第13話 最終試練~ローザ先生の真意~
あらすじ
公爵家の嫡男ゼノン・ハイゼンベルクという新たな敵意を認識した双子。学園入学を目前に控え、ローザ先生は双子に最後の教養の試練を与える。それは、王都の貴族が通う、高難度の迷宮模擬試験場での、実戦的な知識と機知を問う試練だった。ローザ先生の真の目的は、双子がゼノンのような陰湿な敵意に対し、力を暴走させずに、貴族の知恵で対応できるかを見極めることだった。双子は、迷宮という未知の空間で、知識と能力の全てを駆使し、試練に挑む。
本編
ゼノン・ハイゼンベルクとの衝突から数日後。リーゼロッテとアウローラは、ローザ先生に連れられ、王都郊外にある**「古城模擬迷宮」**に立っていた。ここは、王立魔法学園の生徒たちが、実戦的な知識と魔法の応用を学ぶために使用する、高難易度の施設だ。
古城の周囲には、結界が張られ、内部は魔法によって複雑な構造を持つ迷路と、様々な擬似的な試練が仕掛けられていた。
「ローザ先生、なぜ私たちがここに? ここは学園の生徒が使う、実戦訓練の場ではないのですか?」アウローラは尋ねた。
ローザ先生は、いつも以上に厳格な表情で答えた。
「これは、あなたたちへの最終試練です。王立魔法学園は、単に魔法の力や学問の知識を競う場所ではありません。貴族としての知恵、機知、そして忍耐力が試される場所です」
彼女は、双子を迷宮の入り口へと促した。
「試練は三つ。第一に、古城の歴史に関する難問を解き、隠された鍵を見つけること。第二に、魔物が出現しないよう細工された魔法陣を特定し、無効化すること。そして第三に、あなたたちが力を暴走させずに、試練を乗り越えることです」
ローザ先生は、特に第三の試練を強調した。
「あなたたちの力は規格外です。しかし、その力を理性で制御できなければ、貴族社会では排除される。特に、最近ハイゼンベルク様との間で問題が起きたことを、私は知っています。理不尽な敵意に対し、あなたたちが拳を握るのではなく、貴族の知恵でどう対応するか。それこそが、私が試したい真の課題です」
リーゼロッテは、ゼノンの顔を思い浮かべ、グッと拳を握りしめたが、アウローラは静かに頷いた。
「承知いたしました。お母様とローザ先生から教わった、知識と知恵をもって、この試練に挑みます」
双子は、古城模擬迷宮の石造りの通路へと足を踏み入れた。内部は、照明魔法で薄暗く照らされており、湿った空気が漂っていた。
「よーし! まずは最速でゴールを探すぞ!」リーゼロッテは、風の魔力を脚に集中させ、走り出そうとした。
「待って、リーゼ」アウローラが呼び止める。
「この迷宮は、私たちに知識と知恵を試している。あなたの『超速の体術』で無理に進めば、必ず知識系の罠に引っかかるわ」
アウローラは、懐から取り出した古城の地図の写しと、古城の歴史に関する文献の概要を照らし合わせ始めた。これは、ローザ先生の授業で配布された資料だ。
「第一の試練、古城の歴史に関する難問を解き、鍵を見つける。この迷宮は、知識によって最短経路が開かれるように設計されているはずよ」
アウローラは、壁に刻まれた古代語の碑文を見つけ、それを解読した。
「『かつて、この地の領主は、東の空を赤く染める炎の神の恵みと、西の海を青く染める氷の巫女の加護を頼りに、城を築いた』。……炎の神はリーゼ、氷の巫女は私、ね」
リーゼロッテは目を輝かせた。
「じゃあ、この先に進むには、炎と氷の魔法が必要ってこと?」
「そう単純ではないわ。この迷宮は、魔力暴走を誘発する魔力が練り込まれている。下手に炎や氷の魔法を使えば、制御を失い、崩壊させてしまう」
アウローラは、冷静に周囲の魔力濃度を分析し、土の魔法を発動させた。
ガガッ……
アウローラが、東の壁と西の壁にそれぞれ土の魔力を集中させ、壁の石材の組成を、わずかに変化させた。東の壁は熱を吸収しやすい素材に、西の壁は冷気を保持しやすい素材に、それぞれ変質させる。
「リーゼ。この壁に、最小限の炎の魔力を流し込んで。私も西の壁に最小限の氷の魔力を流すわ。壁の組成を操作することで、魔力を外部に漏らさずに、魔力の性質だけを壁に吸わせるのよ」
双子は、極限まで魔力を抑え込みながら、アウローラの指示通りに魔力を壁に流した。
カチリ。
すると、壁の一部が音を立てて開き、奥から銀色の鍵が姿を現した。知識と能力の精密な制御による、見事な突破だった。
第二の試練は、より困難だった。迷宮の広間に足を踏み入れると、突然、魔力暴走の警報音が鳴り響いた。
「警報! どういうこと!?」リーゼロッテが戸惑う。
アウローラは、素早く周囲を見渡した。広間の天井には、複雑に組み合わされた魔法陣が刻まれている。
「第二の試練、魔物が出現しないよう細工された魔法陣を特定し、無効化すること、ね。この魔法陣は、特定の条件下で魔物を呼び出す罠よ。そしてその条件は、『理性を失った魔力の暴走』!」
アウローラは、ゼノンとの衝突で、リーゼロッテが瞬時に魔力を暴走させかけたことを思い出した。ローザ先生は、双子の感情的な弱点を突く罠を仕掛けてきたのだ。
「リーゼ! 怒らないで! 焦らないで! 魔物を呼び出させたら、私たちの負けよ!」
アウローラは、冷静に魔法陣を解析する。しかし、魔法陣は複雑で、一つ一つ解析していては時間が足りない。魔力暴走の警報音は、双子の精神を苛んでいた。
その時、リーゼロッテの**『武の直感』**が働いた。
「アウローラ! あの魔法陣、円の中心が少し歪んでる! 確か、ローザ先生の授業で習った、**古代の『虚偽の円陣』**だ! 意図的に歪ませることで、魔力の流れを乱すやつだ!」
リーゼロッテは、膨大な貴族の知識の中から、自分が無意識に覚えた知識を瞬時に引き出したのだ。
「なるほど! 虚偽の円陣!」
アウローラは、すぐにその魔法陣を特定した。そして、氷の魔力を、魔法陣の歪んだ部分一点に、極限の精密さで打ち込んだ。
キィン……パリン!
氷の魔力は、魔法陣の魔力回路を凍結させ、魔法陣を完全に停止させた。警報音は止まり、魔力暴走の危険は去った。
「またしても、知識と能力の融合よ!」リーゼロッテは喜んだ。
試練を乗り越え、双子は迷宮の出口に到着した。ローザ先生が、静かに二人を待っていた。
「……見事でした。あなたたちは、すべての試練を、貴族の知識と、冷静な知恵をもって乗り越えた」
ローザ先生は、双子を厳しい目で見つめた。
「あなたたちの力は、剣や魔法だけで解決できるものではありません。ハイゼンベルク様のような、権力や嫉妬という名の敵意は、これからもあなたたちの前に立ちはだかるでしょう」
「しかし、今日、あなたたちは証明した。力を理性で制御し、知恵で敵意を凌駕できることを」
ローザ先生は、厳しい表情を崩し、優しく微笑んだ。
「おめでとう、リーゼロッテ様、アウローラ様。これで、あなた方は、王立魔法学園に入学する**『貴族としての器』**を身につけました」
双子は、ローザ先生の言葉に、これまでの努力が報われたことを感じた。
「ありがとう、ローザ先生!」リーゼロッテは心から感謝した。
「私たちにとって、あなたの教えは、最強の武器になりました」アウローラは深々と礼をした。
こうして、双子は王立魔法学園入学に向けた最終準備を整え、王都の貴族社会という名の戦場に立つ、心構えを完了させたのだった。
次回予告
第14話:学園入学~三者三様の未来~
ついに、双子と兄アルフレッドは、王立魔法学園に入学する。双子は、規格外の能力と教養で、瞬く間に学園の注目を集める。特にアウローラは、その知性で上級生を圧倒し、リーゼロッテは、武術を応用した魔法で、周囲を驚愕させる。一方、努力で這い上がってきた兄アルフレッドは、妹たちとはクラスは離れるものの、剣術科で頭角を現し始める。そして、双子を待ち受けていたのは、公爵令息ゼノンと、彼に関心を寄せるエドワード王子だった。
次回、波乱の学園生活、開幕!




