表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
完結『元エリート刑務官、転移先は異世界のブラック監獄!? 下っ端スタートから囚人たちと更生改革します!』  作者: カトラス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/62

第34話『蘇る英雄──口の悪い勇者、レオン覚醒』

 中央空間に満ちる静寂の中、俺──眞嶋隼人は、封印された人物の前で立ち尽くしていた。

 空気がひやりと冷たく、どこかで、誰かの声が囁いているような錯覚に包まれる。


「今、目覚めさせなきゃ……間に合わないかもしれない」


 その囁きに突き動かされるように、俺はそっと手を伸ばした。

 石柱の中に眠るのは、かつてこの世界で魔王を討伐したとされる伝説の勇者──レオン=グレイアッシュ。


 リヴェルの補助魔法で術式が活性化され、石化の封印が解かれていく。


「レオン=グレイアッシュ……。俺たちの世界が、またお前の力を必要としている」


 そう告げた瞬間、淡い光が空間を満たし、封印石が砕け散った。


 そしてそこに現れたのは、銀灰色の短髪に鋭い双眸を宿す青年。

 その第一声は──


「……あー、くっそ体いてぇ。誰だよ、勝手に起こしたのはよ」


「えっ……」


 ナナが目を丸くする。


「おい、あんた、ここがどこだかわかってるのか? あんたは──」


「監獄島ガランツァ、だろ? わかってるさ。まだ潰れてなかったのか、このクソみてぇな島」


 言葉遣いも態度も悪い。開口一番、罵詈雑言のオンパレード。


「……これが伝説の勇者?」

「想像してたのと違いすぎる……」


 仲間たちがざわつく中、レオンは全身を伸ばしながらあくびをかみ殺した。


 だが次の瞬間、空間の魔素がざわつく。

 その身から発せられる魔力の波動は、規格外の圧力を周囲に放っていた。


「っ……来るぞ!」


 リヴェルが叫んだ直後、ダンジョン奥から異形の魔物が突進してきた。

 巨大なオーガだ。体躯三メートル、黒紫の皮膚に血走った目。鈍器のような腕を振り上げ、咆哮を上げて迫ってくる。


「チッ……しょうがねぇな」


 レオンが片手をかざす。瞬間、空気が揺れ、光と音が同時に炸裂した。

 火炎と雷撃の複合魔法がオーガを貫き、床に巨大な亀裂を走らせる。

 魔物は一瞬で焼け焦げ、灰と化した。


 詠唱なしで放たれる高等魔法。まさしく“勇者”の実力だった。


「お前ら、下がってろ。雑魚処理くらい、寝起きでも余裕だ」


 レオンの声には苛立ちが混じっていたが、その姿に誰もが息を呑んだ。


「……やっぱり、あれがレオン=グレイアッシュ」


 ジリアが静かに呟いた。


 戦いの後、レオンは肩を竦めて俺を見た。


「まったく、誰が俺を起こしていいって言ったんだか。……ま、状況が状況なら仕方ねぇか」


「レオン。君は、もう一度この世界のために戦ってくれるか?」


 俺は真剣に問いかける。


 レオンはじろりと俺を睨んだ。


「俺は正義の味方じゃねぇ。ただ……納得いかねぇことを見過ごせない性分なんだよ」


 そして口元を吊り上げた。


「魔王? 魔物? 帝都? ……いいぜ、ひと暴れしてやるよ」


 その瞬間、監獄島に新たな嵐が舞い降りた。

 封印された伝説は、ついに覚醒したのだ。


 そして彼は、俺の前に立つと言った。


「で、お前──隼人って言ったか。面白ぇ魔素してんな……。お前、異世界から来た口だろ?」


「えっ……!?」


 その一言に、俺は言葉を失った。


「俺がどれだけ魔力の変質を見てきたと思ってんだ。お前の魂の匂いは、こっちの世界のもんじゃねぇよ。ま、悪いことは言わねぇ……覚悟だけはしとけ。戻れねぇってことは、な」


「……俺はもう、戻る気なんてないさ。この世界で、やるべきことがある」


 レオンはしばし黙り、そして口を開いた。


「そうか……じゃあ、教えてくれ。今、この世界はどうなってる?」


「帝都が──魔物に襲われた」


 俺は重く、だがはっきりと言った。


「査察官たちが命からがら逃げ戻ってきた。帝都は壊滅的な被害を受けてる。だからこそ、今、君の力が必要なんだ」


 レオンの表情がわずかに険しくなる。


「……そうか。魔王どもがまた好き勝手やってやがるのか。いいぜ。久々に、本気で暴れるとするか」


 レオン=グレイアッシュ。

 その口は悪い。だがその目は、本物の英雄の目をしていた。


 この出会いが、俺たちの運命を大きく動かしていく──。


 ※補足:この世界では魔力は空気中の“魔素”という粒子を媒介して発動する。魔素の質や色、反応速度は生まれ育ちや魂の由来によって左右されるため、異世界から来た者は“匂い”や“性質”で判別できることがある。レオンは長年の戦いの中で、その違いを見抜く眼を持っていたのだ。



第二章〜第三章】追加登場人物紹介


◆クルス・ミラージュ(Crus Mirage)

帝国直属査察官。

29歳/人間/男性

通称:「鉄面の処刑官」

冷徹で完璧主義。更生や情に価値を見出さず、「数字と実効性」こそが監獄運営の本質と考える男。隼人が異世界からの転移者であることにも早々に気づく慧眼の持ち主。

その一方で、誰よりも矛盾のない改革を求める姿勢は、ある意味では最も純粋な理想主義者でもある。


◆リヴェル・アステール(Rivel Astaire)

魔導士/看守補佐/“ソーサラー選抜支援員”

26歳/人間/男性

温和な性格だが実力は本物の中級魔導士。ナナの魔力素質を見抜き、回復術を教えた恩人でもある。

魔法理論と実技を冷静に解説する頭脳派で、レオンに強い尊敬の念を抱いている。


◆レオン=グレイアッシュ(Leon Greyash)

かつて魔王を討伐した伝説の勇者。

??歳/人間(人外級)/男性

銀灰色の髪と鋭い目を持つ、口の悪い無頼漢風の英雄。剣と魔法の両方を極めた万能型。現在は自らの命を長らえるため、封印術式で“石化眠り”の中にあったが、隼人の呼びかけにより復活。

圧倒的な戦闘力とカリスマ性を持つ一方で、人に媚びることを極端に嫌う。「正義の味方じゃねぇ」と言いつつ、筋の通らぬ理不尽を嫌う性格。


◆ヴェル・カーティス(Vel Curtis)

魔法研究者/元王立学院所属の魔導士

30代半ば/人間/男性

文献の整理中にメルクが発見した古地図を読み解き、“地下ダンジョン”の存在を裏付けた知識人。

監獄に出入りしていた記録管理者だったが、実は帝都の裏の命令で「封印保持者」としてレオンの監視役を兼ねていた人物。


◆スケルトン化した元看守(名無し)

名前不明。

数年前、地下の調査任務で消息を絶った看守。ダンジョンに棲みついた魔物に取り込まれたことでアンデッド化し、中央部の前で探索者を襲う存在となっていた。隼人たちにより戦闘の末、安らかな眠りへと還された。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ