第10話 クリスティンとの再会と最初の依頼
あらすじ
ローザ先生の特訓により、双子は貴族としての教養を深め、リーゼロッテは『神速の舞踏』という新たな特技を習得した。そんな中、双子は友人のクリスティン・ノイマンと再会する。クリスティンは、癒し手を目指す心優しい性格から、他の子爵令嬢からいじめを受けていることを双子に打ち明ける。友人の危機を知ったリーゼロッテとアウローラは、学園入学前の腕試しとして、貴族社会の裏側に介入することを決意。リーゼロッテの『神速の舞踏』とアウローラの『緻密な戦略』が、いじめを優雅に、かつ徹底的に解決する。
本編
ローザ先生による厳しい特訓を終え、リーゼロッテとアウローラは、貴族社会で通用する**「表の顔」と、秘密の訓練場で鍛えた「裏の力」**を高いレベルで両立させていた。
「ふう、ローザ先生の教養の授業は疲れるけど、あの『神速の舞踏』のおかげで、なんだか空手の型もさらにキレが増した気がするよ!」
リーゼロッテは、舞踏の訓練で使ったホールで、満足げに拳を握りしめた。
「あなたの場合、優雅な動作を意識することで、風の魔力の無駄な放出が減り、攻撃に回せる魔力が増えたのよ。これも、ローザ先生の知恵ね」
アウローラは冷静に分析した。
そんな双子は、ある日、王都の郊外にある静かな茶会で、初めての友人クリスティン・ノイマンと再会した。クリスティンは、治癒魔法を学ぶために、定期的に王都の集会に参加していたのだ。
再会を喜ぶ双子に対し、クリスティンの表情はどこか優れなかった。
「クリスティン、どうしたの? 顔色が優れないようだけど」リーゼロッテが心配そうに尋ねた。
クリスティンは俯きがちに、小さな声で話し始めた。
「実は……最近、少し、貴族の子たちから意地悪をされていて……。治癒師になりたい、なんて、地味で貴族らしくないって……」
クリスティンをいじめているのは、王都でも悪名高い子爵令嬢、セシリア・ブルックナーだった。セシリアは、魔力は凡庸だが、家柄を笠に着て、自分より格下と見なした貴族令嬢を徹底的に排除しようとする、陰湿な性格だった。
「セシリア様が、私の治癒魔法の練習の場にわざと汚物を投げ込んだり、私の母が平民出身だと言って、皆の前で罵倒したり……」
クリスティンは、涙をこらえながら、震える声で訴えた。
リーゼロッテの赤い瞳が、怒りに燃え上がった。前世で、いじめや理不尽を最も嫌っていた彼女の性格が爆発したのだ。
「なんだって!? そのセシリアって子、許せない! 今すぐ行って、灼熱の拳でこらしめてやる!」
リーゼロッテは立ち上がろうとしたが、アウローラが静かにその腕を掴んだ。
「待って、リーゼ。暴力はダメよ。私たちは今、貴族社会にいる。拳は、最後の手段にとっておくべきよ」
アウローラは、クリスティンの涙を優しく拭いながら、静かな闘志を燃やした。
「クリスティン。安心して。私たちの友人を侮辱することは、ヴァイスブルク家を侮辱することと同じよ。この問題、優雅に、そして完全に解決してあげる」
アウローラの頭脳は、即座に、セシリアに対する徹底的な戦略を練り始めた。
「リーゼ。暴力を使わず、セシリアに二度とクリスティンに手を出させないようにするには、彼女の地位とプライドを、公衆の面前で完全に打ち砕く必要があるわ。それも、**誰も文句を言えない『優雅な方法』**でね」
アウローラが考えたのは、数日後に開かれる、王都の若手貴族が集まる大規模な園遊会での、公開処刑だった。
園遊会当日。豪華な会場には、多くの貴族の子弟が集まっていた。セシリアは、クリスティンを遠巻きに嘲笑し、優越感に浸っている。
そこに、リーゼロッテとアウローラが現れた。二人はローザ先生に教わった通り、完璧な礼儀作法と優雅な装いで、たちまち会場の注目を集めた。
アウローラは、セシリアに気づかれないよう、会場の隅に設置されている大きな飾り石と、クリスティンが着席しているテーブルの足元の地面に、密かに土の魔力『地形操作』で細工を施した。
そして、アウローラはクリスティンの手を引き、セシリアの集団に近づいた。
「セシリア様。ごきげんよう。少しよろしいかしら」
アウローラは、優雅な微笑みで話しかけたが、その瞳は氷のように冷たかった。
セシリアは、噂の双子に話しかけられ、一瞬戸惑ったものの、すぐに傲慢な態度に戻った。
「ああ、ヴァイスブルク様方ね。地方から出てきた者が、しゃしゃり出てこないでいただきたいわ。特に、あの平民上がりの娘と親しくしているとは、ヴァイスブルク家の品位も知れたものね」
セシリアが侮蔑の言葉を吐いた瞬間、アウローラは作戦を開始した。
「品位、ですって? 貴女こそ、その口の悪さで、この園遊会の品位を下げているのではないかしら」
この挑発に、セシリアは激昂した。
「生意気な! 地方の田舎娘が、この私に説教する気!? 貴女たちのような粗野な者は、さっさとこの王都から消えなさい!」
セシリアが、テーブルに置いてあったクリスティンの紅茶のカップを、侮蔑を込めて床に叩きつけようとした、その時だった。
ゴトッ!
アウローラが、事前に細工していた飾り石に、極めて微細な土の魔力を流し、その重心をわずかに狂わせた。
飾り石は、バランスを失い、ゆっくりとセシリアの頭上へ倒れ始めた。
「きゃあ!」
会場に悲鳴が響き渡る。
セシリアはパニックになり、逃げようとしたが、アウローラが次に細工していた足元の地面が、土の魔力でわずかに隆起していたため、バランスを崩して転倒した。
その瞬間、リーゼロッテの体が動いた。
「神速の舞踏!」
リーゼロッテは、風の魔力を脚部に集中させながら、ローザ先生に教わった優雅なワルツのステップで、会場を横切った。その速度は、誰もがその動きを認識できないほどの残像しか残さなかった。
リーゼロッテは、倒れかかってきた重い飾り石を、誰にも見えない超速の動きで、手のひらの体術を使って、元の位置に押し戻した。
ガタン……
飾り石は、まるで最初から倒れていなかったかのように、静かに元の場所に戻った。
会場の誰もが、飾り石が倒れかけた錯覚を見たと思った。
しかし、リーゼロッテの動きの余波で、転倒していたセシリアの豪華なドレスの裾だけが、リーゼロッテの風の魔力と接触したことにより、一瞬で凍りつき、床に張り付いた。
パリッ!
セシリアは、優雅に立ち上がろうとしたが、ドレスが床に凍りついて動かない。無理やり立ち上がろうとしたため、ドレスの裾が破れてしまい、彼女の下品な下着が露わになってしまった。
セシリアは、大勢の貴族の前で、ドレスを破いた醜態を晒すことになった。
「ひ、ひどい……!」
リーゼロッテは、何事もなかったかのようにセシリアの前に優雅に立ち、微笑んだ。
「あら、セシリア様。お怪我はありませんか? 慌てて転倒なさったようですけど、ドレスを破いてしまうなんて……品位が疑われますわ」
アウローラは、トドメとばかりに、周囲に聞こえる声で静かに言った。
「それに、いくら慌てたとはいえ、友人の紅茶を叩きつけようとするのは、貴族としての礼儀に反しますわね。次からは、お気をつけ遊ばせ」
セシリアは、恥ずかしさと屈辱で顔を真っ赤にし、一言も反論できずに、その場を去るしかなかった。
クリスティンは、双子の優雅で、そして完璧な報復劇に、感極まって涙を流した。
「リーゼロッテ様……アウローラ様……ありがとう……」
「いいのよ、クリスティン。私たちは、卑劣な暴力は嫌いなの。だから、知恵と力を使って、正しく解決しただけよ」リーゼロッテは得意げに笑った。
こうして、双子のチート令嬢は、王都の貴族社会における最初の**「依頼」**を、見事な連携と戦略で解決したのだった。
次回予告
第11話:兄の旅立ちと王子の接近
双子の噂は、クリスティンの一件で、「優雅だが恐ろしいヴァイスブルクの双子」として王都に定着する。そんな中、兄アルフレッドが王立魔法学園の予備試験に合格し、寮生活に入るため、一足早く王都の屋敷を旅立つ。双子も、いよいよ学園入学への最終準備に入る。そして、噂を聞きつけたエドワード王子が、双子に初めて接触を図る。王子は、その傲慢さから、双子の能力を試すような行動に出る。
次回、エドワード王子、登場!




