表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
完結『元エリート刑務官、転移先は異世界のブラック監獄!? 下っ端スタートから囚人たちと更生改革します!』  作者: カトラス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/62

第9話 囚人たちと更生作戦スタート! 雑用室が更生拠点になりました

 提案した“俺流監獄ルール”は、思いのほか好意的に受け止められた。


 だが、それを実行に移すには場所が必要だった。どこか、囚人たちと看守が顔を突き合わせて、真剣に話し合える場所。さすがに食堂では無理があるし、房の中でやれば逆に警戒される。


 そこで目をつけたのが、使われていない古びた雑用室だった。


 ──雑用室の使用許可を得るため、俺は所長室に足を運んだ。


「所長、この資料室の件ですが……少し使わせてもらえませんか?」


 ガルバ・ドラン所長は椅子にふんぞり返ったまま、ぐいっと鼻を鳴らした。


「雑用室? ああ、あのボロ屋か。どうせ誰も使っちゃいねえし、ネズミの巣になっとるくらいだ。……勝手に使え」


「ありがとうございます。ただ、これはD棟内での生活改善の一環として活用したくて……」


「改善だぁ? まあ、好きにやりゃあいい。だが報告なんぞいらんからな。余計な書類が増えると俺が迷惑する」


「もちろんです。ただ、問題が起きた場合は責任を持ちます」


 所長は一瞬だけ顔をしかめた。


「おい、まさかクルスの耳に入るようなことじゃねぇだろうな?」


「……ええ。査察官が来る前に、少しでも状況を整えておきたいだけです」


「ふん、クルス……あいつが来ると面倒なんだよな。全部数字で斬って捨てやがるからな……ま、やれ。ただし、勝手な真似はするなよ」


 ドラン所長が口にした“クルス”──帝国査察官クルス・ミラージュの名は、この監獄では忌避の対象だ。冷酷無比な数値主義で知られ、現場の情や事情には一切耳を貸さない。『矯正など幻想』『人材も施設も効率と成果がすべて』と豪語し、容赦なく改革を断行してきた。


 監獄島ガランツァにも過去何度か視察に現れ、そのたびに複数の看守と囚人が左遷・移送されたという噂すらある。


「アイツに睨まれたら、看守人生終わりって話もあるくらいだぞ……」


 所長がぼそりと吐き捨てた。


「心得ています」


 礼を述べてその場を後にし、すぐさま雑用室へと向かった。


「ここ……使っていいんですか?」


 メルクが埃を払いながら、ぽつりとつぶやいた。


「ああ。所長に申請して許可はもらった。というか、放置されてる場所だから誰も気にしちゃいないさ」


「俺も知らなかったな、ここ。こんな場所、まだ残ってたのか」


 ジリアが古びた棚を指でなぞりながら呟いた。


「もともとは記録室だったらしい。古い書類とか、壊れた備品とかが山積みでさ。とりあえず、掃除から始めよう」


「掃除? ならオレの出番だな!」


 ベルンが意気揚々と袖をまくり、モップを構えた。


「それじゃあ、俺はこの棚を整理してみるよ」


 メルクがそろそろと手を動かし始める。


「じゃ、俺は……休憩係でもやるか?」


 ジリアが肩をすくめる。


「サボる気満々だな」


 俺は苦笑しながらも、どこかその空気に救われていた。


「この部屋を“更生拠点”にしよう。正式には“D棟協力室”……とか名付けて、ここを中立地にする」


「協力室? それ、意外と悪くないネーミングじゃん」


「“D棟改革委員会”よりは親しみあるな」


 ジリアがからかい気味に笑う。


「俺たちは、ただ反抗するためにいるんじゃない。何かを“築く”ために、ここにいるんだと……そういう場所にしたい」


 そのとき、控えめに拍手の音が響いた。それはナナだった。


「本気で、変えようとしてるんですね。……隼人さんが、来てくれてよかった」


「ナナ……ありがとう」


 ナナは、どこか照れくさそうに微笑んでいた。


 雑用室──いや、“協力室”には、少しずつ椅子と机が集まり、小さな掲示板が立てられた。


「これ、貼っておきますね」


 メルクが持ってきた紙には、こう書かれていた。


【今週の取り決め:洗濯係ベルン、掃除係メルク、見回り支援ジリア】


 担当を決めた理由は単純だった。それぞれの得意分野を活かし、無理なく始められるようにするためだ。


 ベルンはもともと囚人時代から几帳面で、衣類の整頓にうるさいことで有名だった。


「洗濯係なんて、俺の趣味みたいなもんだ。干し方にはこだわりがあるからな」


 彼のこの一言で、皆がどっと笑った。


 メルクは素直で丁寧な性格。細かな掃除作業にはぴったりだった。


「こういうの、僕……昔の店でも毎朝やってたから、慣れてます」


 ジリアは──本人が渋い顔をしていたが、機転が利き、場を読むのが得意だった。見回り支援は、最初は補助役としての位置づけだ。


「まあ……どうせやるなら、楽しくやらせてもらうさ」


「……なんか、すげぇちゃんとしてる」


 ジリアが半ば呆れたように言った。


「始めたばかりだ。これからだよ」


「ま、どこまで続くか見物だな」


「見てろよ、ちゃんと形にするから」


 俺は、胸の中で小さく拳を握った。


 こうして、D棟に小さな“秩序”の種がまかれた。


 それは、まだ誰にも気づかれていない小さな希望。


 でも、俺たちは確かにその一歩を踏み出したのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ