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day5.三日月

高校三年生の秋の藤乃と瑞希。


 大学受験の前日、最後の面接練習を終えて進路指導室を出ると、瑞希が待っていた。


「なあ藤乃、春休みに免許取りに行こうぜ」

「……俺、明日面接なんだけど」

「知ってる。だから春休み。あ、冬休みでもいいか」

「まあ、いいけど」


 どっちにしろ、仕事をするのに必要になる。

 並んで歩いていると、瑞希がパンフレットを広げた。


「これ、合宿行こうぜ。卒業旅行代わりにさ。温泉入り放題だって」

「……男二人で? 女の子たちと行かなくていいのか?」


 そう聞くと、なぜか瑞希はやたらと楽しそうに笑った。


「いいんだよ、あれは高校までって決めてる。全員にそう言って、納得してもらってる。卒業式が終わったら解散。でも、お前は別」

「まあ、そうだけど」


 うちと瑞希の家は仕事でもつながりがあって、親同士も仲がいい。親父同士は月に一回は必ず飲んでる。


「それにさ」


 瑞希が少しむくれた顔で、窓の外に目を向けた。

 西日に照らされた校庭では、野球部とサッカー部が一緒にランニングしていた。遠くからは、テニスボールの跳ねる音が聞こえてくる。

 東の空には、細い三日月が白く浮かんでいた。


「……藤乃は大学行くし、俺は実家だし。別にいいけどさ。自分で決めたことだし」


 瑞希がぽつりと呟く。

 俺は返事をせず、三日月を見上げた。頼りなく、ひとりで浮かんでいる。


「瑞希、パンフ見せて」

「ん、おお」


 受け取った免許合宿のパンフレットが、やけにキラキラして見えた。一人なら絶対に行きたくない。でも、瑞希がいるなら行ってもいい。


「朝晩バイキング付きだってさ。せっかくだし、春休み全部使って行こう」

「どんだけだよ。さっさと終わらせてさ、海沿いドライブしようぜ」

「俺と瑞希の二人で?」

「藤乃と俺の二人で」

「瑞希、俺のこと大好きだろ」

「全然」


 校舎を出て並んで歩く。さっきより、三日月が少しだけ明るくなった気がした。

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