第8話 王子の噂と家庭教師の試練
あらすじ
リーゼロッテたちの規格外の噂は、ついにアースガルド王国の第一王子エドワード・アースガルドの耳にも届き、傲慢な王子は双子に関心を持ち始める。一方、双子の教養担当として、元宮廷教育係の厳格な老婦人、ローザ・ハーディネスが派遣される。ローザは、双子の真の能力を測るかのように、知識と知恵を試す様々な難題を出す。この試練に対し、リーゼロッテの直感とアウローラの頭脳が、チート能力を駆使して立ち向かう。
本編
王都での生活が軌道に乗り始めた頃、ヴァイスブルク家の双子の噂は、単なる貴族間のゴシップの域を超え、王城内部にまで浸透し始めていた。特に、**「炎のように速い体術を使う、赤い金髪の令嬢」と「氷のように冷静で知的な、銀髪の令嬢」**という異質な特徴は、王家の関心を引くのに十分だった。
アースガルド王国の第一王子、エドワード・アースガルドもその噂を聞きつけた一人だ。彼は次期国王として教育を受け、優秀ではあるが、生まれ持った地位から少々傲慢なところがあった。
「ほう、『ヴァイスブルクの双子』か。私の知る限り、ヴァイスブルク子爵家は地方の小貴族。そこから、王都の貴族の子弟を凌駕する規格外の子供が出た、とな?」
エドワード王子は、報告書を片手に鼻で笑った。
「王都には才能ある者が集まるが、所詮は貴族の血筋。突然現れた地方の小娘が、どれほどのものか。もし本当に規格外だというのなら、私のコレクションに加える価値はあるかもしれぬな」
彼は、双子の才能を自分の所有物として捉える、傲慢な視線を向けていた。双子の存在は、静かに王都の権力の中枢に波紋を広げ始めていた。
その頃、ヴァイスブルク家の屋敷には、双子の教養担当として、一人の老婦人が派遣されてきた。
彼女の名は、ローザ・ハーディネス。かつては王族の教育係も務めた、貴族社会で最も恐れられる厳格な教育者だった。
「ごきげんよう、リーゼロッテ様、アウローラ様。今日から、私があなた方の教師を務めます。王立魔法学園に入る前に、貴族の『器』というものが、いかに重要なものか、しっかりと教えて差し上げましょう」
ローザの冷たい視線と、背筋の伸びた姿勢は、双子に凄まじい威圧感を与えた。
「うわぁ……なんか、お父様より怖い」リーゼロッテは思わず、アウローラの背中に隠れる。
アウローラは、冷静に老婦人を観察した。彼女の魔力は高くはないが、その知性と洞察力は、一流の魔術師を凌駕していると直感した。
「ご指導、よろしくお願いいたします、ローザ先生」アウローラは優雅に礼をした。
ローザは双子の噂を聞いており、その規格外の能力を危険視していた。彼女の目的は、双子に貴族の常識と謙虚さを教え込むこと、そして、その力をコントロールできるかどうかを試すことだった。
「では、早速ですが、試練を始めましょう。これは、貴族の知識、歴史、そして知恵を試すものです」
ローザが出した最初の試練は、極めて難解な古代アースガルドの歴史に関する謎解きだった。
「リーゼロッテ様、アウローラ様。この古文書の記述を解読しなさい。ここに記されている『天を穿つ双星の剣と盾』とは、何を意味するか。そして、それを現代の技術で再現する方法を述べなさい」
それは、学園の最高学年でも解読が困難とされる、歴史学の難問だった。ローザは、この難題によって、双子の知識レベルを測り、もし解けなければ、**「単なる野蛮な力を持つ子供」**として、徹底的に教え込むつもりでいた。
リーゼロッテは、頭を抱えた。
「うー、漢字ばっかりでわかんないよ! 『剣と盾』? 私とアウローラのことかなぁ?」
彼女の直感は正しかったが、知識が追いつかない。
しかし、アウローラは違った。彼女は、古代語の記述を読み進めながら、前世で培った頭脳明晰さと、転生後に図書館で貪欲に学んだ歴史の知識をフル活用した。
「……古代語の解読は可能です。そして、『天を穿つ双星の剣と盾』。これは、古代の文献で、対をなす強大な魔力を持つ二人の英雄を指す比喩です」
ローザは、その即座の答えに、わずかに目を見開いた。
「では、現代の技術で再現する方法は?」
アウローラは、ここで、チート能力と知識を融合させることを決意した。
「古文書には、**『剣は極度の冷気を、盾は不屈の剛性を纏う』**とあります。現代の魔法技術では、これらを一人で実現するのは不可能です」
アウローラは、リーゼロッテの顔を見た。リーゼロッテは、アウローラの意図を察し、ニヤリと笑った。
「ですが、二人で連携すれば可能です」
アウローラは続けた。
「姉のリーゼロッテは、**風の魔法(超速の体術)で剣のような『速度』と『貫通力』**を。そして私は、**氷の魔法(絶対零度の剣)で、触れるものを凍らせる『冷気』を付与する。これが、『双星の剣』**の再現です」
「そして、『双星の盾』。私が土の魔法(鉄壁の防御)で物理的な鉄壁を作り、姉が炎の魔法(灼熱の拳)で、その防御壁を過熱し、接触した敵の魔法や物体を蒸発させる。これが、現代における、最も強靭な複合防壁です」
アウローラの説明は、完璧だった。古代の難解な記述を解読しただけでなく、双子が持つ規格外のチート能力を、合理的な戦術として落とし込み、理論的に再現する方法を導き出したのだ。
ローザは、長年培ってきた教育者のプライドを打ち砕かれたような衝撃を受け、しばし言葉を失った。
「……見事です、アウローラ様。あなたの知識と洞察力は、既に、学園の教師陣をも凌駕しているかもしれない」
ローザは、双子の力を単なる『野蛮』だと決めつけていたことを後悔した。双子が持つ力は、制御不能な暴走ではなく、知性と戦略によって支配されている、真の規格外の才能だったのだ。
「ふふん、やったねアウローラ! 私の拳の炎も役に立ったでしょ!」リーゼロッテは、褒められて得意げだ。
ローザは厳しい顔を崩さないが、その心の中では、双子の才能を潰すのではなく、正しく伸ばすことが、自らの使命だと認識を改めていた。
この試練を皮切りに、ローザの教育方針は大きく転換する。彼女は、貴族の常識だけでなく、双子のチート能力を社会で有効活用する方法を教え込む、独自のスパルタ教育を開始したのだった。
次回予告
第9話:貴族礼儀と体術のギャップ
ローザ先生による、王都貴族の常識とチート能力を両立させるための特訓が始まる。特に、リーゼロッテの考えるより体が動く性格と、貴族の優雅な礼儀のギャップが、様々な騒動を引き起こす。ローザは、リーゼロッテの動きを完璧に制御するため、風の魔法『超速の体術』を**「舞踏」**に応用させることを思いつく。一方、アウローラは、完璧な礼儀作法をすぐに習得し、王都の貴族社会でさらに評価を高めていく。
次回、リーゼロッテ、舞踏会で体術を披露!?




