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day24.爪先

藤乃の元に初めて朝海が訪れたときの話。

 二月の半ば、花屋はとにかく忙しい。バレンタインや卒業式に向けた予約が多く、ミニブーケやバラも出すそばから売れていく、そんな時期だ。

 この忙しさは、五月半ばの母の日まで続く。

 そんな夕方、目つきが鋭くて姿勢のいい青年が店にやってきた。


「ここが、葵が言っていた花屋か」

「……失礼ですが、どちら様でしょうか?」


 返ってきた答えは予想外だったが、どこか腑に落ちるものもあった。


「話はわかりました……が、今、ものすごーく忙しいんです」

「……そうか」

「でも、葵の卒業式に花を贈りたいなら、俺も無下にはできません。繁忙期の割増し料金になりますが、この価格でいかがでしょう」


 カウンターにあった電卓を叩いて、青年……網江朝海に差し出す。


「この値段で、どのくらいのサイズのものができるんだ?」

「使う花にもよりますが、これくらいのサイズですね」


 予約のブーケのうちの一つを指さす。

 朝海は少し首をかしげてから、うなずいた。


「わかった。それなら頼む」

「では、こちらの予約票にご記入ください。使いたい花や色の希望があれば、備考欄にご記入を」


 まっすぐで少し尖った字で、朝海はさらさらと予約票を埋めていく。ボールペンを持つ指先の爪は、驚くほど短かった。警察官って言ってたからかな。それとも、本人の癖だろうか。


「……こういうときに入れる花のお勧めはあるか?」

「そうだね、卒業式ならスイートピーかな。色も綺麗だし、花言葉が“門出”だから定番なんだ。アルストロメリアやラナンキュラスもいいし……好きな子や彼女に贈るなら、ピンクのチューリップかな。“誠実な愛”っていう花言葉が人気だ」


 無表情のまま聞いていた朝海が頷いた。


「では、ピンクのチューリップがメインで。あとは任せる」

「承知しました」


 備考欄に書き込んでおく。

 日付や時間をもう一度確認して、店の外まで朝海を見送った。


「……葵が、お前とこの店を好む理由が分かった気がする」

「ふうん。奇遇だね。俺も、どうして葵がお前を好きなのか、なんとなくわかるよ」


 朝海は肩をすくめて去って行った。最後まで、背筋はまっすぐで、爪の先まで隙のない男だった。

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