第18話 知識と力の取引
あらすじ
アウローラは、エドワード王子との危険な取引に乗ることを決意する。彼女は、王子の誘いを受ける交換条件として、双子への不当な干渉の禁止と、兄アルフレッドの**『鉄血の騎士団』への公式推薦を要求。王子は渋々これを受け入れ、アウローラはついに王宮禁書庫へのアクセス権を手に入れる。禁書庫で、アウローラは古代の魔法理論を貪欲に吸収し、自らの『絶対零度の剣』**の能力を飛躍的に発展させる。一方、リーゼロッテは剣術科のルークと非公式な組み手を行い、その規格外の体術で、学園の剣術界に小さな波紋を起こす。
本編
エドワード王子からの「共同研究」の誘いを受けたアウローラは、数日間の熟慮の末、その誘いを受けることを決意した。王宮禁書庫の知識は、彼女の魔法理論と、この世界に対する理解を深める上で、かけがえのないものだった。
アウローラは再び王子と対面し、静かに取引の条件を提示した。
「殿下。共同研究に応じます。しかし、二つの条件がございます」
王子は、アウローラが応じたことに満足げだった。
「言ってみろ。君の知性に免じて、可能な限り受け入れよう」
「第一に、私たちヴァイスブルクの双子に対し、殿下、および殿下の側近からの、いかなる不当な命令、干渉、そして嫌がらせも一切禁止していただきます」
アウローラは、王子の支配欲とゼノンの陰湿な敵意から、双子の自由を守るための安全保障を求めた。
「ふむ……ゼノンに命じるのは不本意だが、仕方ない。受け入れよう」王子は渋々頷いた。
「そして第二に。私の兄、アルフレッド・ヴァイスブルクを、北方の**『鉄血の騎士団』の長期修行生として、殿下の名で正式に推薦**していただきたい」
王子の目が見開かれた。アルフレッドは既に、個人的にその修行を目指していたが、王子の公式推薦があれば、その道は確実なものとなる。
「鉄血の騎士団だと? 過酷な訓練で知られる異端の騎士団ではないか。なぜ、そんな無駄な真似を?」
「兄は、真の騎士を目指し、努力で道を切り開いています。彼の努力と決意を、殿下の権威で保証していただきたいのです。これは、研究の対価の一部です」
アウローラは、兄の夢を叶えるために、王子の力を利用することをためらわなかった。
エドワード王子は、この要求が双子の家族愛に基づくものであることを理解し、その純粋さと強かさに感心した。
「よかろう。君たちの研究の対価として、君の兄を推薦しよう。ただし、その代わり、君は私に、最高の研究成果を提供しなければならない」
こうして、双子は、王子の権威を逆手に取り、知識と安全、そして兄の未来を勝ち取ったのだった。
取引が成立した数日後、アウローラは、ついに王宮禁書庫へと足を踏み入れた。
薄暗く、厳重に管理された禁書庫には、学園の図書館にはない、膨大な量の古文書や魔法陣の資料が並んでいた。
「……すごい。これこそ、私が求めていた知識よ」
アウローラは、研究者としての情熱を爆発させ、古代の魔法理論を貪るように読み始めた。特に、古代の魔術師が、微細な水の粒子の運動を停止させることで、絶対零度に近い冷気を生み出していたという記述に、彼女は強い衝撃を受けた。
(私の『絶対零度の剣』は、水の魔力を凝縮するだけだった。だが、この理論を応用すれば……魔力の精密な制御で、熱量そのものを消滅させることができる!)
アウローラは、禁書庫の知識と、自身の氷/水の魔力の特性を融合させ、**『絶対零度の剣』**のさらなる進化への道を見出した。彼女の知性は、王子の提供した『餌』を、王国の未来をも変える可能性のある力へと変えつつあった。
一方、その頃、リーゼロッテは学園の剣術訓練場で、ルーク・ブレイバーンとの非公式な組み手を行っていた。
「さあ、ヴァイスブルク令嬢! 君のその『超速の体術』を、私に見せてみろ!」ルークは、竹刀を構え、興奮した様子でリーゼロッテに挑んだ。
「行くよ、ルーク先輩! 型:風ノ流・三ノ太刀!」
リーゼロッテは、風の魔力を体に纏い、瞬時にルークの懐へと飛び込んだ。その速度は、竹刀の風切り音すら残さないほどだ。
ルークは、その神速の体術に対し、驚くべき反応速度で対応した。彼は、剣術科で培った天性の剣筋で、リーゼロッテの動きを予測し、完璧な防御の構えをとった。
キン!
リーゼロッテが繰り出した空手の裏拳打ちは、ルークの竹刀と激しく衝突した。
リーゼロッテは、武術の力だけでルークを圧倒し、その衝撃でルークの竹刀を吹き飛ばした。
「ま、負けた……!」
ルークは、一歩も動かずに敗北を喫したが、その顔には悔しさよりも、興奮が浮かんでいた。
「すごい……! 君の動きは、もはや剣術ではない。純粋な**『速度の芸術』**だ。ヴァイスブルク! 君は、この学園で剣術を学ぶ必要はない。君は、武術の王だ!」
リーゼロッテの規格外の体術は、学園の剣術科のエースを打ち破り、剣術科の生徒たちの間に**「剣と武術の境界」**という新たな議論を巻き起こした。
この組み手の後、ルークはリーゼロッテの武術に魅了され、彼女を**「武術の師」**と呼び、その動きを学ぶため、剣術科から魔法科のリーゼロッテに頻繁に会いに来るようになった。
こうして、双子の学園生活は、王子の権威、古代の知識、そして武術的な挑戦という、三つの大きな要素が複雑に絡み合いながら、激動の展開を迎えることになった。
アルフレッドの『鉄血の騎士団』への推薦も決定し、ヴァイスブルク家の三兄妹は、それぞれが異なる道で、それぞれの才能と努力を爆発させ始めていた。
次回予告
第19話:兄の旅立ちと双子の進化
兄アルフレッドが、王子の推薦を得て、過酷な修行で知られる『鉄血の騎士団』の修行へと旅立つ。双子は、兄の決意を見届け、互いの成長を誓い合う。アウローラは、禁書庫の知識を応用し、**『絶対零度の結界』を完成させる。一方、リーゼロッテは、ルークとの組み手を通じて、自身の『灼熱の型』に、「相手の動きを封じる技」**を組み込むことを模索し始める。王子の支配欲は静かに進行し、学園は、双子の規格外の力にますます熱狂していく。
次回、兄の旅立ちと、さらなる能力の進化!




