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完結『元エリート刑務官、転移先は異世界のブラック監獄!? 下っ端スタートから囚人たちと更生改革します!』  作者: カトラス


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第32話『誰も戻らぬ地下へ──探索開始』

 夜明け前。ガランツァの空は薄闇に包まれていた。

 だが、その静けさとは裏腹に、俺たちの胸はざわついていた。


 地下──“特別収容区画”。

 そこは、長らく封印され、誰も足を踏み入れなかった監獄の最深部。

 魔物の棲家とも、伝説の勇者が眠る地とも言われる空間。


 俺、眞嶋隼人を先頭に、ナナ・ユリエル、ベルン・タルカ、ジリア、ルーク、そして新たに選抜された魔導士ヴェル・カーティスが静かに並んでいた。


 今回の地下探索に先立ち、俺たちは装備と役割を分担していた。


「これが……地下か。空気の重さが違うな」


 俺は帝国式の革鎧に、看守用の標準剣──魔力が微量に帯びた剣を携えていた。

 ナナは軽装の布鎧に、警棒と補助魔導石を装備。今回、ヴェルから基礎的な回復呪文『リジェネ・ライト』を学び、ソーサラーの才を活かせるようにしていた。

 ベルンは盾と棍棒を手にし、頑丈な鎖帷子を纏っている。体格に似合わぬ繊細な動きも可能だ。

 ジリアは短剣と投擲用の刃を数枚忍ばせ、冷静な戦術指揮も担う。

 ルークは長柄の矛を装備し、中距離での抑え役を果たす。

 そしてヴェルは、ローブに魔導書、魔力増幅杖を携え、魔法支援と知識による分析を担当していた。


「この数日、私も急いで準備しました。魔物の出現は、もう無視できない現実ですから」


 ヴェルの声は静かで冷静だったが、その目には強い意思があった。


 地下への入り口は、D棟の裏手にある封鎖された鉄扉だった。

 鍵はクルスが手配し、所長・ガルバが渋々ながらも許可を出してくれた。


 扉を開けた瞬間、湿り気を帯びた冷気が肌を這った。


「くっ……」

 ナナが無意識に袖を掴んできた。

 俺は無言でうなずき、全員に合図を送る。


 階段は急で、何十段も続いた。

 壁には苔が這い、古い魔法の封印陣の名残が浮かび上がっている。


「……ここ、本当に監獄の一部なのか?」

「いや……まるで、別世界だな」


 ジリアとベルンの言葉に、俺も心の中でうなずいた。


「見てください、ここ……何か、巨大な爪痕が」

 ジリアが懐中灯を当てた先の壁には、鋭く削り取られたような跡が走っていた。


「魔物……本当にいるんだな」

 ベルンの声は低く、だが震えてはいなかった。


「注意して。音一つでも大事な手がかりになるわ」

 ナナが警戒するように言った。


「まずは集中して。呼吸を整えて……はい、“リジェネ・ライト”。小回復だけど、練習には丁度いい」

 ヴェルがそう言い、ナナはぎこちない手つきで印を結んだ。


 淡い緑光が手のひらに灯り、わずかな癒しの波動が空気に混じった。


「……できた、かも?」

「うん、素質はあるよ。あとは実戦で磨けばいい」


 そして、階段を下りきった先に現れたのは、巨大な鉄格子で封鎖された“中央空間”だった。


 天井には古い封印灯が淡く灯り、空間全体に青白い光が滲んでいた。

 その中央には、一つの“棺”のような石像が静かに鎮座していた。


「あれが……レオン=グレイアッシュ……」


 かつて魔王を倒した勇者。今は自ら石化の呪いを施し、生命維持のために眠っているという男。

 だが、その棺に近づこうとした瞬間だった。


「……あの奥、動いてるわ」

 ナナの声が、鋭くなった。


 次の瞬間、鉄格子の向こうから、ぬるりと這い出てくる影が現れた。

 壁の表面にへばりついていたのは、黒く光る粘液状の魔物──スライムだった。


「スライム!? こいつ……攻撃的だ!」

 ルークが叫ぶ。


 続いて、奥の通路から低く唸るような声が響いた。

 姿を現したのは、野生化した犬が変異したような二足歩行の魔物──ウルフ。


「……あれはもう、ただの野生獣じゃないな」

 ベルンが盾を構えた。


「構えろッ!!」


 俺たちは一斉に武器を抜いた。

 光の届かぬ影の中から、次々と現れる異形たち──牙を持ち、腐敗した皮膚をまとった魔物たち。


「ヴェル! 魔法で後方支援を!」

「了解、魔力展開します……『フリーズ・バインド』!」


 蒼い氷鎖がスライムを封じ、ウルフの足を鈍らせる。

 ベルンが前に出て盾となり、ジリアが即座に指示を飛ばす。

 ナナも震えながらも、教えられたばかりの呪文で小さな光を放ち、仲間の傷を癒そうとしていた。


 俺は剣を構えながら──この先にあるであろう“真実”と“希望”の在り処を見据えた。


 ──俺たちは、もう引き返せない場所に足を踏み入れたのだ。


 誰も戻らぬ地下へ。

 今、探索が始まった──。



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