15. 本気かな?
――月曜日の朝――
食事会も無事終了し、ほっとした気分で迎えた月曜日の朝だったんだけど、
僕がダンジョンに潜る探索者だと知った佐々木さんは、あれやこれやと僕に質問を投げかけてきた。
「じゃあ、昨日も一昨日もダンジョンに行ってたんだ」
「うん」
「お菊ちゃんも一緒に?」
「うん」
「雨が降っていたのに?」
「うん。って、外の天気はダンジョンに影響しないよ」
「じゃあ、涼しいの?」
「今は涼しく感じるかな。ダンジョン内の気温はほぼ一定だから」
「それはよきだねー。今、先輩からガソリンスタンドのバイトに誘われてるんだけど、暑くてやってられないっつーの! それで、ダンジョンって稼げんの?」
「まあ、僕はそこそこやってるつもりだけど」
「具体的に教えてちょ」
「1日、8時間潜って1万円。いいときで1万5千円ぐらいにはなるかな」
「へえ、そんなに稼いでるんだ。すごいじゃん!」
「でも、これはあくまでお菊がいた場合だよ。僕一人だったら3~4千円がいいところだと思う」
「えっ、お菊ちゃん? どうしてそんなに違いがでるの?」
「うっ、……うん。これは内緒だよ」
僕は声のトーンをすこし落とした。
「お菊の索敵能力や、空間把握能力があってこその稼ぎということなんだ」
「索敵能力に空間把握能力?」
「そう、簡単に言えば、お菊はモンスターや鉱石を探す天才なんだ」
「へえ、お菊ちゃんもすごいじゃん! 可愛いだけじゃなく、おりこうさんなんだね」
「ほんとだよ。戦闘もそつなくこなすし、スキルもたくさん持ってるし」
「じゃあ、あーしが入っても大丈夫なかんじ?」
「ふぇっ???」
――何んですと?
「あーしもお菊ちゃんとダンジョン探索をエンジョイしたいなーなんて。……だめ?」
ああ、またその顔。
あざと過ぎるよ佐々木さん。
「えっ、あ、その……。そ、そうだ、探索者ライセンスがないとダンジョンには入れないんだよ」
「そんなの常識じゃん。あ、林ってば、あーしのこと小バカにしてる?」
「いひゃ、してない! してない!」
佐々木さんはプッと吹き出しながら、
「林、焦りすぎっしょ。いひゃだって、まじうける~」
「…………」
「あーしはマジなんだからね。ライセンスは江戸走りで取ってくるし、モンスターなんかあーしの蹴り一発でKOだし!」
そう言ってファイティングポーズをとり、そこから回し蹴りを放つ佐々木さん。
――ビュン!
綺麗なフォームから繰り出される右の上段回し蹴り。
「うぉ、凄い。かっこいい!」
すらりと伸びたおみ足も綺麗だったけど、こちらは声には出してはいけない。
心の中で褒めておこう。
「にししっ、あんがと。これでもジムに通ってるからね」
ガラガラガラガラ。
教室前方の引き戸が開く。
「おはよう」
入ってきたのは、うちのクラスの女子生徒。
「おはよう」
「おっはー」
僕と佐々木さんも挨拶を返す。
「えへ、人が来ちゃった。つづきはまた二人の時に……ね!」
言い方!
いや、可愛かったけど。
「ダンジョンの件、前向きに考えてみるから」
「うん、よろしこ」
よろしこ???
「よう、朝からお熱いこって」
「おわぁ――――お! いつから居たんだよ?」
「ん、『具体的に教えてちょ』の当りから」
「それってほとんど初めっからじゃねーか! 声ぐらいかけろよな」
「俺が前にいるのに、女子との話に夢中になってる吉十がわるい」
「それは、ほら、その……、おはよう、もなか」
実際に、声をかけられるまで全く気付かなかった。
これは僕がにぶいとか、そんな問題ではないような気がする。
なぜなら、隣の席にいる佐々木さんは今スマホを見ていて、
もなかの存在には未だ気付いていないような素ぶりなのだ。
「あ、こいつ今ごまかしたぞ。……あやしい!」
「…………」
「うそうそ、冗談だって。おはよう吉十」
「それで昨日は試してみたのか?」
「おう、もちろんだ。おまえ何というものを俺に教えるんだ!」
「そんなにかよ。それは教えた甲斐があったな」
「久しぶりに頭の中で、カポッていい音が響いたぞ。その証拠にコレを見ろ!」
ようするにハマったわけね。
もなかが広げて見せてきたコンビニ袋の中には、焼きそばの一平ちゃんが2個入っていた。
「今日はその一平ちゃんだけ食うのか?」
「そんな訳あるかい!」
もなかが突き出してきた右手には、大きなタグが付いている鍵が。
タグには『調理実習室』と書いてある。
「それは?」
「シャウエッセンはちゃんと冷蔵庫に入れてあるぞ」
「おおい! 勝手に使ってバレたらどうするんだよ」
「大丈夫だ。今日は調理実習室は使われないから」
「なんでそんなことわかるんだよ?」
「黒板の横のサブボードに時間割が貼ってあった」
「ところで、その鍵はどうしたんだ?」
「職員室から借りてきた」
「よく貸してくれたな」
「掃除しますって言ったら『ご苦労さん』だって。あと、終わったら鍵は元の場所に戻しておくように言われた」
「掃除大変じゃないの?」
「使ったところは掃除するのは当たり前だろう?」
「…………」
使ったところ……ね。
「吉十はおにぎり係だから。昼までに俺の分のおにぎり3個頼むな。温ためるときは電子レンジが使えるから」
「…………」
「おいしいぞー」
「はいはい」
てなわけで、昼休みに僕たちは調理実習室に入った。
お湯を沸かして一平ちゃんを作り、
電子レンジで袋のまま温めた、アツアツのシャウエッセンをトッピング。
付属のからしマヨネーズはシャウエッセンにだけ掛けた。
これが旨いんだ!
しかも、おかずにもなるんだよね。
一平ちゃんとおにぎり。
炭水化物がぶつかりあってカロリーは大変なことになるけれど、
簡単にできるし、高校生男子飯としてはありなんじゃないかな。
まあ、シャウエッセンはそのまま食べても、何に入れても美味しいんだけどね。
帰りのホームルームも終わり、机の上に出したスクールバッグに教科書を入れていると、
「ねえ、これから林ん家に行ってもいい?」
「――――」
囁きかけるような小さい声。
あれ、疲れているのかな? なにか幻聴が聞こえてきたぞ。
「もう、林ってば無視すんなし!」
こんどはハッキリ聞こえた。
隣の席から身を乗り出してくる佐々木さん。
「えっ、佐々木さん? どうかしたの?」
まじめな顔して答える僕を見て、佐々木さんはガシガシと頭を掻く。
「あ――――っ! もう、いいからLINE見ろし」
「へっ?」
僕は先生がいないことを確認してからスマホを取り出した。
〈LINE〉
――いえ良く 佐、
ん、なんだ? いえよく? 暗号か?
LINEを見ながら考えていると、さっきの幻聴が頭に蘇ってきた。
『ねえ、これから林ん家に行ってもいい?』
ああ、なるほど。そういう事か!
『いえ良く』というのは、つまり『家行く』ってことなんだ。
謎はすべて解けた! ハハハハハッ!
って、おい!!
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