかった側だ。

 キューブは壁ではない。

「絶対に動かない1点」だ。

 ぶつかってきたものが、勝手に自分のエネルギーを自分に返される。


 速度が速いほど、その被害は大きくなる。


「なんか思ってたのと違う方向に強いな、これ……」


 ノートに書く。

 動いている物体には極めて強い。

 衝撃は相手側に集中。

 速度が高いほど危険性上昇。


 次は自分の身体で確かめる番だった。


 俺はブランコに座った。


 最初はごく弱く揺らす。

 足をついてすぐ止められる速度だ。

 進路上の少し手前にキューブを置く。


 ブランコの鎖がキューブに触れた瞬間、思ったより強い衝撃が腕に伝わってきた。


「っ、いた」


 思わず顔をしかめた。


「……思ったより、来るな」


 速度を上げていたら。


 俺は小さく息を吐いた。

 客観的に「危ない」と分かることと、身体で受けることは別だ。

 予想より強い。

 これは速度を誤れば、自分でも普通に怪我をする。


 敵にだけ有利な能力ではない。

 距離感と速度の見極めを間違えれば、自分も同じ目に遭う。


「自爆スキルじゃないか」


 ノートに書く。

 自己使用でも危険。

 速度と設置位置の見極め必須。

 自分も例外ではない。


 最後に、自転車だ。


 まずは自転車を押してキューブにぶつける。


 前輪が当たった瞬間、自転車が止まった。

 キューブは動かない。

 前輪だけが止まって、慣性でフレームがわずかに前へ傾いた。


「なるほど」


 次は自分でまたがり、ゆっくりとペダルを踏む。

 歩く程度の速度でキューブに向かう。


 ガン、と前輪がぶつかった。


 予想以上に急停止した。

 バランスが崩れ、俺は思わずハンドルにしがみつく。


「……っ、あぶな」


 かなりきつい。

 歩く速度でもこれか。


 少しだけ速度を上げて、もう一度。


 衝撃が一気に増した。

 前につんのめる。

 危うく転びかける。

 咄嗟に地面へ足をついて、なんとかこらえた。


「いたたた……」


 じんじんする手のひらを見る。

 擦り傷がついていた。

 夜の公園で一人転びかけた。

 誰にも見られていないのが救いだ。


 自転車側だけがダメージを受けていた。

 ハンドルがぶれ、前輪のフレームに異音がする。


 キューブは無傷。

 位置も変わっていない。


 俺はしばらく、自転車とキューブを交互に見た。


「……走ってくる相手には、致命的じゃないか、これ」


 ただ硬いとか、ただ固定されているとか、そういうレベルではない。


 動いているものが持つエネルギーを、一方的に受け止めて相手側へ返している。


 速度が速ければ速いほど、その威力は上がる。


 これを人間に使ったら。


 俺はすぐにその想像を切り上げた。

 まだ早い。

 というか傷の手当てが先だ。


---


 ベンチに座り、ノートを開く。


 今夜の結果を整理する。


 荷重——体重程度では動じない。

 足場にはなるがサイズが厳しい。

 水——付着するが再出現でリセット。

 ブランコ(静的)——高さで意味が変わる。

 位置設計が重要。

 ブランコ(動的)——ぶつかった側が一方的に衝撃を受ける。

 自転車——自分でも使い方を誤れば怪我をする。

 速度が高いほど威力が上がる。


 書きながら、手のひらがじんじんしていた。

 擦り傷程度で済んでよかった。

 本当に。


 しばらく、書いた文字を見つめた。


 1個しか出せない。

 近距離限定。

 止まっている相手には、ただの邪魔物だ。


 だが。


「なるほど」


 俺は静かに言った。


「こいつは壁じゃない。罠だ」


 止まっている相手には何もできない。

 だが、動いている相手には凶器になる。


 近い。

 地味だ。

 でも、走ってくる相手には、それで十分だ。


 ノートを閉じる。

 公園の夜風が、少し冷たかった。


 帰り道、自転車から妙な音がし続けた。

 明日、確認しないといけない。

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