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day30.花束

葵が高校を卒業した日の話。

 卒業式が終わって、教室を出た。

 小走りで廊下を抜けて靴を履き替えたら、そのまま全力で走った。

 校門の横に立ってたその人が、私に気づいてブーケを抱え直した。


「朝海くん! お待たせ!」

「卒業、おめでとう葵」


 差し出されたのは、大きくてピンクメインの可愛いブーケ。絶対、師匠の作品だ。


「ありがとう、朝海くん。……これ、作りにいってくれたの?」

「わかるのか」

「わかるよ。ありがとう。嬉しいな」

「……私ではなく、」

「朝海くんが、これを持ってきてくれたことが嬉しいの。もしかして、花も朝海くんが選んでくれた?」

「ああ。……葵」


 真剣な声に、私もちゃんと顔を上げて、まっすぐ朝海くんを見た。


「はい」

「お前が、もし、まだ私を待っていてくれたなら、私と付き合ってほしい」

「……はい、喜んで」


 朝海くんの顔が、ホッとしたようにゆるんだ。いつもキリッとしている人だけど、こういうときに緊張してくれたのが嬉しい……って言ったら変かな。


「行こう、朝海くん」

「ああ……」


 ブーケを抱えて歩き出すと、朝海くんの手が差し出された。


「持つ」

「でも……」

「空いた手を、つないでくれ」

「ふふ、わかった」


 朝海くんは片手でブーケを持って、もう片方の手で私の手を握ってくれた。大きくて、あったかくて、ちょっとゴツゴツしてる。働いてる男の人の手だ。


「うふふ、嬉しい」

「……そうか」

「うん。三年間片思いしてたから」


 つないだ手が、ぎゅっと握り返された。見上げたら、ちょっとぎこちない顔の朝海くんが私を見てた。


「春休み中、二、三回は会えると思う」

「うん、楽しみにしてる」

「あとで連絡する」

「わかった、待ってるね」

「……葵」

「うん?」


 学校から駅に向かう道。今日で最後の桜並木。三月半ばでまだ全然咲いてなくて寒いけど、木の隙間から見える空は、ちょっと濃いめの青だった。


「春休み、どこか行きたいとこあるか?……春休みじゃなくても、いつか行こう」

「そうだなあ」


 朝海くんの手を握って考える。

 普通の、大学生くらいのカップルってどこに遊びに行くんだろう。


「お花見行きたいな」

「……わかった」

「あとねえ、水族館」

「行こう」


 朝海くんが気を遣ってくれてるの、なんとなくわかるから、私はあえておねだりした。

 ……誰かと比べなくたって、私は朝海くんだけが好きなんだけどね。

 家の最寄り駅でお昼を食べて、ゆっくり歩いて帰る。

 家の前で、もう一度花束を受け取った。


「ありがとう、朝海くん。大事にするね」

「……ああ。卒業、おめでとう」

「ありがとう。……待っててくれて」

「待つさ。いくらでも」


 肩に手がそっと乗って、一瞬だけ唇が触れた。二人の間の花束が、ふわっと香った。


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