14. お菊の実力と吉十のスキル
――東京ダンジョン3階層――
日本ダンジョン協会・東京本部へ行った帰り、
僕とお菊は、五郎おじさんに連れられて東京ダンジョン3階層まできていた。
昼からのダンジョン探索を行う前に、
新事実も含め、いろいろと検証してみようという事になったからだ。
ダンジョンも3階層まで来ると初心者の姿はどこにも見当たらない。
探索者の数もぐっと減ってしまうので、検証実験を行うには打って付けなのだ。
そして、この階層からは人型モンスターであるゴブリンが出没するようになる。
このゴブリンを殺すことができない。
あるいは、ゴブリンに止めを刺したはいいが、
その事がトラウマなって探索者を辞めてしまう者が多いと聞く。
それはそうだろう。
実力に差があれば、ほいっと首をはねて『はい次!』となるだろうが、
実力が拮抗している場合は、もがき苦しむ相手を寄ってたかってタコ殴りにして止めを刺すわけだからね。
これは結構くるものがあるでしょう。
PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症したとしてもおかしくない。
お菊は大丈夫だとしても、僕はどうなんだろう?
必死に抵抗する相手を傷つけ止めを刺すことが今の僕にできるだろうか?
正直いって不安でしかたない。
「よーし、この辺でいいだろう。まずはお菊の能力確認からだな」
「うん、さっそくこの鑑定の腕輪を使ってみるよ」
僕は右手に鑑定の腕輪をはめ、隣にいるお菊の背に手をのせた。
すると、お菊のステータスが頭の中に流れ込んできた。
オキク Lv.2
年齢 ー
【契約者】 ヨシト・ハヤシ
HP 188/188
MP 158/158
筋力 74
防御 69
魔防 64
敏捷 74
器用 38
知力 64
【特殊スキル】 状態異常耐性 感覚共有 空間把握
【スキル】 魔法適性(風・回復・結界)魔力操作(3)
クリーン 挑発
【魔法】 風魔法(1)回復魔法(1)結界魔法(1)
【加護】 聖獣
こ、これは……。
ダンジョンでの行動や、モンスターを瞬殺する姿を見て、
お菊の実力は僕の数段上だと思っていたけれど、とんでもない強さだな。
ちなみに僕のステータスがこちら、
ヨシト・ハヤシ Lv.2
年齢 16
状態 通常
【従魔】 オキク(*****)
HP 17/17
MP 27/ 7 +20(魔力の指輪)
筋力 9
防御 7
魔防 6
敏捷 7
器用 9
知力 8
【特殊スキル】 時空間魔法(U)状態異常耐性
【スキル】 魔法適性(風・土)魔力操作(3)
アクセル
【称号】 チビデブ、契約者、
【加護】 聖獣
スキルが多くて喜んでいたけれど、
実力はご覧の通り、お菊と比べるべくもない。
って、お菊強すぎない?
今までの戦闘なんて、お菊にとってはほんのお遊びみたいなものだったのだ。
なんか、お菊が凄すぎて気後れしてしまいそうだよ。
「それで、お菊のステータスはどうだった?」
「あ、うん、ちょっと待って」
僕は急いでメモ帳とボールペンを取り出すと、
お菊のステータスをさらさらと書き出して、それを五郎おじさんに見せた。
「フムフム、なるほど。ステータスの上がり方はうちの二匹とほぼ変わらないな」
「五郎おじさんはこれを見て何とも思わないの?」
「そう言われてもなぁ。その腕輪は、もともと俺のだし」
「あ、それもそうか……。 あ――――――っ! もしかして五郎おじさん、初めからコレ知ってたんでしょう。それであんなに探索者になることを僕に勧めてきたんだ!」
「ん、何のことだ? 俺はただ一般論として勧めてみただけなんだが」
「…………」
「んっ、んん、じゃあ次は従魔召喚を教えようかな」
「……うん」
僕が返事をすると、五郎おじさんは右手の人差し指と中指を揃え、それを額の中央に当てた。
「――パンチ来い!」
発声から2秒ほどで、五郎おじさんの元に一匹の犬が現れた。
あ、パンチだ。
凄いなぁ、ちゃんと召喚されてきたよ。
「パンチよく来たな。偉いぞ。よしよし」
パンチは慌てることなく、ゆっくりと尻尾を振りながら周りを警戒している。
ここがダンジョンだと分かっているようだ。
「こんな感じだな。しっかり意思が伝わればダンジョンであっても呼び出せるぞ」
「パンチもジョンもときどき家から消えることがあったからね。召喚されているのはわかっていたけど、実際に目の前で起こるとほんと不思議だよね」
「まあ、ダンジョンがあるんだから今さらだけどな。こんどは吉十がやってみろ。俺がお菊を連れて隣のルームに行ってるから」
「うん、わかったよ。お菊のことを強く念じればいいんだよね」
「おう、それでいい。あのポーズは魔力を前頭葉に集めるためのものなんだ。魔力が十分に集まったところで、呼び掛けるように念じるんだ」
僕がうなずくと、五郎おじさんはお菊を連れて隣のルームへ移動していった。
そろそろ10分経った頃かな?
僕は深呼吸して例の召喚ポーズをとった。
でも、コレって悟空の瞬間移動のポーズだよね?
確か、相手の気を感じ取って……、
って、あれ? 大きな気があるな。
これってお菊の気かな?
その気を手繰り寄せるようなイメージで、ぐいっと引っ張ると、
――シュン!
「…………」(五郎)
「あれ、五郎おじさん。いつ戻ってきたの?」
「何をとんちんかんなこと言ってるんだ吉十。おまえが来てどうするんだよ!」
「ふぇ、どういうこと?」
「俺の方が聞きたいわ! まさか、お菊に呼ばれて召喚されたのか?」
「それも違うよ。僕呼ばれていないから」
「じゃあ、何なんだ?」
「たぶん瞬間移動だと思う」
「瞬間移動!? 瞬間移動といえば悟空がヤードラット星人の長老から教わったというアレか?」
「うん、僕もあのポーズをとって額に魔力を集めていたら、なぜかお菊の気が分かるようになって、それをぐいって引っ張ったらここに来てしまって……」
「ふんふん、なるほど、わからん」
ピーン!{時空間魔法(U)により、スキル「瞬間移動」を獲得しました}
「五郎おじさん。いま頭の中に音声ガイダンスが流れて、瞬間移動がスキルとして生えたみたい」
「そうなのか? それは凄いな」
「あっ、パンチを迎えにいってあげないと」
「お、今度はしっかり召喚できたじゃないか」
召喚されたお菊は嬉しさのあまり、僕に飛びついてきた。
「お菊、ステイ、ステイ。ここはダンジョンなんだ。召喚されたらすぐに警戒しないといけないよ」
「わふっ」
「よし、時間もないことだしどんどん行くぞ。次は攻撃魔法の試射だ。吉十は土魔法に素養があったよな?」
「うん、僕の魔法適性は風と土だよ」
「じゃあ、土魔法は俺から盗め。魔力操作のレベルが3以上なら、すぐにでも使えるようになるはずだ」
「盗むってどういうこと?」
「ああ、魔法の行使中に魔力の流れを掴むということだ。まあ、やってみれば分かるだろう。俺の後ろから肩に手を置いてみろ」
僕は言われたとおり、五郎おじさんの肩に手を置いた。
「お、ちょうどお誂え向きに、的がのこのこ向こうからやってきたぞ」
外の通路から僕たちがいるルームに入ってきたゴブリン。
五郎おじさんはそのゴブリンに向かって攻撃魔法を放った。
「アースドリル!」
すると目の前で形成された石のドリルが、ぎゅるぎゅる回転しながらもの凄い勢いで発射され、
ゴブリンの体を貫通して大穴を開けた。
「…………」
その状態で薄くなって消えていくゴブリン。
えげつないほどに圧倒的な威力。
魔法ってスゲー!!
「これって、いきなり大技じゃないの?」
「そうだな」
「いやいや僕は初心者なんだから、もっとこう簡単なやつからじゃないの? ロックバレットとかあるでしょう?」
「あるな」
「じゃあ、その簡単なやつからいこうよ」
「時間がない。一つ出来れば、あとはその応用でしかない。男がそんな細かいことを気にしてんじゃねえ!」
「…………」
この後、五郎おじさんによる魔法の特訓は2時間みっちりと続けられた。
僕はアースドリルが撃てるようになった。
的になったゴブリンもたくさん倒した。
おかげで、当初心配していたゴブリンに対する懸念はどこかへ飛んでしまっていた。
「じゃあ、今日はこの辺にしとくか。この後もしっかりおさらいして練習しておくんだぞ」
「五郎おじさん、ちょっと待ってよ! スキルが出ているのに使えないものがあるんだ。以前はMPが足りないせいだと思っていたんだけど、どうも違うみたいなんだ」
「なんていうスキルだ?」
「アクセル」
「名前からすると加速系か? わかった。調べといてやる」
そう言うやいなや、五郎おじさんはパンチを連れていそいそと帰っていった。
今日はこれからショッピングをしに、ミサトさんと銀座まで繰り出すんだって。
熊ゴローめ、爆発しろ!
「さっ、お菊行こう!」
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