day3.鏡
花音と藤乃の母の話。
この二人の似ているところは、いつまで経っても甘やかされ慣れないところです。
須藤造園に着いた私は、車を降りる前にルームミラーで前髪を整えた。……藤乃さんはどんな髪型でも「かわいい」って言ってくれるけど、それはそれとして、自分で納得のいく顔で会いたい。
というか、藤乃さんはとことん甘やかしてくるから、気を緩めたら最後な気がする。
「……よし、まあ、いいかな」
鏡の中の顔に納得して、車を降りると……須藤さんの奥さんがいた。
「ひゃっ!?……あ、す、すみません」
「ふふ、気にしないで。わかるわよ」
「はい……?」
小柄な奥さんは、藤乃さんそっくりな切れ長の瞳を細めた。
「須藤の男の人たちって、果てしなく褒めてくるから、ちゃんと自分を律してないと、だらけちゃいそうなのよね。」
「奥さんでもそう思うんですか?その、すごくおきれいですし……。あれ、あの、もしかして今でも……?」
奥さんはスッと斜め下の方に視線を向けた。
「ええ。須藤くんに会ったのは高校三年のときで……二年あいて、それから三十年以上、毎日言われてるわ。少なくとも朝と晩に」
「そ、そんなに……あの、喧嘩しててもってことですか?」
うちの両親は喧嘩すると三日くらい口をきかなくなる。それから徐々に軟化していって気がつくと普段通りに戻っている。
「ええ。そもそもあまり喧嘩しないし、いつも向こうが泣いて謝ってくるのよ」
「あー……」
すごい納得してしまった。
そうか、藤乃さんの泣き虫はお父さん譲りなんだ。
「呼び止めてしまってごめんなさいね。一緒に運ぶわ」
「あ、ありがとうございます!」
奥さんと一緒に、台車に花を載せた。
藤乃さんはどんな顔で出迎えてくれるだろうか。いつもの甘い顔だと嬉しい。
最後にもう一度、サイドミラーで顔を確かめた。