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完結『元エリート刑務官、転移先は異世界のブラック監獄!? 下っ端スタートから囚人たちと更生改革します!』  作者: カトラス


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第45話『聖女の祈り、癒しの光』

 玉座の間にある地下施設の入口に立つまで、俺達はキマイラ戦以降、敵との遭遇で連戦を強いられた。

「玉座の間の下に……本当にあるんだな、地下の施設が」

 ヴェル・カーティスが呟くように言う。彼の目は真剣そのもので、額には冷や汗が滲んでいた。


 「……感じる。下から、どす黒い魔素が湧いてる。ここが奴らの“巣”だ」

 レオンの声にはいつになく緊張があった。


 王宮の門を開けた瞬間以降は、異様な圧が押し寄せてくる。


 「来るぞ──!」

 最初に現れたのは、腐敗した獣のような姿をした魔物。かつての宮廷獣が変異したのか、牙と鱗が異常なまでに発達している。


 俺たちはすぐに陣形を取り、迎撃に移った。

 ベルンが前衛を務め、レオンが横から斬り込む。ヴェルは魔法で支援し、美優は後方で回復の準備を整える。


 「一体ずつなら問題ない……けど、数が多いな!」

 俺が叫んだその時、第二波が押し寄せた。

 

 人型の魔物──かつて王国の兵だった者たちの成れの果てか。鎧を着たまま黒く染まったその姿は、理性を持たない殺戮人形のようだった。


 「殺意だけが残ってる……悲しいな」

 美優が祈るように呟き、光を放って仲間の傷を癒す。


 戦いながら、俺たちは王宮を突き進んでいく。


 中庭、謁見の間、回廊──次々と立ちはだかる魔物たちは、明らかに階層が深くなるごとに強くなっていた。

 

 中でも苦戦したのは、玉座の間の手前に現れた「黒鉄の巨人」だった。

 全身を重厚な黒鋼で覆い、雷を纏って突進してくる巨体。


 「こいつはマズい……! まともに受けるな!」

 俺が叫ぶと、ベルンが横から盾で弾き、レオンが飛び込む。


 「《断空剣・裂閃》ッ!!」

 レオンの技が巨人の胴体を斬り裂くと、内側から爆発的な魔素が漏れ出した。


 「ヴェル! 今だ、封印魔法を!」

 「《虚鎖結界・展開》ッ!」


 連携によってようやく黒鉄の巨人を倒した俺たちは、荒い呼吸のまま玉座の間へと踏み込んだ。


 そこには、玉座の後ろに隠された古の階段が待っていた。

 

 「ここが……地下へ続く本当の入り口」


 レオンが剣を収め、振り返る。


 「下に行くごとに敵はさらに手強くなる。覚悟はあるか?」


 俺たちは、無言で頷いた。

 この連戦は、まだ始まったばかりだった。


 ──地下の闇は、いよいよ牙を剥こうとしていた。



 

 地下階段の前。俺たちはひとまず、立ち止まった。


 「ここが……地下施設への入口だ」

 レオンが静かに呟いた声は、どこか硬い決意を含んでいた。


 戦いを重ねた体は重く、痛みがそこかしこに残っている。ベルンの腕は血に滲み、ヴェル・カーティスの呼吸は浅い。俺も無理がたたって、膝が震えていた。


 そんな中、美優がそっと前に出た。


 「みんな、座って。……このまま進むのは無理。少しだけ、癒す時間を」


 彼女の手が胸元の聖印へと添えられた。

 その瞬間、ふわりと空気が柔らかく変わる。金色の粒子が舞い、聖なる光が辺りを優しく包んでいく。


 「聖なる光よ、命の息吹よ──癒えぬ傷を静めたまえ」


 その祈りと共に、温かな波動が全身を包み込んだ。

 痛みが引き、傷口が塞がり、荒れていた心が不思議と落ち着いていく。


 「……っ、すげぇ。まるで温泉に入ったみたいだ」

 ベルンが目を見開き、のびをしながら笑う。


 「神の祝福ってやつか。……まったく、昔の俺には似合わなかったもんだ」

 レオンは皮肉めいた口調ながらも、ほんの少し微笑んでいた。


 ヴェルは手を見つめながら感嘆した。

 「ただの回復じゃない。精神まで癒やされていく……君の力は、聖女の名にふさわしい」


 美優は微笑みながら首を横に振った。

 「私は……誰かに生きていてほしいって、ただそれだけを思っていただけ」


 俺はその言葉に胸を打たれ、彼女の隣に座ると小さく呟いた。

 「その“ただ”が、どれほどの力になるか……俺たちは知ってる」


 ふと、美優の瞳が俺を見つめた。その中にある静かな覚悟と、柔らかな光が、なぜか心地よかった。


 「大丈夫。これから先も、ずっと一緒だよ」


 その言葉に、俺の中で何かが強く灯った。


 ここから始まる、本当の戦い。

 それでも、信じ合える仲間がいる。


 俺たちは立ち上がった。

 癒された体と心を抱えて、暗き地下階段を見つめる。


 その先に待つのは、かつての仲間──アルセリスとの再会。

 だが今度は、過去の絆だけでは終わらせない。


 誰かを救うために、そして自分自身のために──。

 聖女の祈りが、俺たちを再び立ち上がらせてくれた。



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