10. 黒まろ(挿絵あり)
ここは江東区にある木場公園。
木場公園は東京都現代美術館をはじめ、いろいろな施設を備えた大型森林公園だ。
東京ダンジョンの江東ポータルもこの公園の南側にある。
僕はお菊を連れて公園の北側をひと回りしたあと、売店のすぐそばにあるベンチで一休みする。
お菊の散歩コースは他にもいくつかあるけど、
この公園に来たときは、必ずこの売店に寄るようにしている。
なぜなら、この売店の前に設置してある自販機にはスコールが入っているから。
おいしいよね、愛のスコール。
でも、このスコール、他ではまったく見ないんだよね。
それで、不思議に思ってネットで検索してみたところ、
シェアの多くは西日本であり、シェア率なんと92%。
関東以北でシェア率8%だから、東京では目にする機会が少ないんだ。
僕は自販機に小銭を投入すると、迷わずスコールのボタンを押した。
「ぷっはー、夏はやっぱりこれだよね!」
スコールの甘酸っぱい白い炭酸が、渇きでひりついた喉をやさしく癒やしてくれる。
(この物語はフィクションです。スコールホワイトは通販にてお求めいただけます)
えっ、お菊?
お菊は僕の隣で、家から持ってきた犬用の水筒でお水を飲んでいるよ。
そしてお待ちかねの、おやつタイム!
僕がワンちゅ~るをポケットから取り出していると、
いつのまにか、お菊の横に別の犬が並んでいた。
「よう、黒まろ。久しぶりだな」
「わん!」
律儀に、吠えて答える黒まろ。
この『黒まろ』とは、僕がそう呼んでいるだけで本当の名前は知らない。
毛並みが黒いからそう呼んでいるだけなのだ。
犬種は黒柴かな。
つやつやの毛並みは、いつもきれいに整えられており、首には立派な赤い首輪が付けられている。
どこかの飼い犬だとは思うんだけど、いつも黒まろ一匹で現れるんだよね。
「クゥ~ン」
「ああ、はいはいコレね。今日はたくさん持ってきたからいっぱいお食べ」
僕が座っているベンチに、向かい合うようにお座りしている二匹のワンコ。
お菊と黒まろは尻尾をシンクロさせるように振って、おやつがもらえるのを今か今かと待っている。
まずはお菊に、次が黒まろにと、順番にワンちゅ~るを食べさせていく。
でも、不思議なんだよね。
いつものお菊なら、
『コレは全部わたしのよー!』と、僕にぐいぐいまとわり付いてくるのに、
黒まろがいると、おとなしくお座りして順番が来るのを待っているんだよね?
そういえば初めて黒まろに出会った時なんか、お菊はゴロンして『遊んでポーズ』をとっていたような気がするな。
………………
「はい、今日はこれでおしまい。また、次にここへ来るときに持ってきてあげるね」
僕がそう言うと、黒まろは納得したように首を縦に振り、公園の奥へと去っていく。
黒まろって仕草が妙に人間くさいんだよね。
僕とお菊が見送っていると、
『あっ!』と何かを思い出したように黒まろは立ち止まり、こちらに引き返してきた。
―???―
「どうしたの? なにか忘れ物?」
僕がしゃがんで黒まろにそう尋ねると、黒まろはプイッと口の中から何かを吐き出した。
んん、なんだ?
コロコロと目の前まで転がってきたものを僕は手に取ってみた。
キラリと光る綺麗なシルバーリング。
装飾などは入っていないけど、傷ひとつない真新しいリングだ。
「もしかして、コレを僕にくれるの?」
僕がそう尋ねると、手に取ったリングの向こうで黒まろはコクコクとうなずいている。
う~ん、コレってちゅ~るのお礼なのかな?
本当にもらってもいいのだろうか?
まあ、ダメならダメで飼い主さんが何か言ってくるだろうし、
そのときに返せば問題ないかな。
「じゃあもらっておくね。ありがとう!」
「わん!」
一吠えした黒まろは満足そうに頷き、軽い足取りで森林公園の奥へと消えていった。
「さてと、僕らも帰るとしようか」
僕は何の気なしに、もらったリングを左手の中指にはめてみた。
『はははっ、ぶかぶかだー』
僕がそう思った次の瞬間、リングは縮んで中指にピタリと収まった。
えっ!?
自動調節機能が付いたリング。
それはレアリティの高い、ダンジョン産の装備品であることを意味していた。
――金曜日、朝の教室――
とうとうサイゼリヤに行く日がやってきた。
女子とレストランへ行くのは、今回が初めてだったりする。
あの佐々木さんを目の前にして、はたしてご飯が喉を通るのだろうか?
期待と不安で、お腹が痛くなってきた。
いやいや、ちょっと待ってくれよぉ。
行くのは放課後なんだ。朝からこれでは先が思いやられる。
お金のほうは昨日のうちに下ろしてきた。
財布の中には2万円が入っている。
これなら、もなかがいくら暴食したとしても足りなくなることはないはずだ。
だけど、集合場所も時間もまだ決まってないんだよね。
まずはそのあたりが決まらないと、落ち着かなくてしょうがない。
佐々木さん早く来ないかなー。
ガラガラガラ 教室後ろの引き戸が開く。
佐々木さんキタ―――!!
左肩にスクールバッグを掛け、右手でスマホを操作しながら教室に入ってくる。
相変わらずの胸開け夏制服……って、透けブラしてんじゃん。
薄っすら透けているネイビーのブラ。僕のドキドキはとまらない。
「ちょりーっす!」
おっといけない。
目線を胸から無理やり引き剥がし、佐々木さんの顔へと固定する。
「お、おはよう佐々木さん」
「うん、最近ようやく顔見て挨拶できるようになったじゃん」
腕を組んで、うんうんとうなずいている佐々木さん。
彼女のこのような仕草も可愛く見えてしまうんだよね。
「佐々木さん、今日のことなんだけど……」
「ほいほい、サイゼリヤに行くやつな。みんな楽しみにしてるから」
「そうそう、それで集合場所とか時間とか、まだ決めてなかったよね」
「んなことLINEで……って、そか、まだあーしのID知らないんだよね」
そう言って、手に持っていたスマホを操作している佐々木さん。
「ほい、あーしのID。読み込み方は分かるよね」
「うん、大丈夫。QRコード頂くね」
僕は急いで鞄からスマホを取り出すと、
QRコードリーダーを起動させ、佐々木さんのQRコードを読み込んだ。
これにて無事LINE(ID)の交換は終わり、僕の数少ないお友だちリストに佐々木さんの名前が加わった。
LINEの交換はしたものの、佐々木さんは隣の席にいるわけで。
食事会の打ち合わせは授業の合間に口頭で行われた。
LINEで交わした事といえば、
いきなり授業中に送られてきた、『よろしクマ!』と言っているクマさんのLINEスタンプ。
驚いて隣を見ると、
にししっと、いたずらっぽく佐々木さんが笑っていた。
あと、『サイゼのメニューで何がすき?』といったそんな質問。
先生に見つからないように返事を返すのが大変だったよ。
先週につづき、挿絵は本作のヒロイン、佐々木優里になります。
「小説家になろう」ではお馴染みの絵師、管澤捻さんに描いていただきました。
挿絵はこの2点で終わりです。
興が乗れば、また描いて頂くかもしれません。おこづかいの関係もございますし……。
ブックマークありがとうございます。
評価ありがとうございます。
リアクションも多数ありがとうございます。
作者にとりまして、もの凄い力となっております!
これからもよろしくお願いいたします。φ(ΦωΦ )
次回をお楽しみに!




