12. 正規ライセンス 1
サイゼリヤでの食事会も終わり、会計も済ませたので店を出ようとしていると、
『2次会はやっぱカラオケだよね』
『うん、いっぱい食べたけん、がんがん歌ってカロリー消費せな、晩ご飯が入らんばい』
『…………天城越え、よろ』
えっ、そんな素敵なオプションが付いてたの?
だけど、僕は家に帰らなくてはならない。お菊が首を長くして待ってるからね。
魅力あふれるお誘いを丁重にお断りした僕は、クロスバイクに跨り家路についた。
ああ、もなかね。
もなかはカラオケなんかまったく興味がないから、レジで清算する時にはすでに居なかったよ。
マンションの駐輪場に自転車を駐めたら、オートロックの扉を開けエントランスホールに入る。
いつものように集合ポストの裏へ回り込んだら、中に入っている手紙やポスティング広告などを回収する。
すると今日は、いつもの郵便物に混じって大きくて分厚い封筒が目に入った。
封筒下部の差出人欄には【日本ダンジョン庁:免許交付課】とある。
『よっしゃー!』
僕は封筒を持ったまま、静かにガッツポーズを決めた。
待ちに待ったものがようやく届いたのだ。
嬉しすぎて自然と口角が上がっていく。
「お菊ただいまー!」
尻尾をふってまとわりついてくるお菊を片手であやしながら、僕は自分の部屋に明かりを点けた。
スクールバッグと郵便物を机の上に置いたら、制服をハンガーに掛け部屋着を身につける。
リビングに戻ったら、まずはベランダ側のサッシを開け空気の入れ替えを行う。
遊んで遊んでとすがりついてくるお菊に「ステイ!」を言い渡しトイレシートの張り替えを済ませる。
エサ入れボウルと水トレーを洗ったら、次はケージのお片付け。
お菊お気に入りのクッションをケージの上にあげ、床にコロコロを掛けていく。
これが終われば散歩に出かけるところなんだけど、
その前に、
僕はダンジョン庁から届いた封筒を開け、中身を確認してみることにした。
………………
やはり、正規ライセンスの交付手続き案内と、それに関わる申請用紙が入っていた。
これで僕も見習い探索者から、正式に6級探索者ということになる。
ライセンス・カードには顔写真も入るので身分証明書としても使えるし、【Suica】のような電子マネーとしての機能も備えている。
さらにこのカードがあれば都内のJR、地下鉄のほとんどが半額になる特典つきだ。
その他にも、スカイツリーの展望デッキやスタジオツアー東京の入場割引など、
ダンジョン庁のホームページを見れば、たくさんのレジャー施設や飲食店などが協賛していることがわかる。
ただ、これらのサービスにおいてはライセンス・カードさえ持っていれば良いのかというと、そう甘い話でもない。
ライセンス・カードの効力を維持するためには、その等級に応じた『魔石納入』のノルマが課せられているのだ。
この正規ライセンス交付にしても、極小魔石を50個以上納めていないと事前審査の受付すらしてもらえないのだ。
まったくもってうまく考えられている。
等級が上がればサービス面も向上していき、都内シティホテルの宿泊券やタクシーチケットなども貰えるようになるということだ。
とにかく特典いっぱいのカードなのだ。
プ・プ・プ・プ・プ・プ・プルルルルル・プルルルルル・プルル/ガチャ!
『はい吉田!』
「五郎おじさん、吉十だけど。いま電話して大丈夫?」
『おう吉十か。どうした? まだドライは足りているだろう? トイレシートの方か?』
「いやいや、ドライフードもトイレシートもまだ先でいいよ」
『そうかそうか、なくなる前にちゃんと言うんだぞ。それで今日はなにか用事か?』
「あ、うん、正規ライセンスの交付手続き案内と申請用紙が来たんだよ」
『おお~、やっときたのか! おめでとう!』
「うん、ありがとう五郎おじさん。それでね………………」
今回は探索者ライセンスの申請と共に、お菊の帯同動物登録もしなくてはいけないのだ。
仮免許まではポータルのある各支部にて、その都度検査を受けダンジョン侵入の許可をもらっていたのだが、帯同動物登録をすることによってその手間も省けるようになる。
特に週末なんかは探索者でごった返すから、待ち時間も長くかかって大変だったからね。
具体的に何をするのかといえば、
登録手続きの他に、マイクロチップを埋め込んだり首輪に識別票を付けたりといろいろあるそうだ。
そういった手続きをスムーズに進めるため、事前審査の受付前から五郎おじさんには同行してもらえるようお願いしておいたのだ。
それに僕は未成年なので、五郎おじさんに保護者としての承諾書も書いてもらわなければならない。
それでもって、探索者ライセンスの交付代行を行っている日本ダンジョン協会・東京本部に、
日時を合わせて五郎おじさんと訪ねようというわけ。
ちなみに、この日本ダンジョン協会・東京本部は文京区の駒込にある。
僕が住んでいるところは東京スカイツリーが近くに見える東京都墨田区なので、
距離的にも結構あるし、お菊を電車や地下鉄に乗せることはできないからね。
――日曜日の朝――
僕がお菊を連れてマンションの玄関先で待っていると、
ブルブルブルブォーン!
五郎おじさんがグリーンのラングラーでお出迎え。
熊ゴローのくせにかっこよすぎだろう。
「よう、待たせたな!」
そう言ってサムズアップする姿も、やけに似合っていて腹立たしい。
僕はお菊を連れて車に乗り込み、後部座席に並んで座った。
あれ? お菊の表情が少し硬いような……。
あっ、勘違いしているんだな。動物病院に行く時もこの車だから。
「お菊、今日は病院じゃないから大丈夫だよ」
僕は落ち着かせるように、お菊の頭をゆっくりなでてあげた。
…………
「アメリカなんかは日本のダンジョンに入れろ入れろと矢のような催促をしているんだ」
「なんで日本ばかりなのさ? ダンジョンなら韓国やフィリピン、東南アジア方面でもたくさん出現してるよね」
「まあ、その通りなんだが、日本にあるダンジョンがちょっと特殊でな」
「そうなの。外国にあるものと何か違ってるの? 外国はモンスターがやたら強いとか?」
「いや、出現するモンスターの強さは日本も海外もほとんど変わらないな」
「じゃあ何が違うの? 水没していて先に進めないとか?」
「それもないな。いくつか海底で見つかったダンジョンもあるが、これが不思議なことに潜水艇などでダンジョン広場まで下りることができれば、ダンジョンには普通に入れるそうだ。ダンジョンが近海にあるなら、海上プラントのように基地をつくって昇降機をつければ、それこそ専用ダンジョンの出来あがりだな」
「へ~、専用ダンジョンか。それもいいね」
「そうだな、しかし金銭面以外にもいろいろと問題があるみたいだけどな」
「さあ着いたぞ。話の続きは、また帰りにでもしよう」
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次回をお楽しみに!




