第16話 学園の注目と兄の苦悩
あらすじ
公爵令息ゼノンとの決闘で完勝した双子は、その規格外の力と知恵で、学園全体に衝撃を与え、一躍、畏敬の的となる。双子は、ゼノンという障害を排除したことで、学園生活をスムーズに進めることができるようになる。一方、兄アルフレッド・ヴァイスブルクは、妹たちの規格外の勝利を目の当たりにし、自身と妹たちの力の差に、改めて深い苦悩を抱く。彼は、このままでは妹たちの盾になれないと危機感を抱き、さらに過酷な剣の修行に身を投じることを決意する。
本編
ゼノン・ハイゼンベルクとの非公式な決闘の結末は、瞬く間に王立魔法学園の全生徒に広まった。入学したばかりの10歳の双子が、公爵家の嫡男であり、闇魔法の使い手であるゼノンを、無傷で、しかも戦略的に完敗させたという事実は、学園の常識を覆すものだった。
ゼノンは、翌日から数日間、恥ずかしさから学園を欠席した。双子に対して敵意を持つ者もいたが、その規格外の力と、エドワード王子への拒絶という強い意志を見た生徒たちは、もはや双子に軽率に手出しできる者はいなくなった。
「リーゼロッテ様、アウローラ様、ごきげんよう!」
「あの、先日は、見事な勝利でした! 闇魔法を炎と土で打ち消すなんて、素晴らしい戦略です!」
教室でも廊下でも、双子に対する生徒たちの態度は、敬意と畏怖に満ちていた。特にアウローラは、その知性と美貌で、学園の**『氷の才女』**として、多くの生徒から尊敬を集める存在となった。
「ふふん! ゼノンなんかに負けるわけないだろ! ざまぁみろだ!」リーゼロッテは、注目を浴びることに慣れないながらも、勝利の爽快感に浸っていた。
「油断はしないで、リーゼ。彼は権力にしがみつくタイプ。いつか、さらに陰湿な方法で仕返しをしてくるわ」
アウローラは、ゼノンという存在を、単なる敵ではなく、**「貴族社会における障害」**として分析し続けていた。
一方、剣術科の寮に戻った兄アルフレッドは、妹たちの勝利の報告を聞き、胸を締め付けられるような苦悩を感じていた。
「完勝、か……ゼノンの闇魔法は、上級生でも対処に困るほどの威力を持っているはずなのに」
アルフレッドは、自分の部屋で、剣を磨きながら、深くため息をついた。
彼は、学園の剣術科でトップクラスの評価を得ていた。それは、彼が妹たちに追いつくため、誰よりも努力し、才能の差を埋めようとしてきた証だ。
だが、妹たちが繰り広げた戦いは、彼の知る世界とはあまりにもかけ離れていた。
(僕の剣は、彼らの戦いの場に、ついていくことができるのだろうか?)
もし、妹たちがゼノンのような強大な敵に襲われた時、自分の剣が、彼女たちの盾になれるのか。その答えは、非情なまでに**「否」**だった。
アルフレッドは、机の上にあった、妹たちが王都に来る前に一緒に撮った家族写真を見た。幼いリーゼロッテとアウローラの笑顔が、彼に力を与えていた。
「僕は、天才ではない。妹たちのような、特別な力も持っていない」
彼は剣を握りしめ、自問自答した。
「だが、だからこそ、僕は努力を武器にする。このままでは、彼女たちを守れない。僕は、もっと強くなる必要がある」
アルフレッドの心に、燃えるような決意が湧き上がった。彼は、これまでの努力を否定することなく、さらにその上を目指すことを誓った。
その夜、アルフレッドは、父オスカーに手紙を書いた。
「父上。私は、王立魔法学園の正規の訓練だけでは、真の騎士になれないと悟りました。私の剣には、限界を打ち破るための、さらなる試練が必要です。私は、学園の長期休暇を利用し、北方の*『鉄血の騎士団』*の修行に参加したいと考えています。そこで、己の命の限界まで剣を磨き、妹たちに恥じない、真の騎士となるつもりです」
『鉄血の騎士団』。それは、過酷な訓練で知られ、魔力に頼らない純粋な剣術と肉体を極めることを目的とした、王国でも異端視される騎士団だった。その修行は、常に死と隣り合わせだと言われている。
翌日、アルフレッドは学園の許可を得て、朝早くから、一人、学園の裏山にある人知れぬ滝へと向かった。
滝のほとりには、誰にも見つからない、彼だけの修行場があった。彼は制服を脱ぎ、滝の水しぶきを浴びながら、ひたすらに素振りを続けた。
ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ!
滝の轟音にかき消されながらも、アルフレッドの剣は、凄まじい集中力で振られ続けた。
(リーゼ、アウローラ。君たちが規格外の道を突き進むなら、僕は、凡人の限界を、努力で突破する。必ず、君たちの揺るぎない盾になる!)
妹たちが学園の注目を浴びる中、アルフレッドは、人知れず、孤独で過酷な修行の道を歩み始めたのだった。彼の努力こそが、彼が妹たちと並び立つ唯一の武器だった。
次回予告
第17話:王子の接近と研究の誘い
双子への注目は、さらに強まる。エドワード王子は、双子の力を屈服させるのではなく、懐柔する戦略へと転換する。王子は、双子、特にアウローラに対し、王族しか利用できない禁書庫へのアクセス権と、共同研究という甘い誘いを持ちかける。研究者としての知的好奇心を刺激されたアウローラは、王子の誘いに警戒しつつも、魅力を感じ始める。一方、リーゼロッテは、学園の剣術科で、兄のライバル的存在と出会う。
次回、知的好奇心と危険な取引!




