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完結『元エリート刑務官、転移先は異世界のブラック監獄!? 下っ端スタートから囚人たちと更生改革します!』  作者: カトラス


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第42話『再会と再出発──聖女との誓い』


 俺──眞嶋隼人が知らなかった、もうひとつの“死”と“転移”の物語。

 あの優しく、そして静かな瞳をした女性──綾瀬美優が、いかにしてこの異世界で『聖女』と呼ばれる存在となったのか。


 ──それは、俺が刺されて死んだ、その翌年のことだった。


 ある夜、監獄島の片隅、美優とふたりで焚き火を囲んでいたとき。

 静かな炎の揺らめきの中で、彼女はぽつりと語り始めた。


「……私がこの世界に来たのは、あなたがいなくなった少しあとだったの」


 そう言って、美優は空を見上げる。


「その頃、日本では謎のウイルスが広がってた。最初はただの風邪みたいなものって言われてたけど……気づいた時には手遅れだった」


 原因不明の感染症が都市部を中心に急速に蔓延。

 医療現場は疲弊し、次第に社会機能も麻痺していった。


「私は、看護師を辞めたあと、ソーシャルワーカーをしてたの。独居のお年寄りを訪ねたり、家族がいない人のところに食事や薬を届けたり」


 ──だが、ある訪問先で、その“ウイルス”は彼女を捉えた。


「感染したって気づいたときには、もう……熱が出てて、体も動かなくて。病院に行っても、ベッドはいっぱいだった」


 彼女のように若く健康だった者ですら、もはや優先されない。

 誰も責められない、それでも──残酷だった。


「病室でひとり、ずっとあなたのことを考えてた。最期に見たのも、あの時あなたがくれた言葉だった」


 ──美優は、静かにこの世を去った。

 だが、その魂は完全には消えなかった。


「気がついたら、黄金色の霧の中にいて……声がしたの。“あなたの祈りは、終わらせるには惜しい”って」


 それは召喚ではなかった。“選定”だった。

 この世界の神々が、絶望の中で人を癒そうとした彼女の意志に、希望を託したのだ。


「気づいた時には、この世界の神殿にいたの。白い衣を着せられて、聖女って呼ばれて……」


 彼女は静かに笑う。

 だがその微笑みの奥に、確かな悲しみと決意があった。


「でも、ずっと願ってたの。もしもこの世界で、もう一度あなたに会えるなら、今度は……私も隣で戦いたいって」


 俺はその言葉に、胸が締めつけられた。

 彼女が生きていたことに、そして、その命の代償に異世界へ来たという事実に。


 ──そうして、綾瀬美優は“聖女”となった。

 俺が知らなかった、もう一つの人生。

 彼女が歩んできたその道の果てに、今、こうして再び交差した。


 俺は誓った。

 もう二度と、彼女をひとりにしないと。


 ──それが、“聖女”綾瀬美優という存在の、もう一つの始まりだった。



 夜明け前の監獄島は、奇妙な静けさに包まれていた。

 前夜の緊急会議で帝都壊滅の報せが伝えられたばかりだというのに、まるで嵐の前のような空気。


 俺──眞嶋隼人は、中央管理棟の屋上でひとり、蒼白の空を見上げていた。


 足音を忍ばせて現れた彼女の気配に、自然と振り返る。

 

「……早いんですね、隼人さん」


 振り向いた先には、白銀の神官衣をまとった綾瀬美優がいた。

 その姿はまるで、暗闇の中に灯る祈りのようだった。


「眠れなかっただけさ。そっちは?」


「私も……。まさか、こんな形で再会するとは思いませんでした」


 微笑みながらも、美優の瞳には揺らぎがあった。

 俺もまた、気持ちは同じだった。


 異世界に転移してからの日々、理不尽と暴力の渦中で、彼女の顔がふと脳裏をよぎることが何度あっただろう。

 日本での記憶。刑務所で看守を務めていた俺と、近隣の総合病院で看護師として勤務していた美優。


 移送業務や治療が必要な受刑者の付き添いなど、互いに職務上で何度か接点があった。

 そのたびに、美優は誰よりも優しく、冷静に職務をこなしていた。


 ──そして今、彼女は異世界で『聖女』と呼ばれる存在になっていた。


「……あの頃から、あなたは何も変わってませんね」


 不意に美優が呟く。


「また誰かを守るために、無理をしている顔です」


 俺は苦笑いを浮かべた。


「お前もな。あの頃と同じ、いや……それ以上に立派だ」


「立派なんて……ただ、必死なだけです」


 ふと、沈黙が落ちる。

 だがその沈黙は、気まずさではなく、言葉にできない感情を分かち合うものだった。


 ──そして俺は、決意を伝える。


「帝都に、潜入する。現状をこの目で見て、何が起きたのか確かめたい。生き残ってる者がいれば、助けたい」


 美優は目を見開いた。


「危険です。でも……」


 彼女は深く息を吸い、頷く。


「私も、行きます。癒しの術だけじゃありません。情報を集める術も学びました」


「戦う覚悟は、あるか?」


「あなたと共にあるなら……きっと、超えられる」


 彼女の言葉に、胸の奥が熱くなる。


 この瞬間、ただの元看守と元看護師ではなく、仲間として、戦う者として、同じ未来を目指す者として──

 

 俺たちは、再出発したのだ。


 その日、中央管理棟では新たなパーティ編成の最終調整が行われていた。

 隼人、レオン、ヴェル・カーティス、ベルン、そして聖女・美優。


 勇者、看守、魔導士、囚人、聖女。

 この奇妙な混成チームが、帝都潜入という危険な任務に挑むことになった。


 会議の終盤、クルスが言った。


「帝都潜入における最大の障壁は“統率された魔物”の存在だ。そこに理性がある限り、戦略がある。勝機はその“中枢”を突くことにある」


 俺は、視線を仲間たちに向ける。


「そのために俺たちは行く。帝都の真実を暴くために。そして……未来のために」


 誰もが無言で頷いた。


 その夜、ガランツァには再び、静寂が訪れた。

 だがそれは、希望のための沈黙だった。


 ──再会から始まる、新たな戦いの幕が開こうとしていた。



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