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蟲たち

〈みどりの日姿晦ます日曜日 涙次〉



【ⅰ】


「市民サン=ジュスト」は亡靈となつても、隠微な影響力を魔界に及ぼしてゐた。しかし、所詮亡靈は亡靈である。その力の足りない事は、火を見るよりも明らかであつた。彼が使ひ魔として、コレクトしてゐる【魔】の質を見ればわかる。


 例へば、偽カンテラ。カンテラの剣術の能力や、怜悧な頭脳さへもコピーしてゐるのであれば、まあ偽物として合格點であらうが、この【魔】は、たゞ外見だけがカンテラのそつくりさんで、中身は惰弱な普通の「はぐれ【魔】」である。こんなふうに、「兵隊」に不足してゐるサン=ジュストの姿は、嘗ての権勢から云つて悲しむべきものがあつた。


 然し、「要は用兵次第だ」と、サン=ジュスト、希望(?)は失つてゐない。こいつ(偽カンテラ)を使つて、一つカンテラを怒らせてみやうではないか! 亡靈となつても、やはりカンテラが第一の敵である事は、前回証明濟み。



【ⅱ】


「みどりの日」、日曜日は生憎曇り空が廣がつてゐて、お散歩日和とは云へなかつた。悦美、ベビーカーに乘せた君繪を連れて、公園まで- ちようどそこをカンテラが通つた。「カンテラさん、押してみる?」カンテラは何だか曖昧な微笑みを浮かべた儘、ベビーカー押し役を替はつた。と、


 カンテラやにはに走り出した。悦美、啞然。だがさうさう啞然とはしてゐられぬ。「ち、ちよつとカンテラさん」-さう、今君繪のベビーカーを押して(そして走つて)ゐるのは、「偽カンテラ」-勿論、サン=ジュストの放つた- なのである。


 結局、魔界の入り口(こゝ、中野區野方にもある)に辿り着いた「偽カンテラ」は、魔界へと、君繪を拐帯してしまつた。魔界の脅威など構はず追ふ悦美。サン=ジュスト、殊更喜んだ、と云ふ。一子・君繪だけでなく、美しいマダムまでも付いて來た。これは、俺は、ツいてゐるぞ!!



【ⅲ】


 云ふ迄もなく、悦美は捕縛されてしまふ。スマホも取り上げられた。ピンチ。カンテラが呼べない!!

「マダム、如何です? 初めての魔界は」亡靈だと聞いたサン=ジュスト、さすがにその像は霞んでゐる。悦美、彼の問ひには答へず、「その内『シュー・シャイン』が、カンテラさんに教へてくれるわ」と、飽くまで強氣。


「この女、カンテラの美しい妻女・悦美を『祭壇』にし、黑ミサ... 俺に、蘇りの目が出てきた! これは本当にラッキー」喜びを隠せぬサン=ジュストである。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈國民の休み方見るだらだら派しやきしやき派抑へトップを取りぬ 平手みき〉



【ⅳ】


 で、本当に「シュー・シャイン」は現れた。今回は、悦美の前を憚つて、蜘蛛の姿である。悦美の耳元で、「カンテラ様を直ぐにお呼び致します。悦美様には暫しのお待ちを」「あら、ありがと」「しつ! 聞かれたら元も子もない。では」


 ごきぶり型に戻つた「シュー・シャイン」から、一報を受けたカンテラ、珍しく逆上した。「サン=ジュストめ... 地獄、見せてやるぜ」


 カンテラ、蜜蜂の一群を呼んだ。魔導士としては初歩の魔術である。そして、かれらに「或る」スプレーを掛けた。このスプレーで、亡靈の漂ふ幽界の者に、彼ら蜜蜂はなつたのである。魔導士・カンテラの面目躍如であつた。



【ⅴ】


「よお、サン=ジュスト。今日は手土産があるぜ」と、魔界のカンテラ。「偽カンテラ」の方は、じろさんが既に片付けてゐた。「土産、だと?」カンテラがぱちり、と指を鳴らす、と、蜜蜂軍、幽界に棲み実體を持たぬサン=ジュストだつたが、例のスプレーの効果で、彼を刺しまくつた。「ぐ、イタ、イタゝゝ!! 何故実體化せぬ俺が刺せるのだ...?」蜂攻撃で、文字通り「地獄を見た」サン=ジュスト、スタイリストの彼は、ぼこぼこになつた顔を愧ぢて、長期間に渉り、魔界干渉を已めた。そして已めてゐる内に、すつかり忘れ去られてしまつた、と云ふ。



【ⅵ】


 いつだつたか、ジョーイ・ザ・クルセイダー退治の為 *、蜜蜂使役の術は、かつても使つた。今回のは、それにちよつと捻りを加へたもの。

 動物を使ふ自然魔法は、魔導士の基礎。基礎は大事に、と云ふのが、カンテラの座右の銘。


 例のスプレーについては秘密。内緒の部分がないと、魔導士、續かぬ。


 今回は、仕事料は附帯しなかつた。まあ、君繪と悦美さんの為なら仕方ないか、ぼんやり、カンテラはさう思つた。「君繪、いつだつて父ちやんがついてるからな」-「ぱあぱ、ぱあぱ」紅葉のような掌を開いて、君繪、上機嫌である。「たまに刺激になつて、いゝのかな? 魔界も」ちやんちやん。



* 当該シリーズ第47話參照。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈大東京みどりの津波襲ふとき 涙次〉



 お仕舞ひ。


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